かつて世界を救った戦士たち

神町 恵

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2章 首都東京都奪還編

釈放

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 ピピピッ!ピピピッ!
 
 セットしておいた目覚ましが部屋中にけたたましく鳴り響いた、すぐに目覚まし時計のスイッチを切り起き上がる、着替えや歯磨き等の準備を済まし、私服に着替えて自室を出る。
 
 「そういや今日から新しく二人がメンバーとして入ってくる日だったな」

 俺は片山から集まるよう言われた場所と時間帯を元に共有スペースへと向かう。
 共有スペースに入るとそこにはすでに須藤がいた、俺は須藤の隣にあった椅子に座り、前橋で俺を助けてくれた時のお礼を言った。

 「その…須藤さん、あのとき殺されそうになった俺を助けていただいて…ありがとうございます」

 「…いや、大したことはしていない」

 須藤は俺にそう言い、会話はすぐに途切れてしまった。
 俺と須藤の二人だけの空間が不気味なほどに静かだった、少し気まずい空気が流れる、俺の脳裏には誰でもいいから誰か早く来てほしい思いだった。
 しばらくすると、須藤が俺に話しかけてきた。

 「真白…ケガの具合はどうだ?」

 「!…えっとまあ…一応完治はしました、もう足手まといにはならないとは思います…たぶん」

 俺がそう答えると、表情はほぼ変わっていなかったが、須藤は少しほっとしたような様子を見せた。
 いつも無表情か怖い表情しかしないこの男もあまり関わりのない俺の心配をしてくれるんだな。
 かれこれ数分が経つと、神城が共有スペースに入ってきた。

 「須藤さん、真白さん、おはようございます」

 神城からの挨拶に対し俺と須藤は会釈を返した、それぞれ挨拶を交わし終えると、神城が俺のところへと駆け寄って来た。

 「真白さん、ケガの具合はどうですか?全身骨折を負ったと聞きましたので…」

 「骨折はもう治ったよ、一か月も病院で暇してればそりゃもう完全に治るよ」

 俺の反応を見た神城は安心したような笑みを浮かべ、隣の椅子に腰かけた。
 神城と雑談を交わしていくと、加藤、永井、そして最後に片山と八城が共有スペースに入ってきた。

 「みんなとりあえず5人揃ったみたいだね、じゃあこれから君たちに新メンバーを紹介するね、二人とも!もう入っていいよ!」
 
 片山がドアに向かってそう呼ぶと、男女一人ずつ共有スペースへと入ってきた。
 一人は、スラっとした体形に長い髪を一つに縛っており、俺と歳が近いようではあるが、おそらく俺より年上であろう感じの女性だった。
 もう一人は、肌は白いが髪はボサボサで細身なのと身長はだいたい170㎝くらいと普通の男性のように見えるが、どこか感情の読めない感じの男性ではあった、そして何よりもその男性の目が青ったのには驚いた。

 「二人にはそれぞれ自己紹介してもらおうかな、じゃあまずは君からどうぞ」

 片山から最初に促された青い瞳を持つ男性は俺たちに視線を向けて自己紹介を始めた。

 「俺は明長良介っていう名前だけど、ん~あとは何を言えばいいかな~、あ!そうそう、しいて言うなら俺は浩樹とは昔からの友人ってくらいかな」

 「久しぶりだな、良介」

 「ああ、1年ぶりじゃない?刑務所以外で会うの」

 加藤と明長とで会話が弾むと、片山が2人に話しかけた。

 「懐かしいところ申し訳ないけど、まだもう一人の紹介が終わってないから話しはあとにしてね」

 「はーい、わかったよ、おじさん」

 「おじさん呼びやめて…僕はまだ若々しくいたいから…」

 「37のおっさんなのにね、まあ見た目だけみたら確かにまだ20代後半にしか見えないのも事実だけどね、初めてあった時は正直同い年かと思ったよ」
 
 そして、次にもう一人の女の子が自己紹介を始めた。

 「私は綾城楓と申します、皆さん、よろしくお願いします」

 「ほらほら、君も他に何か紹介したら?」

 「そうですね…」

 綾城は何を紹介しようか考えこみ、何かを思いついた素振りを見せると、綾城は口を開いた。

 「私の趣味は…可愛い物(者)を鑑賞することと、あとは…子供が好きってくらいですね」

 「へえ~、君は女の子らしい趣味を持っててかわいいね」
 
 「ふふ、片山さん、今時その言動だとセクハラにあたりますよ、私は別に気にしないので良いですけど、気を付けてくださいね」

 「あ、そうだったそうだった、気を付けるよ、綾城君」

 すると、綾城が俺と神城の方に視線を移し、ニコニコしながらこちらに近づいて来た。

 「あなたが神城ちゃんに真白君よね?」

 突然そう聞かれ、俺と神城は戸惑ったが、綾城からの質問にそれぞれ答えた。

 「はい、そうですが、俺が真白優助で…隣にいるのが神城彩月です」

 「は…初めまして、綾城さん」

 綾城という女…質問に答えると俺と神城を覗き込むようにまじまじと見つめてくる。
 覗き込むその瞳を見ただけで俺は背筋がゾッとした。
 その背景を見た八城は少しキレ気味で綾城に接近する。

 「綾城楓!なにをそんなに彩月ちゃ…彩月さんを見ているんだ!何を企んでいる!」

 神城のことを心配し(俺のことはどうでもいいみたいだが)、綾城に怒鳴りながら注意する、一方綾城は怯む様子もなく八城をスルーし、いきなり俺と神城の手を握ってきた。

 「よろしくね!彩月ちゃん!優助君!」

 「は…はあ、まあ…はい…よろしく…お願いします」

 「綾城さん、よろしくお願いします」

 「いいよいいよ!私のことは楓かお姉さんでもどんな呼び方でもいいから!」

 さっきまじまじと俺たちを見ていた表情とは一変し、急に優しい笑顔を浮かべて俺たちに親しく接する。
 予想外の出来事に驚き、最初は永井同様やべー奴かと思ったがただのコミュ力の高いお姉さんだったようだ、だが神城の方はまだ綾城のことを警戒している様子ではあった。

 「じゃあ自己紹介も終わったことだし、今日は特に任務もないからあとは自由というわけでゆっくりしていってね」

 片山の一言に須藤の左隣にいた永井が不服そうな顔で不満をこぼす。

 「えー今日は何もないのかー、つまんないな~…」

 永井の不満に対し片山はニコニコしながら永井からの一言を返す。

 「まあいいじゃないか、何もない日が一番いいんだから、あ!ごめん…刑司だけちょっとした任務があることを忘れてた」

 「俺は特に何もないから大丈夫だ、何か任務がある方が気持ちが楽だしな」

 「ごめんね刑司、いつも君を頼ってしまって…」

 「気にするな片山、こういうことはもう慣れている」

 やっぱりこの部隊の隊長となればかなり忙しいんだろうな、神城や加藤、永井もそうだ、須藤と同様多くの戦地で次々に任務を遂行させ、遂行後ほぼ無傷で無事帰還している、それに比べて俺なんて戦地に向かうと必ず重傷負って入院ってパターンだからまだ2回しか戦地に向かっていない。

 「いいなあ~、須藤さん、その任務…エイリアンの掃討任務なら僕も行きたいな~、だめ?片山ちゃん」

 「できるならそうしたいところだけど、君には明日、真白君と綾城君と共に宮城県内にいるエイリアンを始末してもらいたい」

 どうやら俺も行くみたいなのだが、永井と綾城との任務は初めてだ、まあ俺を含む3人なら永井と綾城の実力はどれほどのものなのかはまだわからないが、宮城県の奪還は容易だろう。

 「宮城ね!わかった!楽しみだな~僕を楽しませてくれるエイリアンが現れてくれるかな~」

 やっぱり永井は相変わらずヤバい奴だ、永井の反応になんだか急に不安な気持ちが大きくなってくる。
 すると、綾城が俺に視線を向けて話しかけてきた。

 「優助君、よろしくね」

 「あ…はい、俺もまだこの部隊に所属したばかりですが、なにかわからないことがあったら言ってください」

 「ありがとう」
 
 永井というサイコパスとの任務ではあるが、まともそうな綾城もいるなら大丈夫だろう。

 「じゃあというわけで、永井君、真白君、綾城君、よろしくね、神城君と加藤君、明長君に関しては後日新たな任務の詳細をPCで送るからそれまで休日を過ごしてて、刑司、ちょいとこっちに…」

 「ああ」

 片山が用件を言い終えると、須藤と共にそのまま共有スペースを出ていった。
 
 「じゃあ僕らも一旦解散というわけで、あとは特にやることないし、僕は部屋に戻ってるね」

 「お疲れ様です、永井さん」

 永井もそのまま共有スペースから退出し、自室へと向かった。

 「では俺は良介を案内しなくていけないから俺たちも出るからな」

 「じゃあ改めましてよろしくね皆、俺のこと好きなように呼んでいいから」

 加藤と明長が俺たちにそう言い残し、共に共有スペースから退出した。

 「真白さん、綾城さん、永井さんがいるから大丈夫だとは思いますが…くれぐれも気を付けてください」

 「大丈夫だよ彩月ちゃん、私はこう見えて…すごーく強いから、心配しないで」

 綾城に続いて俺も神城を不安にさせぬよう言葉をかける。

 「俺もだ神城、まだ2回しか任務に参加していないが、前橋での戦闘で十分慣れたしな」

 俺と綾城の言葉に神城は一瞬不安そうな顔をしたが、俺と綾城の姿をじっと見た後、神城の表情が少し明るくなり、控えめの笑みを見せた。

 「彩月ちゃん……かわいー!!」

 神城の笑みを見た綾城が突如神城を抱きしめた。
 
 「彩月ちゃんの笑ってるところかわいい!お持ち帰りしたい!」

 「えっ!?ちょっ!それは困ります!」

 綾城は自身の頬で神城の頬をこすりながらハグしていた。
 俺から見たらイチャイチャしているようにしか見えんが、この光景を見ているとなんだがこっちも急に気恥ずかしくなってくる。
 少しまともな人なのかなと思っていたが、やはり綾城という女性もあまりまともではなかった。

 
 ー2時間前

 「片山参与!やはりこの女を部隊に加えるのは危険です!」

 八城君が強めの怒気で僕にそう言った、そして八城の主張は続く。

 「たしかに綾城楓という者は当時茨城に拠点を置いていたエイリアンらを単独で約600体を殺害した実績はあります、しかし彼女が逮捕されるまでに殺してきたのはエイリアンだけではないんですよ!」

 「まあ…たしかに綾城楓君はエイリアンだけでなく、人間をも殺していたのは事実だ…子供に危害を加える者にはね」

 僕は八城に綾城楓という女性について説明を始めた。

 「綾城君の親は毒親でね、10年前まで綾城君の弟妹と共に両親から虐待を受けたそうだよ」

 「それは綾城楓の経歴書にも記されていましたね」

 「のちに綾城君は児相に虐待の相談をし、警察にも通報したことで両親は暴行及び傷害の罪で逮捕されたわけだ、おかげで綾城君とその弟、妹は無事保護され、3人共に同じ施設で安全に暮らしたとのことだよ…エイリアンが地球に侵攻してくるまではね」

 「そのことと綾城が犯した罪とで何か関係があるんですか?」

 八城君の問いに僕は答える。

 「大人から虐待を受けていた影響とエイリアンの侵攻で弟と妹が犠牲になったことが重なって、今の綾城君ができたんだよ、もう二度と弟と妹のような不幸を今を生きる子供たちに遭わせないためにね」
 
 「だから綾城はエイリアンだけでなく、”虐待を繰り返していた親たち”や”子供に危害を加えた人間、エイリアン”をも殺害したということですか?だからって人を殺していい理由には…」

 「たしかにね、君の言う通り、どんな理由があろうと人を殺すことは重罪だ、でもそれによって救われた命があるのも事実、僕らだって誰かを助けるために、エイリアンだけでなく…人間を殺らなければならない状況が生じることもあるかもしれないしね」

 それでも八城君は納得していない様子であった、まあたしかに9年前までの八城君はそういうのに無縁だったから無理もない。

 「綾城君は法的に罪に問われたけど、綾城君が今までに保護した虐待及びエイリアンによる拉致の被害者約3600人は命を失わず済んだ、23歳という若さで大したもんだよ」

 「でも…綾城はたしか年下への執着が激しいという報告がありますが、ほんとに大丈夫なんですか?」

 「……」

 「片山参与!何黙ってるんですか!?」

 八城君の問いに対しどう答えればいいのかちょっと焦る、でも答えないと八城君がしつこいので正直に話す。

 「しいて言うなら…多少ロリショタコンなところがあるくらい…かな」

 「参与…それまずいじゃないですか…彩月ちゃん危なくないですか?」

 八城君のその一言に僕は少し青ざめる、言われてみればたしかに嫌な予感がする。
 まあでも今回は綾城君と神城君は別々の任務だからしばらくは何も起こらないだろう。

 「だ…大丈夫でしょ、今回は別々の任務だし…神城君はまだ8歳ではあるけど見た目も中身も実質16歳だから大丈夫、たぶん」

 あれでも、よくよく考えたら真白君も綾城君より年下だから標的の対象になるのでは、明日の任務で一緒のチームだけど、でもまあ彼はショタって程ではないし、永井君がいるからまあ…大丈夫か。
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