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ライラの目がおかしくなっていないのであれば、現れたモンスターは黒い霧のようなもので全身が覆われている。
四足歩行の大型モンスターであることはなんとなくわかるが、種族まで判別はできない状態だ。
「……あのモンスターって、私には瘴気に全身を覆われているように見えるのだけど?」
「ええ、私にもそのように見えますね」
ライラの問いに、マスターが笑顔で答える。彼があまりに呑気に構えているので、ライラはつい大きな声が出てしまった。
「笑っている場合じゃないでしょうが! 試験はいますぐに中断して、ここにいる全員に避難するよう指示を与えるべき立場よねえ。わかっているの⁉」
「わかっていますよ。だからこそ、今ここにあれを討伐できる人がいるのですから、お願いをしています」
「――っお願いしている奴の態度じゃないのよ!」
瘴気と呼ばれる黒い霧に覆われたモンスターは、他のモンスターとは違い自我を失っている状態だ。
瘴気に侵されて自己を制御することのできないモンスターは、狂暴性があり力が段違いに強い。
言ってしまえば、今のイルシアと同じような状態だ。
しかし、モンスターのまとっている瘴気は、精霊の力を暴走させているイルシアとは違う。
瘴気はそばにいるだけで、周囲の生き物へと感染して広がっていく。
瘴気に身体が侵されれば、人間もモンスター同様に正気を失い暴れまわる。
この場にいる者たちでは、あのモンスターの瘴気に身体が蝕まれ、狂ってしまうのが目に見えている。
「イルシア君が暴走寸前なのを忘れていないかしら? 私にあれの相手をしながら、モンスターを討伐しろってのはさすがに無茶ぶりよ。早く応援をっ――‼」
ライラがマスターに必死に訴えていると、モンスターが動き出した。
モンスターの動きは素早く、イルシアに向かってまっすぐに突進していく。
「やっぱり、イルシア君の力に引き寄せられてきたのね」
イルシアは突っ込んできたモンスターを槍で受け止めた。
その衝撃で周囲に激しい風が舞う。
「――っひいぃいいい! あ、あんなの倒せるわけがない! は、早く逃げないと‼︎」
いつの間にか目覚めていた受験番号八番の男が、慌てふためいて叫んだ。
先ほどまでの威勢の良さはどこにいったのか、彼は腰が抜けて動けなくなっている。
そんな八番の男とは対照的に、涼しい顔で笑みを浮かべていたマスターがあっけらかんと言ってのけた。
「イルシア君には良い勉強になります。せっかくですから、彼に瘴気の浄化方法を教えてあげてください」
「たしかに瘴気の浄化は精霊術師にしかできないけど……。それは今やることなのかしら⁉」
「こんな田舎に瘴気に侵されたモンスターが出るだなんて、見たことも聞いたこともありません。こんなチャンスは滅多にありませんから、ね?」
マスターに甘えるような声で言われて、ライラは鳥肌がたった。
「……わかったわよ。ちゃんとやるから、あのモンスターを討伐する前にあなたをはっ倒してもいいかしら?」
四足歩行の大型モンスターであることはなんとなくわかるが、種族まで判別はできない状態だ。
「……あのモンスターって、私には瘴気に全身を覆われているように見えるのだけど?」
「ええ、私にもそのように見えますね」
ライラの問いに、マスターが笑顔で答える。彼があまりに呑気に構えているので、ライラはつい大きな声が出てしまった。
「笑っている場合じゃないでしょうが! 試験はいますぐに中断して、ここにいる全員に避難するよう指示を与えるべき立場よねえ。わかっているの⁉」
「わかっていますよ。だからこそ、今ここにあれを討伐できる人がいるのですから、お願いをしています」
「――っお願いしている奴の態度じゃないのよ!」
瘴気と呼ばれる黒い霧に覆われたモンスターは、他のモンスターとは違い自我を失っている状態だ。
瘴気に侵されて自己を制御することのできないモンスターは、狂暴性があり力が段違いに強い。
言ってしまえば、今のイルシアと同じような状態だ。
しかし、モンスターのまとっている瘴気は、精霊の力を暴走させているイルシアとは違う。
瘴気はそばにいるだけで、周囲の生き物へと感染して広がっていく。
瘴気に身体が侵されれば、人間もモンスター同様に正気を失い暴れまわる。
この場にいる者たちでは、あのモンスターの瘴気に身体が蝕まれ、狂ってしまうのが目に見えている。
「イルシア君が暴走寸前なのを忘れていないかしら? 私にあれの相手をしながら、モンスターを討伐しろってのはさすがに無茶ぶりよ。早く応援をっ――‼」
ライラがマスターに必死に訴えていると、モンスターが動き出した。
モンスターの動きは素早く、イルシアに向かってまっすぐに突進していく。
「やっぱり、イルシア君の力に引き寄せられてきたのね」
イルシアは突っ込んできたモンスターを槍で受け止めた。
その衝撃で周囲に激しい風が舞う。
「――っひいぃいいい! あ、あんなの倒せるわけがない! は、早く逃げないと‼︎」
いつの間にか目覚めていた受験番号八番の男が、慌てふためいて叫んだ。
先ほどまでの威勢の良さはどこにいったのか、彼は腰が抜けて動けなくなっている。
そんな八番の男とは対照的に、涼しい顔で笑みを浮かべていたマスターがあっけらかんと言ってのけた。
「イルシア君には良い勉強になります。せっかくですから、彼に瘴気の浄化方法を教えてあげてください」
「たしかに瘴気の浄化は精霊術師にしかできないけど……。それは今やることなのかしら⁉」
「こんな田舎に瘴気に侵されたモンスターが出るだなんて、見たことも聞いたこともありません。こんなチャンスは滅多にありませんから、ね?」
マスターに甘えるような声で言われて、ライラは鳥肌がたった。
「……わかったわよ。ちゃんとやるから、あのモンスターを討伐する前にあなたをはっ倒してもいいかしら?」
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