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必要最低限の家具があるだけの殺風景な部屋に、ユラユラと揺れる1本のロープ。その下にテーブルをセットし、3歩下がって眺める。我ながらよく出来た首吊り自殺セットだ。
さあ、首を吊ろう。今日の僕は、とてつもなく死にたいんだ。死にたい理由は何でも良い。敢えて理由を付けるとすれば、今日で冷蔵庫の中身を使い切ったからだ。
一息吐いて、テーブルに足をかける。
その時だった。バァンという乱暴な音が響いた。一拍置いて、部屋の空気よりも、少し冷えた空気が首筋を撫でる。振り向けば、玄関先でやけに自信満々な顔をした、たった1人の友人が片手を上げた。
「よお、遊びに来たぜ」
そう言って笑うと、無遠慮に靴を脱ぎ、部屋に上がってくる。仕方無しに、テーブルにかけた足を下ろす。
「また、何の用ですか。連絡も無しに」
「いやぁ、暇潰しに散歩してたんだけどさ、すぐそこまで来たから寄ってみたんだよ。あ、そうだ、腹減ったんだけど、なんか作ってくれよ」
いつもの様に、あっけらかんと自分勝手な事を言う彼は、部屋を見渡した。そして、やっと気付いたのか、天井にぶら下がるロープに目が止まった。
「……お前、」
今更ながら、見られてはいけないものを見られてしまったと、無意識にびくりと体が跳ねた。たっぷり10秒は沈黙の時間が流れる。
「模様替えか?お前の部屋、飾りっけないもんな。そうだ、ドーナッツ作ってくれよ」
一体、何からそんな発想が生まれたのか、聞くまでもない。自分で作っておいてなんだが、よくもこんなものを見て、食べ物に結び付けるられるな、と呆れた。
「生憎ですが、材料がありません。お店で買って食べてはどうですか?」
「は?」
間抜けな声を出して、すぐさま冷蔵庫を開けに行く。迷いの無いその行動には、本当に呆れかえる。ここは彼の実家では無いのだと何度窘めたって、やめたことは無い。
「うわっ、マジじゃん。え~、やだよぉ。俺は、お前の作ったドーナッツが食いたいの!じゃあ、しょうが無い、買いに行こうぜ、材料代は俺が持つからさ」
と、いかにもいい事を思いついたといった様子で、笑いかけてくる。
「ふふ。全く、あなたは我儘ですね。分かりました、買い物に行きましょう。そして、ドーナッツの材料代をあなたが持つのは当然ですよ、あなたが勝手に言い出した事なんですから」
その笑顔につられて、こっちまで笑ってしまった。
さっきまでは少なからず重苦しい空気だったはずが、すっかり霧散してしまったようだ。彼は空気清浄機か何かなのだろうか。
我が意を得たりとばかりに、僕の腕を引っ張る彼が居るならば、少なくとも、今回買う食料が無くなるまでは生きていてもいいか、なんて思えてしまうのだ。
〔死にたい人と腹ぺこな人〕
さあ、首を吊ろう。今日の僕は、とてつもなく死にたいんだ。死にたい理由は何でも良い。敢えて理由を付けるとすれば、今日で冷蔵庫の中身を使い切ったからだ。
一息吐いて、テーブルに足をかける。
その時だった。バァンという乱暴な音が響いた。一拍置いて、部屋の空気よりも、少し冷えた空気が首筋を撫でる。振り向けば、玄関先でやけに自信満々な顔をした、たった1人の友人が片手を上げた。
「よお、遊びに来たぜ」
そう言って笑うと、無遠慮に靴を脱ぎ、部屋に上がってくる。仕方無しに、テーブルにかけた足を下ろす。
「また、何の用ですか。連絡も無しに」
「いやぁ、暇潰しに散歩してたんだけどさ、すぐそこまで来たから寄ってみたんだよ。あ、そうだ、腹減ったんだけど、なんか作ってくれよ」
いつもの様に、あっけらかんと自分勝手な事を言う彼は、部屋を見渡した。そして、やっと気付いたのか、天井にぶら下がるロープに目が止まった。
「……お前、」
今更ながら、見られてはいけないものを見られてしまったと、無意識にびくりと体が跳ねた。たっぷり10秒は沈黙の時間が流れる。
「模様替えか?お前の部屋、飾りっけないもんな。そうだ、ドーナッツ作ってくれよ」
一体、何からそんな発想が生まれたのか、聞くまでもない。自分で作っておいてなんだが、よくもこんなものを見て、食べ物に結び付けるられるな、と呆れた。
「生憎ですが、材料がありません。お店で買って食べてはどうですか?」
「は?」
間抜けな声を出して、すぐさま冷蔵庫を開けに行く。迷いの無いその行動には、本当に呆れかえる。ここは彼の実家では無いのだと何度窘めたって、やめたことは無い。
「うわっ、マジじゃん。え~、やだよぉ。俺は、お前の作ったドーナッツが食いたいの!じゃあ、しょうが無い、買いに行こうぜ、材料代は俺が持つからさ」
と、いかにもいい事を思いついたといった様子で、笑いかけてくる。
「ふふ。全く、あなたは我儘ですね。分かりました、買い物に行きましょう。そして、ドーナッツの材料代をあなたが持つのは当然ですよ、あなたが勝手に言い出した事なんですから」
その笑顔につられて、こっちまで笑ってしまった。
さっきまでは少なからず重苦しい空気だったはずが、すっかり霧散してしまったようだ。彼は空気清浄機か何かなのだろうか。
我が意を得たりとばかりに、僕の腕を引っ張る彼が居るならば、少なくとも、今回買う食料が無くなるまでは生きていてもいいか、なんて思えてしまうのだ。
〔死にたい人と腹ぺこな人〕
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