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けじめ
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「………………………………………………最低ね」
長ったらしいクロードの言い訳を聞いたあとに、ライラはひとことだけつぶやいた。
「――い、いや! 私が最低なのは認めるがっ……」
ライラの表情があまりに凍りついていたからだろうか。クロードが身振り手振りをしながら大げさに慌てだす。
「たしかに、私だってもっと他にやりようがあったとは思う。だが、それは今だから思うことであって……。あ、あのときはそれが最善だと思ったから、そうしたのだ。だから私はっ……」
「もういいわよ。あなたが最低なことは変わりようのない事実だわ」
クロードの言い訳をぴしゃりと遮ってライラは腕を組んだ。
「あなたは私との関係が冷え切っていると周囲に思わせたかったのよね? 私たちの間には愛情がないから、次の子供は望めない。だから諦めろってね!」
「ど、どうにかして敵の関心を君から逸らしたかった。それだけだった……」
聞いていて気分の良い話ではなかった。
敵方が望む肉体を手に入れるには、ライラは母体として優秀だと判断されたらしい。
――次に私がクロードとの子供を身ごもったとき、お腹の子ごと私を連れ去る計画があっただなんて。そんなの今さら聞かされても、どうしろって言うのよ。
理由を聞かされても、やはりクロードのとった行動の意味が理解できただけで、どうにも納得がいかない。
素直に事実を話して相談してくれればそれでよかったのではと、恨みがましく思う気持ちが芽生えただけだ。
結局のところ、クロードにとってライラは相談するに値しない、その程度の存在だったのだ。
「だからって、女を囲うことないじゃない。しかもあんな女を選ぶなんて!」
「……き、君から乗り換えたと周囲に信じて貰うには、それなりに見目の良い女でなければと思ったのだ。私の思惑に気が付かれてもまずい。だから多少は気立てに難があっても……」
「気立てに難があっても? まあ、だから個性的でのんびりした方をお選びになったのねえ。……不愉快だわ。私はさんざんあの女に罵倒されて花瓶まで投げつけられたのよ!」
「……は、ええ? か、花瓶って、そんなことは聞いてはいないが?」
侯爵家の屋敷の者たちは、クロードの考えをどこまで知っていたのだろうか。
もしかしたら執事あたりは知っていたのかもしれないと、ライラは思った。
――考えてみたら役立たずの侯爵夫人に対して妙に優しかったものね。忠言してもクロードが聞き入れないから、やきもきしていたのかもしれないわ。
ライラの前に立つと額から汗を流してうろたえていた執事の様子を思い出して、懐かしい気持ちになる。
「嫌がらせなんて日常的にあったから、使用人たちもいちいち細かく報告をしなかったのでしょ。もうそんなことは今さらどうだっていいわよ」
「いや、ライラが言い出したことじゃないか……」
「もういいのよ。本当にどうでもいいわ!」
ライラははっきりとクロードを拒絶する。すると、そこへヴィリが声を張り上げて割り込んできた。
「お前たち、そこまでにしておけ!」
ヴィリは腰に手を当てて踏ん反り返る。そして、ヴィリの登場に驚いて固まってしまっていたライラとクロードを交互に見てから大きく頷いた。
「――戦え!」
ヴィリのこの一言に、そばで控えていたマスターが目を見開いてがく然とした顔をする。
「どうせ言葉でやりあっても互いに納得しないだろ。じゃあ、すっきりきっぱり殴り合いでもしておけ」
良い提案だろうとでも言いたげに、ヴィリは満足した顔で笑っている。
長ったらしいクロードの言い訳を聞いたあとに、ライラはひとことだけつぶやいた。
「――い、いや! 私が最低なのは認めるがっ……」
ライラの表情があまりに凍りついていたからだろうか。クロードが身振り手振りをしながら大げさに慌てだす。
「たしかに、私だってもっと他にやりようがあったとは思う。だが、それは今だから思うことであって……。あ、あのときはそれが最善だと思ったから、そうしたのだ。だから私はっ……」
「もういいわよ。あなたが最低なことは変わりようのない事実だわ」
クロードの言い訳をぴしゃりと遮ってライラは腕を組んだ。
「あなたは私との関係が冷え切っていると周囲に思わせたかったのよね? 私たちの間には愛情がないから、次の子供は望めない。だから諦めろってね!」
「ど、どうにかして敵の関心を君から逸らしたかった。それだけだった……」
聞いていて気分の良い話ではなかった。
敵方が望む肉体を手に入れるには、ライラは母体として優秀だと判断されたらしい。
――次に私がクロードとの子供を身ごもったとき、お腹の子ごと私を連れ去る計画があっただなんて。そんなの今さら聞かされても、どうしろって言うのよ。
理由を聞かされても、やはりクロードのとった行動の意味が理解できただけで、どうにも納得がいかない。
素直に事実を話して相談してくれればそれでよかったのではと、恨みがましく思う気持ちが芽生えただけだ。
結局のところ、クロードにとってライラは相談するに値しない、その程度の存在だったのだ。
「だからって、女を囲うことないじゃない。しかもあんな女を選ぶなんて!」
「……き、君から乗り換えたと周囲に信じて貰うには、それなりに見目の良い女でなければと思ったのだ。私の思惑に気が付かれてもまずい。だから多少は気立てに難があっても……」
「気立てに難があっても? まあ、だから個性的でのんびりした方をお選びになったのねえ。……不愉快だわ。私はさんざんあの女に罵倒されて花瓶まで投げつけられたのよ!」
「……は、ええ? か、花瓶って、そんなことは聞いてはいないが?」
侯爵家の屋敷の者たちは、クロードの考えをどこまで知っていたのだろうか。
もしかしたら執事あたりは知っていたのかもしれないと、ライラは思った。
――考えてみたら役立たずの侯爵夫人に対して妙に優しかったものね。忠言してもクロードが聞き入れないから、やきもきしていたのかもしれないわ。
ライラの前に立つと額から汗を流してうろたえていた執事の様子を思い出して、懐かしい気持ちになる。
「嫌がらせなんて日常的にあったから、使用人たちもいちいち細かく報告をしなかったのでしょ。もうそんなことは今さらどうだっていいわよ」
「いや、ライラが言い出したことじゃないか……」
「もういいのよ。本当にどうでもいいわ!」
ライラははっきりとクロードを拒絶する。すると、そこへヴィリが声を張り上げて割り込んできた。
「お前たち、そこまでにしておけ!」
ヴィリは腰に手を当てて踏ん反り返る。そして、ヴィリの登場に驚いて固まってしまっていたライラとクロードを交互に見てから大きく頷いた。
「――戦え!」
ヴィリのこの一言に、そばで控えていたマスターが目を見開いてがく然とした顔をする。
「どうせ言葉でやりあっても互いに納得しないだろ。じゃあ、すっきりきっぱり殴り合いでもしておけ」
良い提案だろうとでも言いたげに、ヴィリは満足した顔で笑っている。
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