離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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 ライラはマスターと連れ立って、彼の執務室の扉の前までやってきた。
 マスターは素早くライラの前に歩み出ると、恭しく頭を下げながら扉を開ける。彼はライラの腰にそっと手を当てて先に中に入るように促してきた。

「……どうも、ありがとう」
 
 ライラはマスターを見上げて愛想笑いをすると、冷たく礼を言ってさっさと室内に入った。

 マスターはときおり、貴族の生まれらしい紳士的な一面を見せてくる。
 染みついた習慣なのだろうとは思うのだが、どうにも堅苦しくて苦手だ。いつまで経ってもこういった扱いをされることには慣れない。

「あら、こんにちは。あなたもいたのね」

 室内に入ったライラは、そこにいる人物を見て首を傾げながら声をかけた。
 室内には先にやってきていたイルシアとファルの他に二人いる。

 一人は、これまで何度か顔を合わせたことのある軍服の男で、名前をエリクという。
 もう一人は、この部屋の前で一度だけすれ違ったことがある小奇麗な格好をした役人風の男だ。
 ライラはエリクに挨拶をしたあと、役人風の男に声をかけた。

「以前にもここでお会いしましたわね」

「あれ、そうでしたっけ? すみませーん、覚えてないですう」

 役人風の男はへらへらと笑いながら、あっけらかんと言ってのけた。
 間延びした喋り方が少し気にかかるが、調子のよさそうな雰囲気の青年だ。

「無理もありませんわ。すれ違った程度でしたもの」

「すれ違った程度で覚えているなんてすごいですねえ。僕なんて何度会っても顔と名前が一致しないですよー」

 役人風の男は頭に手をあてて、あははと朗らかに笑う。
 それから彼は、まるで部屋の主のようにソファに座るようにすすめてきた。

「まあまあ、立ち話もあれなので座ってください。マスターも来たし、さっさと用件を済ませましょう」

 役人風の男にそう言われて、ライラはイルシアとファルが並んで座っている正面のソファに腰掛けた。

 役人風の男は、室内にいるそれぞれの人物にてきぱきと書類を配り始める。
 ライラは受け取った書類にすぐ視線を落とした。
 そこには失踪や行方不明という物騒な単語が羅列してあったので顔をしかめる。

 これはきっとろくな話ではない。
 拘束時間も長くなりそうだと思い、ちゃっかりライラの隣に座ったマスターを睨みつけた。

「……ねえ、これ本当にすぐ終わる話なのでしょうね?」

 ライラが低い声で尋ねると、マスターはにこにこと微笑みながらエリクに視線を向けた。
 彼はどうやら自分で話すつもりはないらしい。
 エリクはマスターの視線を受けて立ったまま淡々と話をはじめた。

「以前、街の外の森に瘴気に汚染されたモンスターが出ただろう? そのモンスターがどこからやってきたのか、軍ではずっと調査をしていたんだ」

「それって、私が冒険者登録試験を受けたときのモンスターの話かしら?」

 ライラがそう尋ねるとエリクは力強く頷いた。

「どうやらあのモンスターは自らこの地へやってきたのではなく、何者かによってこの地に連れ去られてきたらしい」

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