かつて世界を救った戦士たち

神町 恵

文字の大きさ
上 下
18 / 40
1章 前橋死守編

前橋防衛戦 怨念

しおりを挟む
 ー前橋基地司令部

 「北部、西部、東部、南部、今のところ問題はありません」

 部下からの報告に私は安堵の息を吐いた。

 「なんとか作戦通りうまくいったようだな」

 すると片山参与が突如現れ、私に言葉をかけた。

 「さすが榎本さん、長年エイリアンの軍勢と戦い、研究を重ねてきた人は違いますね」

 「いえいえ、たまたまうまく事を進められただけです…」

 そして私は、とある調査の進捗状況を片山参与に聞いた。

 「そういえば参与、例の調査はどうなりましたか?この戦いの状況によっては、エイリアンに情報を流す"内通者"がわかるとのことですが…」

 「今のところはまだ確定した人物はいないけど…だいぶもう候補が絞れてきたよ」

 片山は各防犯カメラの映像と通信レーダーを眺めながら私にそう言った。
 エイリアンの大軍勢がここ前橋に侵攻しているにも関わらず、片山は冷静だった。
 
 「自衛隊の方たちも優秀ですね、エイリアンたちにばれずに背後に回って攻撃し、しかも銃がほとんど効かない代わりに対空機銃と迫撃砲で撃退するなんてね」
 
 「いえ、それだけではありませんよ片山参与、通常装備でも防備がされていない所…関節部分と前方の首に弾丸を通すことができるんですよ、まあ…そこに命中させるのも難しいですが…」

 「いやそれでもすごいよ、この調子なら…エイリアンを地球から追い出すことも夢じゃないね」

 「まあ…それが叶うといいですね」

 「ん?どうかしたかい?なんだか元気ないけど、体調悪い?」

 片山参与が私を心配し、体調の調子はどうか聞いてくる。

 「いえ、体調はとくに問題ないです、ただ…」

 私はここ最近の悩みを片山参与に打ち明けた。

 「9年前の侵攻が始まってから自衛官たちは変わってしまいました…、侵攻前は国家のためそして…国民のために誇りを持って日本国を守ってきました、しかし、今ではエイリアンへの憎しみを抱く者がほとんど…中には…親、恋人、子供を失ったがために復讐を生きがいとする者もおります」

 「榎本さん、もしかしてこの前のことを気にしているのですか?」

 片山参与の問いに私は答える。

 「そうですね…過去に私の部下たちが捕虜として捕らえたエイリアン…そしてエルフらに拷問や殺害を繰り返してましたので…それらを防げなかった私にも責任があります…」

 「まあそう自分をあまり責めないでくださいよ榎本さん、このご時世じゃあたぶん世界各国でもエイリアンやエルフたちに酷い扱いをしてますから…」

 「しかし、このままでは自衛隊…いやそれどころか全世界の軍人たちがいつかエイリアンらを殺戮する誤ちを犯すかもしれません、私は元より身内もいなかったので犠牲者はおらず、私では彼らの気持ちをわかってあげれません」

 「気持ちはわかるよ榎本さん、でも現状…その復讐心がなければ、僕たちはエイリアンらに勝つことはできない、僕が受け持っている部隊のほとんどはエイリアンへの復讐心に燃えてるしね…」

 片山参与はどこか悲しげな表情をしながら私に言った。

 「あなたも…やはりエイリアンたちを恨んでいるのですか?」

 私の問いに片山参与は静かに答えた。

 「そうだね…恨んでないって言ったら嘘になるかな」

 「そうですか…」

 「じゃあ僕はこれから大臣らに伝えなきゃいけないことがあるから指揮とかは任せたよ」

 片山参与は私にそう言い、司令部を出ていった。


 ー5分後

 「失礼します」

 ドアを開けると、室内には佐々木紘和防衛大臣と政務官の奥山政斗と橋本優正がいた。
 そして、僕は大臣の前に立ち、”内通者”に関する調査結果を報告した。

 「早速ですが、新しく内通者が見つかりました、内通者の名は”鈴木朔斗”、彼は防衛政策局に所属している職員であり、またエルフでもあります、エルフに関してはすでに密かに採取したDNAの検査で彼がエルフであることが証明されています、そして、彼が内通者であることはある方法を使って暴くことができました」

 「その方法とはなんだね、片山双悟政策参与」

 佐々木大臣の質問に僕は内通者の特定に至った経緯を説明した。

 「最初はまず、かつて9年前の情報流出の件で、当時その情報を事前に知っていたことと、エイリアンに情報を流せる環境、状況にある者たちのみを候補に絞り込みました、そのときの候補者は我々以外で4人いましたが今回の前橋防衛の作戦内容の一部をその4人にそれぞれ違う内容の機密資料を彼らに託しておきました」

 作戦内容の一部資料を内通者の候補らに渡していたことを知った奥山政務官が僕に怒号を浴びせてきた。

 「おい貴様!内通者かもしれない奴に機密資料を渡したのか!?一体何を考えているんだ!?」

 「まあまあ落ち着いてください奥山さん、片山参与には何か考えがあるんですよ」

 橋本政務官は奥山政務官をなだめ、場を収める。
 そして、橋本政務官は僕に本作戦の内容資料を内通者候補に漏らすようなことしたのかを聞いてきた。

 「なぜ、今回の防衛戦の作戦資料を彼らに渡したのですか?」

 「先程申した通り、一人ひとりそれぞれ違う内容の資料を託して、その4項目の内のどれかに作戦がエイリアンらが把握しているような動きを見せたら…」

 「!…まさか…」

 「はい、そのまさかです」

 僕の企みに気づいた奥山政務官と橋本政務官、そして佐々木防衛大臣が驚いた様子で僕を見ていた。

 「戦闘が開始されてから約1時間半といったところかな、そのとき僕は戦闘状況から見て、鈴木朔斗が内通者であることがわかったのです」

 「つまり…その鈴木朔斗という者にしか渡していなかった作戦の一部資料の内容が、戦闘地域でエイリアンの軍勢がその作戦の一部を知っていたかのような動きをみせたということか?」

 橋本政務官の質問に僕は答える。

 「その通り!鈴木朔斗に渡した資料には"敵に防衛線の守りが誰もいないように見せて、エイリアンが入ってきたところを四方で待機していた所から集中攻撃を加える"といったことが記してある資料を彼に託したんだ」

 僕の答えに奥山政務官はまた僕に怒りを向けてきた。

 「おい!このことは榎本将官はご存じなのか!」

 「ええ、榎本さんは今回内通者をあぶり出すのに協力するとの旨です、おかげで僕が内通者に漏らした内容を逆手に取り、急遽この日に一部4項目の作戦を変更、敵の裏をかくことができました」

 説明を終えると、橋本政務官が疑問を問いかける。
 
 「榎本将官は鈴木朔斗が内通者であることは知っていますか?」

 「いいえ、まだ榎本さんには伝えておりません、では僕はこれから部下たちと共に鈴木朔斗を取り押さえに向かいますのでこのことは我々だけのご内密というわけで…」

 大臣と政務官らにそう言い、僕は室内を出ていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜

柚亜紫翼
SF
真っ暗な宇宙を一人で旅するシエルさんはお父さんの遺してくれた小型宇宙船に乗ってハンターというお仕事をして暮らしています。 ステーションに住んでいるお友達のリンちゃんとの遠距離通話を楽しみにしている長命種の145歳、趣味は読書、夢は自然豊かな惑星で市民権とお家を手に入れのんびり暮らす事!。 「宇宙船にずっと引きこもっていたいけど、僕の船はボロボロ、修理代や食費、お薬代・・・生きる為にはお金が要るの、だから・・・嫌だけど、怖いけど、人と関わってお仕事をして・・・今日もお金を稼がなきゃ・・・」 これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。 時々鬱展開やスプラッタな要素が混ざりますが、シエルさんが優雅な引きこもり生活を夢見てのんびりまったり宇宙を旅するお話です。 遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。 〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜 https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

予言

側溝
SF
いろいろな話を書いていると、何個かは実際に起こってたり、近い未来に起こるんじゃないかと思う時がある。 そんな作者の作品兼予言10遍をここに書き記しておこうと思う。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【なろう440万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

処理中です...