離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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けじめ

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「……それは、仲裁するとは言えないのではないでしょうか?」

 マスターがあきれ果てた様子でヴィリに声をかける。
 するとそこへ、意外なところからヴィリの意見に賛同する声があがった。

「私は良いと思いますよ。こういうのってきっと理屈じゃありませんから」

 無邪気な笑顔でそう言ったファルに、イルシアが顔をしかめる。

「……いや、こいつら殴り合っても和解とかしなさそう」

「んもー、イルはわかってないなあ。和解なんてどうせしないんだよ」

 ファルは拗ねたように頬を膨らませて、イルシアをびしっと指差した。

「今さら何をしたって分かり合えないもん。だったらさ、せめて殴っておけばよかったって後悔しないようにすればいいじゃん。ねえ?」

「――っそ、そんなことで同意を求められても、俺にはわからねえよ! だけどさ、こいつらはもう瀕死になるまでやり合ってるぞ?」

「でもさー、ライラさんはちゃんと意識がなかったんでしょ? だったらさ、顔面に一発くらい入れればそれですっきりするんじゃないかなあ」

 おっとりとした口調でそう言ったファルに、ヴィリがゆっくりと首を上下に動かして同意する。
 イルシアはそんな二人を前にして、可哀そうなくらいにうろたえてしまっている。


 ――これはどっちなの? この僕が殴り合えなんて馬鹿なことを言うわけないだろう、これで少しは頭が冷えたか、とか言い出す感じかしら。

 ライラはヴィリの言葉の真意がどこにあるのか真剣に悩みながら、ちらりとクロードに視線を向ける。

 ――本気で私たちの殴り合いを期待されている? いやいや、まさかね。殿下にかぎってそんな馬鹿なことをおっしゃるわけないわ。

 クロードはライラの視線に気が付くと、肩をすくめてため息をついた。
 クロードがヴィリの言葉を真に受けて戦うつもりになっていたらどうしようかと焦っていたが、彼にそのつもりはなさそうで安堵する。

「……殿下が本気で殴り合えなんておっしゃるわけないだろ。おかしなことを言って、私たちの頭を冷やさせたいだけだ」

「そ、そうよね。私だってそれくらいわかっているわよ!」

 ライラはほっとしていた気持ちを隠すように、ふんと鼻で笑って腕を組むとクロードを睨んだ。すると、そこへファルがやってきて、こっそりと耳打ちしてくる。

「本当にやらなくていいんですか? 私だったらいろいろと小難しいことをたくさん言って、自分以外の女性に手をつけた理由を正当化する旦那なんて、すごーく嫌ですけど……」

「そりゃ私だって嫌よ。ものすごく気持ち悪いって思っているけれどね。どうせ旦那だし、何もそこまで……」

 ファルに心配そうな視線で見つめられて、ライラは困惑する。
 正直に言えば、一発くらい殴ってもいいだろとは思っている。しかし、今ここでやれと言われてやるのは、少し違う気がしてしまうのだ。

 ――ファルちゃんまで何を言っているの? いったいどこまで本気なのかわからないわ。……なんだか、すごくこの子が怖い!

 ライラは背筋がぞっとして身体を震わせる。
 そこでまたヴィリが手を叩いた。

「まあ、僕はどちらでも構わないぞ。ただし、本当に物理的な話し合いをするなら、ルールだけはちゃんと決めろよ」

 大怪我をされても困るからな、とヴィリは淡々と言った。
 それからヴィリは得意な得物は禁止だとか、戦うならこうしたらどうかと語りだした。

「でも殿下、素手だとちょっと。ライラさんがクロードさんを殴るのはいいと思うのですが、逆はちょっとなーって」

 ヴィリが意気揚々と話しているところへ、ファルが遠慮がちに手を上げて発言をする。よくヴィリの話を遮って発言できるなと、ライラはぎょっとしてしまった。
 しかし、ヴィリはファルの発言に気分を害した様子もなく、顎に手を当てて少し考えこむと、ライラに視線を向けてきた。

「……ふむ。それでは短剣を使った決闘でもいいかもな。ライラはたしか良い物を持っていたはずだな?」

 ヴィリに同意を求められて、ライラは困惑しながら答えた。

「……あー、えっと。申し訳ございませんが、おそらく殿下のご想像されている品はもう私の元にはございませんわ」

 ライラがそう言った途端、ヴィリとファルのやり取りを突っ立ったままぼんやりと見ていたクロードが反応した。

「――っちょっと待て。それは私が贈ったミスリルの短剣のことか? なぜないのだ⁉」

「だって、もう売ってしまったもの」
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