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冒険者登録試験
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「お、やっとやる気になったのか?」
ライラがイルシアの前に歩み出ると、彼は嬉しそうに声を弾ませながら言った。
「そうね。イルシア君が大人しくコインを渡してくれる気がないようだから」
こんな茶番に、いつまでも付き合っていられない。
ライラは素早く弓を構えてイルシアに向かって矢を射る。
ライラの放った矢は真っすぐにイルシアに向かって飛んでいったが、彼はいともたやすく槍で払い落とした。
「――っはは! ちまちま様子見をするのはなしにしようぜ。時間がねえんだからさ!」
イルシアがそう声を上げると、彼の背後に精霊が姿を現した。
先ほどの一次試験でライラが呼び出した精霊とは比べものにならない。
イルシアの持つ槍よりも、大きく立派な姿をした高位の精霊だった。
「――ちょ、ちょっと待ってちょうだいイルシア君!」
ライラはイルシアの呼び出した精霊の姿を見て、たまらず大声を上げてしまった。
ファルや受付嬢など、周囲にいる者たちが怪訝な表情を浮かべる。そんな周囲にいちいち説明などをしている場合ではなかった。
「いくら何でもそれはやりすぎ! 落ち着こうね?」
周囲にいる者たちは精霊の姿が見えないので、ライラの焦りが伝わらないのだろう。
ライラが慌てだすと周囲はますます戸惑った様子を見せている。
「わかったわ、まず槍をしまおうか。そこまでする必要ないからね? 今は上級モンスターの討伐とかじゃないからね!」
ライラは必死になってイルシアに訴えかけるが、彼は引く気を一切見せない。
しかたがないので、この場にいて唯一動じていないマスターに向かってライラは抗議の声を上げた。
「ちょっとマスター! いくらおもいきりって言ったってあれは駄目よ。加減を知らなすぎだわ!」
「あはははは、だからこそ指導を頼みたいって話なのですけどね」
ライラの訴えにマスターは呑気に笑って答える。
「ああ、はいはい。わかったわよ。止める気はまったくないのね!」
ライラはマスターの対応を見ながら苛立たしく頭を掻いた。
「そっちがその気なら、こっちも手加減しないからね。こんなことは早めに終わらせるわよ!」
ライラは胸に手を当てた。
自分に力を貸してくれるように、周囲に強く呼びかける。
精霊術には、魔術とは違い長ったらしい詠唱や小難しい術式などは一切必要ない。
心の中で強く願えば、精霊は術者に力を貸してくれるのだ。
イルシアの呼び出した精霊は火を司る精霊だ。
赤く燃える炎をその身に纏っている。
若く血気盛んな彼が呼び出したと言われて納得するだけの、力強さを感じさせる存在だった。
であるならば、こちらの呼び出す精霊は決まっている。
「……へえ、ずいぶんと高位の水の精霊を呼び出してくれたじゃん。おっもしれー」
ライラの呼び出した精霊を見て、イルシアが楽しそうに笑いながら言った。
「ここに精霊が見えるやつがやってくることなんて今までなかったんだ。やっと本気で戦える!」
「本気で戦わなくてもいいと思うけどなあ……。一応さ、私の試験中なんだからね?」
忘れちゃ駄目よ、と言いながら大きくため息をついたライラを、呼び出した水の精霊がくすくすと笑いながら抱きしめてくる。
ライラがイルシアの前に歩み出ると、彼は嬉しそうに声を弾ませながら言った。
「そうね。イルシア君が大人しくコインを渡してくれる気がないようだから」
こんな茶番に、いつまでも付き合っていられない。
ライラは素早く弓を構えてイルシアに向かって矢を射る。
ライラの放った矢は真っすぐにイルシアに向かって飛んでいったが、彼はいともたやすく槍で払い落とした。
「――っはは! ちまちま様子見をするのはなしにしようぜ。時間がねえんだからさ!」
イルシアがそう声を上げると、彼の背後に精霊が姿を現した。
先ほどの一次試験でライラが呼び出した精霊とは比べものにならない。
イルシアの持つ槍よりも、大きく立派な姿をした高位の精霊だった。
「――ちょ、ちょっと待ってちょうだいイルシア君!」
ライラはイルシアの呼び出した精霊の姿を見て、たまらず大声を上げてしまった。
ファルや受付嬢など、周囲にいる者たちが怪訝な表情を浮かべる。そんな周囲にいちいち説明などをしている場合ではなかった。
「いくら何でもそれはやりすぎ! 落ち着こうね?」
周囲にいる者たちは精霊の姿が見えないので、ライラの焦りが伝わらないのだろう。
ライラが慌てだすと周囲はますます戸惑った様子を見せている。
「わかったわ、まず槍をしまおうか。そこまでする必要ないからね? 今は上級モンスターの討伐とかじゃないからね!」
ライラは必死になってイルシアに訴えかけるが、彼は引く気を一切見せない。
しかたがないので、この場にいて唯一動じていないマスターに向かってライラは抗議の声を上げた。
「ちょっとマスター! いくらおもいきりって言ったってあれは駄目よ。加減を知らなすぎだわ!」
「あはははは、だからこそ指導を頼みたいって話なのですけどね」
ライラの訴えにマスターは呑気に笑って答える。
「ああ、はいはい。わかったわよ。止める気はまったくないのね!」
ライラはマスターの対応を見ながら苛立たしく頭を掻いた。
「そっちがその気なら、こっちも手加減しないからね。こんなことは早めに終わらせるわよ!」
ライラは胸に手を当てた。
自分に力を貸してくれるように、周囲に強く呼びかける。
精霊術には、魔術とは違い長ったらしい詠唱や小難しい術式などは一切必要ない。
心の中で強く願えば、精霊は術者に力を貸してくれるのだ。
イルシアの呼び出した精霊は火を司る精霊だ。
赤く燃える炎をその身に纏っている。
若く血気盛んな彼が呼び出したと言われて納得するだけの、力強さを感じさせる存在だった。
であるならば、こちらの呼び出す精霊は決まっている。
「……へえ、ずいぶんと高位の水の精霊を呼び出してくれたじゃん。おっもしれー」
ライラの呼び出した精霊を見て、イルシアが楽しそうに笑いながら言った。
「ここに精霊が見えるやつがやってくることなんて今までなかったんだ。やっと本気で戦える!」
「本気で戦わなくてもいいと思うけどなあ……。一応さ、私の試験中なんだからね?」
忘れちゃ駄目よ、と言いながら大きくため息をついたライラを、呼び出した水の精霊がくすくすと笑いながら抱きしめてくる。
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