離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
49 / 151
冒険者登録試験

13

しおりを挟む
「お、やっとやる気になったのか?」

 ライラがイルシアの前に歩み出ると、彼は嬉しそうに声を弾ませながら言った。

「そうね。イルシア君が大人しくコインを渡してくれる気がないようだから」

 こんな茶番に、いつまでも付き合っていられない。
 ライラは素早く弓を構えてイルシアに向かって矢を射る。 
 ライラの放った矢は真っすぐにイルシアに向かって飛んでいったが、彼はいともたやすく槍で払い落とした。

「――っはは! ちまちま様子見をするのはなしにしようぜ。時間がねえんだからさ!」
 
 イルシアがそう声を上げると、彼の背後に精霊が姿を現した。
 先ほどの一次試験でライラが呼び出した精霊とは比べものにならない。
 イルシアの持つ槍よりも、大きく立派な姿をした高位の精霊だった。

「――ちょ、ちょっと待ってちょうだいイルシア君!」

 ライラはイルシアの呼び出した精霊の姿を見て、たまらず大声を上げてしまった。
 ファルや受付嬢など、周囲にいる者たちが怪訝な表情を浮かべる。そんな周囲にいちいち説明などをしている場合ではなかった。

「いくら何でもそれはやりすぎ! 落ち着こうね?」 

 周囲にいる者たちは精霊の姿が見えないので、ライラの焦りが伝わらないのだろう。
 ライラが慌てだすと周囲はますます戸惑った様子を見せている。

「わかったわ、まず槍をしまおうか。そこまでする必要ないからね? 今は上級モンスターの討伐とかじゃないからね!」
 
 ライラは必死になってイルシアに訴えかけるが、彼は引く気を一切見せない。
 しかたがないので、この場にいて唯一動じていないマスターに向かってライラは抗議の声を上げた。

「ちょっとマスター! いくらおもいきりって言ったってあれは駄目よ。加減を知らなすぎだわ!」

「あはははは、だからこそ指導を頼みたいって話なのですけどね」

 ライラの訴えにマスターは呑気に笑って答える。

「ああ、はいはい。わかったわよ。止める気はまったくないのね!」

 ライラはマスターの対応を見ながら苛立たしく頭を掻いた。 

「そっちがその気なら、こっちも手加減しないからね。こんなことは早めに終わらせるわよ!」

 ライラは胸に手を当てた。
 自分に力を貸してくれるように、周囲に強く呼びかける。

 精霊術には、魔術とは違い長ったらしい詠唱や小難しい術式などは一切必要ない。
 心の中で強く願えば、精霊は術者に力を貸してくれるのだ。

 イルシアの呼び出した精霊は火を司る精霊だ。
 赤く燃える炎をその身に纏っている。
 若く血気盛んな彼が呼び出したと言われて納得するだけの、力強さを感じさせる存在だった。

 であるならば、こちらの呼び出す精霊は決まっている。
 
「……へえ、ずいぶんと高位の水の精霊を呼び出してくれたじゃん。おっもしれー」

 ライラの呼び出した精霊を見て、イルシアが楽しそうに笑いながら言った。

「ここに精霊が見えるやつがやってくることなんて今までなかったんだ。やっと本気で戦える!」

「本気で戦わなくてもいいと思うけどなあ……。一応さ、私の試験中なんだからね?」

 忘れちゃ駄目よ、と言いながら大きくため息をついたライラを、呼び出した水の精霊がくすくすと笑いながら抱きしめてくる。
しおりを挟む
感想 248

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...