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 失敗した。
 これは取り返しのつかないことになったと、メリッサは全力で頭を働かせている。

「これで君は私のものだ」

 そんなメリッサの心を見透かしているのか、目の前で男が怪しく笑う。
 メリッサは動揺を隠してにこりと微笑み返し、自分の頬に触れている男の手をそっとおろした。

「まあ、ご冗談はおやめくださいませ殿下」

 噂話は嫌と言うほど耳にしていた。
 聞きたくもない下世話な内容だった。それでも、我慢して笑顔を浮かべながら耳を傾けていた。

 メリッサはそういうことが得意だ。愛想笑いには自信がある。
 しかし、心のどこかで自分には関係のない話だと思っていたのが間違いだったと気づかされた。

 ――だってしょうがないじゃない。平民の私にとっては雲の上の話だもの!

 メリッサは心の中で叫んでいた。

「冗談だと思うのか? だとしたら私の見込み違いだったか」

 王子はそう言ってから、視線で周囲を見るように促してくる。

「わざわざ確認しなくても、おっしゃられていることが冗談で済まないことはわかります」

 周囲には多くの人間がいることはわかりきっている。
 今日の夜会の主催者はこの国の外務大臣だ。
 招待されれば欠席するわけにはいかない重要人物なのだ。

「ほう、この私に強気な態度を取れるのは良いことだな」

 メリッサは心の中でしまったと舌打ちをした。王族に対して気安く接しすぎたと反省する。

「お前にはしばらくここに留まってもらうぞ。覚悟をしておけ」

「それは絶対に嫌です!」

 メリッサは食い気味に答える。すると、不満げな顔をした王子と視線が合った。
 すぐにまたやってしまったと後悔したが遅かった。
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