離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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問題発生

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 ふざけるのはいい加減にして欲しい、そうライラがマスターに言おうとしたときだった。
 森の中から周囲に響き渡る轟音と、誰かの切羽詰まった悲鳴が聞こえてきた。

 この場の雰囲気が、一瞬で緊張に包まれる。
 聞こえてくる音は、受験者同士がコインを巡って争っているようなものではない。
 びりびりと肌に感じるのは、受験者よりもあきらかに強大な気配だ。付近の森の中に、唐突にモンスターの気配があらわれたのだ。

 ただならぬ事態に、ライラは今にも暴走しそうなイルシアに視線を向けたまま、マスターに状況説明を求める。

「……どういうこと? これは何なのよ。あなたは知っていることなのでしょうね?」

 マスターは森の中の様子をうかがいながら、ライラの質問にすぐさま首を横に振る。
 彼はライラに返答はせず、そばにいる試験監督役の冒険者に周囲を調べてくるように命じた。
 しかし、その冒険者が森の中に向かうよりも早く、受験者たちが叫び声をあげながらこちらへ駆け込んで来た。

「――っどうした、何があった?」

 森の中へ向かおうとしていた冒険者が、受験者に近付いて声をかけるが、彼らはすっかり怯え切っていて誰一人すぐに話し出そうとしない。

 怒りの感情が爆発しそうになっていたイルシアも、さすがに異変を感じ取ってか大人しくなっている。

「……もしかして、イルシア君の暴走しかけている強い力に何かが引き寄せられてしまったのかしら……?」

 ライラはイルシアがすぐには動き出さないことを確認してから、身体の向きを変えて森の中に氷の刃を放った。
 氷の刃は今日一番の速さで森の中に消えていった。
 直後、森の奥から何かの大きな叫び声が辺りに響き渡る。

「マスター、この森には大型の危険種モンスターでもいるのかしら?」

「この森には危険種も大型種もいないはずです」

 冷たく問いかけたライラに、マスターは淡々と答える。
 さすがに危険なモンスターの生息地域で試験を行うわけがない。

「じゃあ、この気配は……」

 いったい何なのよ、ライラがそう言いかけたとき、暗い森の奥で怪しく光る赤い目が見えた。
 赤い目がゆらゆらと揺れながらこちらに近付いてくる。
 大型のモンスターが、徐々にその姿を現していく。

「どこからどう見ても大型の危険種、S級ランクのモンスターですね」

 マスターの言葉を聞いた周囲の者たちから悲鳴のような声があがる。

「――ま、まずいですよマスター。S級ランクのモンスターなんてこの場にいる者で対処できません!」
「……っそ、そうですよ! 早く応援を呼びに行かなくては……」
 
 周囲の者たちからの必死の訴えを聞いても、マスターに慌てた様子は一切ない。
 彼は腕を組んでモンスターを眺めながらはっきりと言った。

「問題ありません」

 マスターはニコリと笑ってライラを振り返った。

「ここにはS級ランク相当以上の冒険者の方がすでにいらっしゃいますから」

 ライラは微笑みかけてくるマスターに冷ややかな視線を送りながら口を開いた。

「あら、残念ね。私はまだ資格がないから冒険者じゃないのよ」
 
「そんなことおっしゃらずに。元ミスリルランクの方は今でいうとSSランク相当なのですから。あれくらい余裕ですよね?」

 周囲の視線が突き刺さり、ライラは頭を抱えて大きくため息をついた。
 その仕草をどう捉えたのかは知らないが、マスターがとんでもないことを言い出した。

「では、こうしましょうか。あのモンスターを討伐してくださったら冒険者証を発行いたします」

「あのね、モンスター討伐くらい言われなくてもやるわよ。……あなたはそんなことを軽々しく言っていいのかしら?」

 あんなモンスターが街に行ってしまえば大混乱になる。
 人々が危険にさらされるのだ。それがわかっていて見逃すほど落ちぶれてはいない。

「再試験くらい免除してもいいかと思いましたが、それではいろいろと示しがつきません。一応試験くらい受けてもらおうか、という程度でしたから」

「一応とか程度って、ひどい言い草ね。それだとあのモンスターの討伐ができたら冒険者証を発行するって、かえって冒険者になるためのハードルが上がってないかしら?」
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