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魔族
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「ちょっとさ、これは騒ぎすぎじゃないかなあ?」
ライラは慌てて背後を振りかえった。
視線の先に幼い少女が立っている。いつからそこにいたのか、声をかけられるまでまったく気が付かなかった。
少女は黒いストレートの髪を腰まで伸ばし、貴族の令嬢のような上等な服を身に纏っている。暗い森の中に佇むその姿は、あきらかにこの場には似つかわしくない。
少女の赤い瞳が静かにこちらを見つめていた。
「――っも、申し訳ございません! 申し訳ございません、申し訳ございません‼」
エセリンドがいきなり地面に膝をつけ、現れた少女に頭を下げながら謝罪の言葉を繰り返す。
「君の裁量に任せると言ったのは僕だしさ。まあ、よくやったとは思っているよ?」
少女は謝罪を繰り返すエセリンドに冷たく声をかける。
エセリンドは少女の態度に声にならない悲鳴を上げた。額を地面にこすりつけながら、ひたすら謝罪の言葉を口にする。
「――っ申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません!」
年端もいかない子供に大人が頭を下げているというのは異様な光景だった。
まるで何かに操られているかのようにそれしか言わないエセリンドを、少女は黙って見下ろしている。
その光景を、ライラは黙って見ていることしかできなかった。
少女の足元にはアヤを抱きしめたエリクが倒れているというのにだ。
二人の元へ今すぐに駆け付けたいが、ライラは現れた少女のあどけない姿に踏み込むことをためらってしまう。
相手が幼い子供の姿をした化け物だということはすぐにわかった。だからこそ二人を助けるべきだと思うのに、どうしても身体が動かない。
「うふふ、そんなに謝らなくてもいいよ。失敗なんて誰にでもあることだしね」
しばらくして、少女が態度をころっと変えた。ほがらかに笑いながら手を合わせている。
その少女の様子を見て、エセリンドは安堵の息を漏らしながらようやく顔を上げた。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます‼」
「うん、反省しているのならそれでいいよ。……それじゃあ、この街からは引きあげようか」
少女はそう言って、こちらに背を向けた。
そのまま立ち去ろうとする少女に向かって、イルシアが叫ぶ。
「――っふざけんじゃねえぞ! このまま帰すわけねえだろ」
イルシアは言い終えるよりも前に、槍を構えて少女に突っ込んでいった。
少女はとつぜん攻撃をしかけてきたイルシアに怯むことなく、落ち着き払った様子ですっと手を伸ばした。すると、少女の手の先から黒い瘴気の塊が出現し、勢いよくイルシアに向かって飛んでいく。
炎を纏ったイルシアの槍の先端と、少女が放った瘴気の塊がぶつかり合う。
「……ッチ、燃やしきれないか。瘴気が散るのはやっかいだな」
槍とぶつかった瘴気の塊は、音を立てて弾けると周囲に飛び散ってしまった。
イルシアは舌打ちをしながら少女から距離を取ると、槍を構え直した。
「こいつさっきの女とは強さが桁違いだ。……これが本物の魔族なのか?」
イルシアの問いに、ライラはゆっくりと頷いた。
魔族など今まで出会ったことはないが、そう確信が持てるだけの相手だった。
「なんだよ。本物の魔族は隠れたまま出てこないって聞いてたのに、あいつら嘘を教えやがって!」
イルシアの苛立たし気な声が周囲に響く。
ライラは震える手でナイフを構えた。
ライラは慌てて背後を振りかえった。
視線の先に幼い少女が立っている。いつからそこにいたのか、声をかけられるまでまったく気が付かなかった。
少女は黒いストレートの髪を腰まで伸ばし、貴族の令嬢のような上等な服を身に纏っている。暗い森の中に佇むその姿は、あきらかにこの場には似つかわしくない。
少女の赤い瞳が静かにこちらを見つめていた。
「――っも、申し訳ございません! 申し訳ございません、申し訳ございません‼」
エセリンドがいきなり地面に膝をつけ、現れた少女に頭を下げながら謝罪の言葉を繰り返す。
「君の裁量に任せると言ったのは僕だしさ。まあ、よくやったとは思っているよ?」
少女は謝罪を繰り返すエセリンドに冷たく声をかける。
エセリンドは少女の態度に声にならない悲鳴を上げた。額を地面にこすりつけながら、ひたすら謝罪の言葉を口にする。
「――っ申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません!」
年端もいかない子供に大人が頭を下げているというのは異様な光景だった。
まるで何かに操られているかのようにそれしか言わないエセリンドを、少女は黙って見下ろしている。
その光景を、ライラは黙って見ていることしかできなかった。
少女の足元にはアヤを抱きしめたエリクが倒れているというのにだ。
二人の元へ今すぐに駆け付けたいが、ライラは現れた少女のあどけない姿に踏み込むことをためらってしまう。
相手が幼い子供の姿をした化け物だということはすぐにわかった。だからこそ二人を助けるべきだと思うのに、どうしても身体が動かない。
「うふふ、そんなに謝らなくてもいいよ。失敗なんて誰にでもあることだしね」
しばらくして、少女が態度をころっと変えた。ほがらかに笑いながら手を合わせている。
その少女の様子を見て、エセリンドは安堵の息を漏らしながらようやく顔を上げた。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます‼」
「うん、反省しているのならそれでいいよ。……それじゃあ、この街からは引きあげようか」
少女はそう言って、こちらに背を向けた。
そのまま立ち去ろうとする少女に向かって、イルシアが叫ぶ。
「――っふざけんじゃねえぞ! このまま帰すわけねえだろ」
イルシアは言い終えるよりも前に、槍を構えて少女に突っ込んでいった。
少女はとつぜん攻撃をしかけてきたイルシアに怯むことなく、落ち着き払った様子ですっと手を伸ばした。すると、少女の手の先から黒い瘴気の塊が出現し、勢いよくイルシアに向かって飛んでいく。
炎を纏ったイルシアの槍の先端と、少女が放った瘴気の塊がぶつかり合う。
「……ッチ、燃やしきれないか。瘴気が散るのはやっかいだな」
槍とぶつかった瘴気の塊は、音を立てて弾けると周囲に飛び散ってしまった。
イルシアは舌打ちをしながら少女から距離を取ると、槍を構え直した。
「こいつさっきの女とは強さが桁違いだ。……これが本物の魔族なのか?」
イルシアの問いに、ライラはゆっくりと頷いた。
魔族など今まで出会ったことはないが、そう確信が持てるだけの相手だった。
「なんだよ。本物の魔族は隠れたまま出てこないって聞いてたのに、あいつら嘘を教えやがって!」
イルシアの苛立たし気な声が周囲に響く。
ライラは震える手でナイフを構えた。
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