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王家主催の夜会の日がやってきた。
メリッサの目論んだ通り、ユキはその日の夜会の華だった。
「優しい雰囲気が伝わってくる、とても素敵な絵でした」
メリッサがさまざまな場所に連れまわして教養を身につけさせただけのことはあった。
ユキは声をかけてきた者たちと、自然な流れで会話を続けている。付け焼刃ではあるが、今のところは持ち前の愛嬌で乗り切れている。
「まあ、殿下!」
たくさんの人に囲まれているユキのところに、王子が姿を見せた。ユキは目を輝かせて彼の元へ駆け寄っていく。
「驚いたな、随分と様子が変わった。そのドレスもよく似合っているぞ」
王子がユキに笑顔を向ける。メリッサは心の中で勝利の雄叫びを上げた。
これで王子の好意はユキに向いたと安堵する。
「えへへ。実はメリッサがアドバイスをしてくれたのです」
「ああ、そういうことか。その生地はまだ国内で流通していないはずだからな。……これは外務の差し金か?」
ユキが壁の花を決め込んでいたメリッサの腕を掴んで、王子の元へ連れて行く。
メリッサは余計なことはしないでくれと思いつつも、王子の前に立つと笑顔をつくった。
「私の目に狂いはなかったな」
王子のこの台詞に、メリッサは彼がユキに惚れ直したのだと確信した。
だからまた油断をしてしまった。
気がついたときには、王子の顔が目の前にあった。
「残念だったな。せっかくいろいろと立ちまわっていたようだが、すべて無駄だったようだ」
王子が口の端をあげてにやりと笑った。
メリッサはどういうことかと、すぐに王子へ問いかけようとした。しかし、口づけされたことで動揺してしまい、うまく言葉が出てこなかった。
「ちょっと悔しいけど、殿下にはメリッサの方がお似合いだと思うな」
メリッサが動けなくなっている隣で、ユキが愛らしい笑顔で手を叩きながらそんなことを言った。
そのユキの言葉に賛同するように、周囲にいた人々から拍手が起こる。
「未来の王妃にふさわしい見事な手腕だったな」
王子が満足げにしみじみとつぶやきながら、以前と同じように周囲を見るように促してくる。
「皆もお前が私と結ばれることを望んでいるぞ?」
「……う、嘘。どうしてこんなことに……」
メリッサはユキを王子にふさわしい女性にしたつもりだった。
しかし、そのせいで自分が未来の王妃として申し分ない人物なのだと、周囲の者に認めさせる結果となってしまっていた。
ユキは周囲がいくら言い聞かせても、王家にふさわしい教養どころか聖女としてのあり方すら学ぼうとはしてこなかった。
そんな気難しいユキを、メリッサは短期間で人前に出しても問題のない淑女に育てた。
ユキの周囲に集まっていた人々は、そのことを確認していただけにすぎないのだということにようやく気がついた。
「逃げたいと思うならそれでもよい。もっとあがいてこれからも私を楽しませてくれ」
王子はメリッサの腰に手を回し、抱き寄せてから耳元で囁く。
メリッサは自分の計画が失敗に終わったことを悟った。
「絶対に逃げ切ってみせますわ。今度は絶対に失敗いたしません!」
「あはは! 楽しみにしているぞ」
メリッサは王子の腕の中で彼を睨みつけた。すると王子は機嫌良さそうに笑う。
メリッサはこれからも苦難の日々が続くのだと覚悟を決めて、とびっきりの笑顔を浮かべた。
――――――――――――
これにて終了でございます。
最後までお付き合いくださいました皆さま、ありがとうございます!
本当にありがとうございます‼
もしよろしければ、今後の参考にしたいのでご感想などいただけますとすごく嬉しいです。
それでは、失礼いたします。
2022/11/26
メリッサの目論んだ通り、ユキはその日の夜会の華だった。
「優しい雰囲気が伝わってくる、とても素敵な絵でした」
メリッサがさまざまな場所に連れまわして教養を身につけさせただけのことはあった。
ユキは声をかけてきた者たちと、自然な流れで会話を続けている。付け焼刃ではあるが、今のところは持ち前の愛嬌で乗り切れている。
「まあ、殿下!」
たくさんの人に囲まれているユキのところに、王子が姿を見せた。ユキは目を輝かせて彼の元へ駆け寄っていく。
「驚いたな、随分と様子が変わった。そのドレスもよく似合っているぞ」
王子がユキに笑顔を向ける。メリッサは心の中で勝利の雄叫びを上げた。
これで王子の好意はユキに向いたと安堵する。
「えへへ。実はメリッサがアドバイスをしてくれたのです」
「ああ、そういうことか。その生地はまだ国内で流通していないはずだからな。……これは外務の差し金か?」
ユキが壁の花を決め込んでいたメリッサの腕を掴んで、王子の元へ連れて行く。
メリッサは余計なことはしないでくれと思いつつも、王子の前に立つと笑顔をつくった。
「私の目に狂いはなかったな」
王子のこの台詞に、メリッサは彼がユキに惚れ直したのだと確信した。
だからまた油断をしてしまった。
気がついたときには、王子の顔が目の前にあった。
「残念だったな。せっかくいろいろと立ちまわっていたようだが、すべて無駄だったようだ」
王子が口の端をあげてにやりと笑った。
メリッサはどういうことかと、すぐに王子へ問いかけようとした。しかし、口づけされたことで動揺してしまい、うまく言葉が出てこなかった。
「ちょっと悔しいけど、殿下にはメリッサの方がお似合いだと思うな」
メリッサが動けなくなっている隣で、ユキが愛らしい笑顔で手を叩きながらそんなことを言った。
そのユキの言葉に賛同するように、周囲にいた人々から拍手が起こる。
「未来の王妃にふさわしい見事な手腕だったな」
王子が満足げにしみじみとつぶやきながら、以前と同じように周囲を見るように促してくる。
「皆もお前が私と結ばれることを望んでいるぞ?」
「……う、嘘。どうしてこんなことに……」
メリッサはユキを王子にふさわしい女性にしたつもりだった。
しかし、そのせいで自分が未来の王妃として申し分ない人物なのだと、周囲の者に認めさせる結果となってしまっていた。
ユキは周囲がいくら言い聞かせても、王家にふさわしい教養どころか聖女としてのあり方すら学ぼうとはしてこなかった。
そんな気難しいユキを、メリッサは短期間で人前に出しても問題のない淑女に育てた。
ユキの周囲に集まっていた人々は、そのことを確認していただけにすぎないのだということにようやく気がついた。
「逃げたいと思うならそれでもよい。もっとあがいてこれからも私を楽しませてくれ」
王子はメリッサの腰に手を回し、抱き寄せてから耳元で囁く。
メリッサは自分の計画が失敗に終わったことを悟った。
「絶対に逃げ切ってみせますわ。今度は絶対に失敗いたしません!」
「あはは! 楽しみにしているぞ」
メリッサは王子の腕の中で彼を睨みつけた。すると王子は機嫌良さそうに笑う。
メリッサはこれからも苦難の日々が続くのだと覚悟を決めて、とびっきりの笑顔を浮かべた。
――――――――――――
これにて終了でございます。
最後までお付き合いくださいました皆さま、ありがとうございます!
本当にありがとうございます‼
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