異世界の神様

神町 恵

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序章 神となった青年

不条理

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 人間が誕生したその瞬間から地球は、いや、宇宙の概念を含むこの世界は善があれば逆に悪も存在する。
 しかもここ最近の悪も表では善を装い、善人を騙し、搾取する輩が増えてきている、これもただの偽善者どころではない、それよりもっとたちが悪く実害が発生する…こう何と言えば良いだろう、うまく表現できない。
 ただ一つわかるとすれば、そういう輩がいるせいでこの世界は今だに理不尽に塗れ、また不条理だ。
 善を装う悪のせいで善人が悪人に堕ちる例がいくつもある、そんな糞ったれな世界を、どうすれば浄化されるのか、俺自身そう考えることが何度かあった……気がする。

 「ここは…どこだ?」

 目を開けるとそこは真っ白な空間であった、音は一切聞こえず静観な時間だけが流れる。
 
 俺は確か……だめだ、思い出せない、なぜ俺がこんなところに?

 俺は上体を起こして辺りを見渡すが人がいる気配も何も感じない。
 この何もない空間の中で俺は立ち上がり、ブラブラと彷徨う。

 「ここはあの世か何かなのか?いやでも、俺が死んだとかは特に……あれ?」

 そう言えばここにいる前の記憶がほとんどない、わかっているのは、俺は人間、男性であること(見たまんまの通り)、年齢は19歳であったこと、この3点しか自身のことしか覚えていなかった。
 
 「俺は一体、誰なんだ?」

 その瞬間突如頭に激痛が走り、激痛がする頭を押さえて倒れてしまった。
 あまりの痛さに声にならない悲鳴を上げる。

 痛い…痛い!……頭が…割れ…破裂しそうだ!……

 誰もいない空間を頭を押さえながら床を這って助けを求める、しかし、誰もいないこの空間では何の反応もない。

 誰でもいい!……誰か!…助け…て……。

 意識を失いかけようとした、その時。

 「あら?久々の人間が倒れているね、でもおかしいわね?なんであなたがこんなところに?」

 目の前に白い布を纏った小柄な少女が立っており、俺を上から不思議そうに見下ろしていた。
 
 「あなた、お名前はなんて言うの?」

 少女の問いに対し俺は「わからない」と答える。

 「なんでわからないの?」

 「俺は、ここにいる以前の記憶がないんだ、なんでここにいるのか考えてたらいきなり頭が痛くなって……」

 すると少女は「ふーんっ」と頷き、俺の額を人差し指で触れて言った。

 「頭が痛くなったのはきっと記憶を無理やり呼び起こそうとしたからだね、思い出そうとすることも大事だけど、まずは安静にした方が良さそうね」

 そう言って少女は俺に手を差し伸べる。
 俺は少女の手を掴むと、少女に引っ張られ俺は頭痛がする頭を押さえながらゆっくりと身体を起こし立ち上がる。

 「お前は一体、誰なんだ?」

 少女に問うと、ニコッと笑顔を浮かべて言う。

 「私は女神、名前はあるにはあるけど立場上言えないの」

 少女が言った女神というワードに俺は?の文字が浮かび上がった。
 
 こんなちっこいのが女神?冗談だろ?

 「冗談じゃないよ」

 女神を名乗る少女が心を見透かす目で俺を見て言う。

 「それに、レディに対してちっこいなんて失礼でしょ」

 「す、すんません」

 こいつ、俺が思っていることがわかるのか!?

 また心を読まれるかもと思った俺は警戒心を高め少女をじっと睨む。

 「私はこう見えて少し前まではナイスボディな身体してたのよ、でもまあ色々とやらかして今はこんな姿だけどね」

 「じゃあその女神さんよ、ここはどこだ?」

 「ここは神界の白い監獄、元々ここは私の部屋だったんだけど、先程言った通り、以前にちょっとやらかしてここは今私を閉じ込めるための監獄になったのよ」

 「なんで俺がそんなところにいるんだ?」

 「さあ、わからないわ、100歩譲って召喚の間か他の神の部屋とかならわかるけど、なんで監禁の身である私のところにいるのか?さっぱりわからないね、あなた、記憶も一切ないんでしょ?」

 少女の指摘に俺は「ああっ」と頷くことしかできなかった。

 せめて、記憶さえあれば俺がここにいる理由がわかるはずなのに。

 記憶を辿ろうとするとまたも頭に激痛が走った。

 「ヴッ!イッ…頭が…!」

 すると少女がまた人差し指で俺の額に触れる。

 「どれ、少し頭の中に眠る記憶を見せてみろ」

 その瞬間、突如フラッシュの如く光を発し白い空間が光に包まれる。
 少し経過した頃に光が止み、いつの間にか俺の頭痛も収まっていた。
 閉じた目を開け少女を見ると、少女は「うーん」と考え込むように唸っていた。

 「記憶が…見れなかった、女神であるこの私が、なんでだろう、うーん……」

 「記憶が見れなかった?なんで記憶が見れなかったんだ?」

 「残念ながらそれはわからない、私の力が衰えた?いや、それはない、力を失ったとしても人間の記憶は見れるはずだ」

 少女が俺の顔をじっと見て、右手の甲に顎をおいて考え込む。

 「一応確認だけど、まさか人間じゃなく神とかじゃないよね?」

 少女の問いに俺は首を横に振る。

 「いや、たぶんそれはないと思う」

 「どうしてそう言い切れるんだい?」

 「記憶はないんですが、そのなんていうか……直感っていうか感覚かな?少なくとも俺は人間だったことは確かな気がするんだ」

 俺が少女にそう言うと、少女はさらに悩んだ。
 少女は難しい顔を浮かべて「うーんっ」と唸る、しばらく唸っていた少女は突如ニヤリッと口角を上げ、俺の肩をポンッと置いた。

 「あなた、もしよかったら私の代わりに神務をやってくれない?」

 「………ほあ?」

 少女の一言に俺の脳内は???でいっぱいだった。
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