25 / 53
5.ふたりの距離感
024
しおりを挟む
翌週の金曜日。お盆に入り、あの失態から一週間経っていた。火曜日に出勤した際、最初は緊張でお腹が痛かったけれど、いざ仕事をはじめてみると思ったよりも平常心でいられた。
「おはよ、由紀乃。いろいろ心配かけてごめんね」
更衣室でファミレスの制服に着替えながらあいさつを交わす。
由紀乃に会うのは一週間ぶり。でもその間、何度もスマホにメッセージをもらった。
「元気そうでよかったよ。昨日もおとといもシフトが入ってたから、あたり前といえばあたり前なんだけど」
「でもけっこうへこんでるよ。耳に入ってこないだけで、陰でいろいろ言われてるんだろうなあ」
「気にしたってしょうがないよ。最初は興味津々でも、どうせすぐに飽きるって。それより佐野先生だよ。結局、彼女と別れちゃったんでしょう?」
「そうみたい。本人とは話してないけど」
佐野先生とは連絡を取り合っていない。というか、わたしから連絡をしなければつながりなんて、あっけなく途絶えてしまうような関係だ。
「もしかしてこの状況は輝にとってチャンスなんじゃないの?」
「いやあ、さすがにいまはそっとしてあげたほうがいいと思うんだ。弱ってるときにつけ入るみたいでやだし」
だけどなんとか接点をもたないと会うことなく終わってしまうような気がする。由紀乃にはああは言ったけれど、本音はなんとかしなければと焦っていた。
制服に着替え終わると、自分の手鏡でくまなく全身をチェックする。襟もとやエプロンの肩ひものよじれに気をつけないと。お客からクレームがくるので気が抜けない。
うちの店の制服は黒の膝丈スカートに白いブラウス、白黒のギンガムチェックのエプロンというコスプレの一歩手前みたいなデザイン。わたしはかわいいなんて思ったことはないけれど、巷ではわりと評判らしく、裏のネットオークションでは数万円の高値がついているとか。
「それにしても貸与の制服をどうやってオークションに出品するんだろうね」
非常識すぎて神経を疑う。わたしにはそんな発想はないなあ。
「辞めるときに返却せずに持ち帰るらしいよ」
「それって犯罪じゃん」
「でも世の中には需要というものがあってね、そこまでしちゃう子があとを絶たないらしいよ」
「へえ」
ほかの店は知らないけれど、うちの店はそんなことをする人はいないと思う。渋谷店長はそのあたりのチェックは厳しそうだ。
「そうそう! お店に制服フェチが出没することもあるらしいから気をつけなよ」
「え? 誰か被害に遭ったの?」
「どこの店舗なのかはわかんないんだけど、ネットに書いてあった。店内で盗撮されたり、制服を高値で売ってくれって頼まれたりしたって。なんか怖いよねえ」
「ほんと、気持ち悪い……」
その日はいつも以上に混み合っていた。何組もの家族連れ、友達グループや男女のカップルのほか、学生のサークルらしき十名ほどの団体客もいて忙殺状態。
でもいまのわたしにはそれくらいがちょうどいい。気がゆるむと佐野先生がするりと入り込んできて、わたしの心のなかをかき乱してしまうから。
「おはよ、由紀乃。いろいろ心配かけてごめんね」
更衣室でファミレスの制服に着替えながらあいさつを交わす。
由紀乃に会うのは一週間ぶり。でもその間、何度もスマホにメッセージをもらった。
「元気そうでよかったよ。昨日もおとといもシフトが入ってたから、あたり前といえばあたり前なんだけど」
「でもけっこうへこんでるよ。耳に入ってこないだけで、陰でいろいろ言われてるんだろうなあ」
「気にしたってしょうがないよ。最初は興味津々でも、どうせすぐに飽きるって。それより佐野先生だよ。結局、彼女と別れちゃったんでしょう?」
「そうみたい。本人とは話してないけど」
佐野先生とは連絡を取り合っていない。というか、わたしから連絡をしなければつながりなんて、あっけなく途絶えてしまうような関係だ。
「もしかしてこの状況は輝にとってチャンスなんじゃないの?」
「いやあ、さすがにいまはそっとしてあげたほうがいいと思うんだ。弱ってるときにつけ入るみたいでやだし」
だけどなんとか接点をもたないと会うことなく終わってしまうような気がする。由紀乃にはああは言ったけれど、本音はなんとかしなければと焦っていた。
制服に着替え終わると、自分の手鏡でくまなく全身をチェックする。襟もとやエプロンの肩ひものよじれに気をつけないと。お客からクレームがくるので気が抜けない。
うちの店の制服は黒の膝丈スカートに白いブラウス、白黒のギンガムチェックのエプロンというコスプレの一歩手前みたいなデザイン。わたしはかわいいなんて思ったことはないけれど、巷ではわりと評判らしく、裏のネットオークションでは数万円の高値がついているとか。
「それにしても貸与の制服をどうやってオークションに出品するんだろうね」
非常識すぎて神経を疑う。わたしにはそんな発想はないなあ。
「辞めるときに返却せずに持ち帰るらしいよ」
「それって犯罪じゃん」
「でも世の中には需要というものがあってね、そこまでしちゃう子があとを絶たないらしいよ」
「へえ」
ほかの店は知らないけれど、うちの店はそんなことをする人はいないと思う。渋谷店長はそのあたりのチェックは厳しそうだ。
「そうそう! お店に制服フェチが出没することもあるらしいから気をつけなよ」
「え? 誰か被害に遭ったの?」
「どこの店舗なのかはわかんないんだけど、ネットに書いてあった。店内で盗撮されたり、制服を高値で売ってくれって頼まれたりしたって。なんか怖いよねえ」
「ほんと、気持ち悪い……」
その日はいつも以上に混み合っていた。何組もの家族連れ、友達グループや男女のカップルのほか、学生のサークルらしき十名ほどの団体客もいて忙殺状態。
でもいまのわたしにはそれくらいがちょうどいい。気がゆるむと佐野先生がするりと入り込んできて、わたしの心のなかをかき乱してしまうから。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
I Still Love You
美希みなみ
恋愛
※2020/09/09 登場した日葵の弟の誠真のお話アップしました。
「副社長には内緒」の莉乃と香織の子供たちのお話です。長谷川日葵と清水壮一は生まれたときから一緒。当たり前のように大切な存在として大きくなるが、お互いが高校生になったころから、二人の関係は複雑に。決められたから一緒にいるのか?そんな疑問を持ち始めた壮一は、日葵にはなにも告げずにアメリカへと留学をする。何も言わずにいなくなった壮一に、日葵は傷つく。そして7年後。大人になった2人は同じ会社で再会するが……。
ずっと一緒だったからこそ、迷い、悩み、自分の気持ちを見失っていく二人。
「副社長には内緒」を読んで頂かなくても、まったく問題はありませんが読んで頂いた後の方が、より楽しんで頂けるかもしれません。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

先生と私。
狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。
3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが…
全編甘々を予定しております。
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる