離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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鍛冶屋

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「――ってめえ、まさか俺を試したのか!?」
 
 マディスはいきなり怒鳴り声をあげると、勢いよく両手でカウンターを叩きつけた。バンと大きな音が周囲に響き渡り、室内が静まりかえる。
 突然のマディスの激昂に、イルシアとファルが互いの顔を見合せて戸惑っている。二人はマディスがなぜ怒りだしたのか理解できないらしく、激しくうろたえている。

「試しただなんて……。それは人聞きが悪いわ」

 ライラはこの場をおさめるために、マディスに向かって冷静に訴えかける。そんなことを言われてしまうのは心外だと、しっかりと主張をした。

「その短剣を手放したいのは本当なのよ。結果的にそうなってしまったと言えないことはないけれど……。それであなたの気分を害したというのなら、きちんと謝るわ」

 申し訳ございません、とライラは頭を下げる。
 ライラが落ち着いてマディスに向かって話をしていると、ようやくイルシアとファルにも理解できたらしい。
 ファルは短剣を手にしたまま沈んだ表情を見せた。そんな彼女を見たイルシアが、マディスと同じように怒りを露わにする。
 イルシアはマディスのように怒鳴りつけてくることはしないが、憤っていることが全身から伝わってくる。

「……そんな簡単に頭を下げられてもな。じゃあ、俺がこの短剣の魔法付与に気が付かなければどうするつもりだったんだ。ああ!?」

「信頼のできる方から腕の良い鍛冶屋だと聞いていたの。その心配はまったくしていなかったわ」

「――っそういうことじゃねえだろうが! てめえはファルをっ……」

 マディスは今にもライラに殴りかかりそうな勢いで、もう一度カウンターを叩きつけた。再び大きな音が鳴って、ファルがびくりと身体を震わせる。

「……お、お父さん落ち着いて! 私は自分が未熟者だって、ちゃんと理解しているから……」

 ファルはカウンターを叩きつけている父親を手を取った。彼女は必死に父親の怒りを鎮めようとするが、その目に涙を浮かべているので逆効果だった。

「――っくそ! うちの娘を泣かせやがって……。そんな客はお断りだ。さっさと帰れ!」

 娘のことを思って怒り叫ぶマディスに、ライラはこれ以上言い返す気力はなかった。

 この店での買い物はすっぱり諦めよう。ライラはそう決めて短剣を手に取った。
 そのまま店を出ていこうと、一同に背を向けてまっすぐ店の入り口に向かって歩き出した。
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