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2章 首都東京都奪還編

手合せ

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 ダンッ ダンッ ダンッ

 早朝、私は目の前にあるサンドバックに対し何度も打撃を加える、彼此2時間叩き続けたからか、サンドバックは所々に穴が開きつつあり、中身が出そうになる。

 「これくらいにしときますか……」

 任務のない日はこうして朝ジムで鍛えるのが日課であり、最初は私に親切に用具の使い方やトレーニング法を教えてくれた常連さんたちも今やドン引きの目を私に向ける。

 今日は道場に須藤さんが来るらしい…、今日手合せできたらいいな、一日でも早く須藤さんや永井さんみたいに強くなって、一緒に戦う仲間や人々に貢献したい。

 「あれ、彩月ちゃん?」

 トレーニングを終えて外に出ると、入口付近から綾城さんの声が聞こえ、周囲を探ると近くの自販機に綾城楓が飲み物を持って立っていた。

 「綾城さん!おはようございます!」

 「おはよう彩月ちゃん、彩月ちゃんもジムに通ってるの?」

 私に気づいた綾城さんは私の所に歩み寄って来る、寄って来た綾城さんは満面の笑みを浮かべて私に話しかける。

 「はい、私も任務がない日は朝と夕方にジムに通ってるんです、綾城さんは今何をしているんですか?」

 「私はちょっと走り込みをね、ちょうど終わって今休憩ってところかな」

 綾城さんはそう言い、片手に持ってるジュースの飲み口に口をつけて飲む。
 ジュースを飲み干す綾城さんの姿がつい惹かれてしまうくらい凛々しく、スタイル良くて、おまけに胸も大きくて正直羨ましい。

 「彩月ちゃんはこれから休憩?」

 「いえ、これから道場に行って須藤さんに手合せをお願いしようと思いまして」

 「ああ、あの死人のような目をしてた人ね」
 
 「失礼ですよ綾城さん」

 私は道場に向かう前に、持参していた水筒の蓋を開け、飲み口から水分を摂取する。
 水筒の蓋を閉めた私は道場の建物の方に視線を向ける。

 「では私は道場に行ってますね」

 「彩月ちゃん、良ければだけど、私もついていっていい?」

 綾城さんの申しに私は「はい」と答え、私と綾城さんの二人で道場に向かった。

 
 私は綾城さんと体育座りで道場内を見渡す、道場の中心では須藤さんがおり、その周りには須藤さんと手合せを申し出た自衛官たちが十数人倒れている。
 一方の須藤さんは相変わらず無表情であったが、倒れている自衛官一人ひとりに「大丈夫か?」と声をかける。

 「ねえ…あの人、素手とは言っても5人ずつ一気に相手してるのに10秒も経たずに倒した上に息一つも上がってないなんて…、私いろんな人やエイリアンを見て来たけど、こんな人初めてだわ」

 綾城さんが須藤さんの実力を見るのはこれで初めてだろう、あまりの光景に目を丸くしている。

 「須藤さんは、エイリアンが攻めて来る前まではSATの一員だったそうです、でもそのあまりの優秀さにテロの鎮圧だけじゃなく、通常SATがやらない極秘任務を受け持つこともよくあったそうです」

 「へえ~、自衛官とかじゃなかったんだね、まあでも確かにあんなに強かったらSATじゃ勿体ないね、とは言ってもSATも充分すごいけど」
 
 綾城さんと話していると、手合せを終えた須藤さんはストレッチを始めたので、私は手合せを申し出に向かおうとした。

 「須藤さん、今度は僕とやろうよ」

 いつの間に道場に入ったのか、須藤さんの後ろに永井昭斗が立っていた。
 永井さんは須藤さんの肩に右手をポンッと置いて手合せを申し出る。
 
 「いたのか…永井」

 「下っ端とじゃ手合せつまらないでしょ、僕とならこの人たちよりもっと楽しめると思うけど」

 永井さんの発言に一部自衛官が「なんだと!」と叫び、殴りかかろうと近づく、怒号を上げる自衛官を他の自衛官らが宥めながら取り押さえる。

 「抑えろ、気持ちはわかるが、俺らがあの化け物に敵う相手じゃない」

 そう言って怒号を上げた自衛官の怒りを鎮めようとする。

 「ねえ彩月ちゃん、あの発言ないよね、だから私初対面からずっといけ好かないと思ったのよ」

 「永井さんがいつもこうだから、私もう慣れちゃいました…」

 不意に私はため息をつき、私は須藤さんと永井さんの光景をぼーっと見つめる。

 次私が行きたかったのに、永井さんに先越された。

 おもちゃを先に取られた子供のように頬を膨らませて不機嫌になる、その隣で綾城さんは私をじっと見つめている。

 「彩月ちゃん…ハムスターみたいで可愛いね、写真撮っていい?」

 私が「だめです」と答える前に綾城さんがスマホを取り出して私の顔を撮影した。
 撮られた私はスマホを取ろうと綾城さんに突っかかる。

 「写真消してください!恥ずかしいです!」

 「ええー!だって可愛かったもーん!」

 するとどこからか殺気のような視線を感じる、感じる視線の方に向けると、須藤さんがこっちを見て睨んでいる、まるで「うるさい」と言ってるかのように、一方の永井さんは私たちを睨む須藤さんを見てヘラヘラと笑っている。

 「「す、すいません…」」

 須藤さんのあまりの圧に私たちはシュン…となってしまった。

 
 「いやー僕と須藤さんとで殺り合うの久々じゃない、今僕すっごく胸が高鳴ってるんだよね」

 「……」

 「無言か…」

 須藤さんは無言のままゆっくり手合せの構えをとって永井さんの方に身体を向ける。

 「いつでも構わない、さっさと終わらせるぞ…」

 「ふうー、僕とはそんなにやりたくないってわけか~悲しいね」

 そう言って永井さんも戦闘態勢に入る、お互いが警戒し合う中、道場内に静かな空気が流れる、そして…。

 「じゃ!攻めないならこっちから行くよ!」

 永井さんが先手で須藤さんの顔目掛けて回し蹴りをする、一方の須藤さんは永井さんの蹴りを難なく躱す。
 それでも永井さんは続けて須藤さんを打撃を加えようと回し蹴りから次の手を繰り出す。

 「……」

 「余裕そうだね、じゃあこれはどうかな!」

 永井さんが突如姿勢を低くしてからの右の手刀が須藤さんの顔面目掛けて突き刺そうとする。
 しかし須藤さんは、永井さんの手刀を一歩下がって避ける。
 須藤さんと永井さんの格闘にしては特に永井昭斗の繰り出す攻撃の殺傷能力が高い。

 永井さんもしかして…ほんとに須藤さんを殺そうとしてる?

 「永井さんを相手に視線を外さずに何度も躱すなんて…今まで須藤さんが戦ってるのを何度か見てきたけど…やっぱり強い…」

 「彩月ちゃんの言う通りね、もし永井の相手が私だったら、悔しいけど…須藤さんみたいに永井の攻撃全部を躱すなんて到底できない」

 素手による須藤刑司と永井昭斗の格闘を私たちはただ黙ってみることしかできなかった、この手合せを見るのに全神経を使わないと動きを見逃してしまう。
 集中して見ないと見逃すくらいの異次元の速さであり、私がそこに到達するビジョンが浮かばなかった。
 永井さんが何度も何度も拳や蹴りを繰り出す中、躱してばかりだった須藤さんに動きがあった。
 須藤さんの手刀がいつの間にか永井さんの首到達まであと1センチという所にまで迫っていた。

 「!…マジか!」

 永井さんは寸での所で須藤さんの手刀を躱し、須藤さんから2メートルの距離をとる。
 手刀が掠ったのか、永井さんの首に一本線の傷ができ、薄らと血を流していた。

 「ギリギリ躱したと思ったけど…ちょっと当たっちゃってたか」

 「…油断するな、永井昭斗」

 須藤さんがそう呟くと、永井さんの表情がパアッと満面の笑みを作り、須藤さんに全速力で急接近し始めた。

 「やっぱり!須藤さんとならしばらくは退屈しなさそうだ!」

 「……」

 須藤さんは無言のまま永井さんの手刀や拳、蹴りを躱しながらも応戦する、攻撃を繰り出す永井さんの方が須藤さんの攻撃を受けていたが、時間が経つうち今度は須藤さんの顔面に永井さんの拳が入った。

 「大分わかってきたかな」

 「……気抜くわけにはいかないか…」

 それから5分…10分…気づけば1時間と格闘が続く、さすがに限界に近づいたのか、双方共に息が切れかかっている。

 「やっぱり須藤さんとやると楽しいな、ずっと続けばいいのに…」

 「永井…お前に構っている暇はない」

 格闘を終わらせようと須藤さんと永井さんが殴り合いの死闘を繰り出す、そして、互いが相手に最大打撃を加えようとしたそのとき、突如間に一人の男性が割って入った。
 割って入った男性は双方の拳を握って攻撃を止める、予想外の出来事に私や綾城、止められた須藤さんと永井さん、そして周囲の自衛官らはあまりの光景に目を疑った。

 「はい、ここまで、これ以上やると、道場めちゃくちゃになりそうだし」

 その男性…明長良介が須藤さんと永井さんの拳を素手で抑えながら言う、突然の明長良介の登場に周囲はざわつく。

 「お前か…明長」

 「へえ~僕たちのを素手で止めたんだ~やるね~君」
 
 永井さんが感心する中、道場にもう一人男性が入って来る、入ってきたその人は、私と共同で任務を遂行した真白優助だった。

 「真白さん!」

 「久しぶり神城、それに綾城さん、これは一体…」

 道場内が静まる中、明長良介は笑顔で私たちに向けて口を開いた。

 「手合せするのもいいけど、やりすぎはよくないからね、俺じゃあ人のこと言えないかもだけど」

 こうして明長良介が割って出たことで、須藤さんと永井さんの手合せはここで終了した。
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