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8.信じる力
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午後八時。
なんとか仕事を終えて、迎えに来てくれた野上さんの車に乗り込む。
国産の黒いミニバンは整然としていて清潔な感じだ。
コタさんの営む『洋食 須崎亭』までは、ここから車で十分もかからない。幹線道路に面していて、わたしも車で何度も通っている。
野上さんの話だと、もともとはメインエリアから外れた場所で営業していたそうだ。けれど駐車場不足や建物の老朽化の問題が深刻となり、コタさんが洋食屋を継いだタイミングで、今の場所へ移転したということだった。
洋食屋を訪れ、しばらくすると、シェフ姿のコタさんが「いらっしゃい」とテーブルまで来てくれた。
テーブルには先ほど運ばれてきたオムレツ、ビーフシチュー、ポークカツレツ、サラダが並んでいる。
「来てくれてうれしいよ、咲都ちゃん!」
コタさんがハイテンションで歓迎してくれた。
だけど、「咲都ちゃん」とは? この間はそんな呼び方じゃなかったのに。なんだか照れくさい。
「ごめん。咲都ちゃんって呼ぶの、気に入らなかった?」
「いいえ、かまいません。でも、“ちゃん”づけで呼ばれることはあまりないので慣れていなくて。そう呼ぶのは商店街の一部の、それも年配の人くらいなんです」
「そうなんだあ。じゃあ、若者では俺だけってことか」
「はい、そういうことになりますね」
コタさんは「よしよし」と、ご機嫌な様子で言う。
「相変わらずコタは軽いな。春名さんは分別のある人だから大丈夫だけど、そんなんだから女の子が勘違いしちゃうんだよ」
「だってそのほうが早く仲よくなれるじゃん。それに咲都ちゃんっていい子そうだから、もっと仲よくなりたいと思って」
野上さんがあきれたようにため息をつく。どうやらコタさんはチャラい……じゃなかった。かなり人懐っこい性格らしい。
「厨房は放っておいていいのか?」
野上さんが食べながらコタさんに尋ねると、コタさんが「残念、ただ今休憩中」と野上さんの隣に座った。
「それにしても驚いたな。ついこの間、冴島から彼女だと紹介されたばかりなのに、まさか野上と咲都ちゃんがねえ……」
コタさんが意味深につぶやく。
「ちが、違います! わたしと野上さんはそういうんじゃなくて、今日はいろいろと相談にのってもらおうと思いまして……」
そこまで言って、コタさんが笑いをこらえているのに気がつき、からかわれているのだとわかった。
「コタ、今日はまじめな話なんだよ。茶化したいだけなら遠慮してくれないか?」
「なるほど、それでふたりが一緒なのか。で、冴島がなにやったの?」
「コタ……」
「しょうがないだろう。休憩時間短いんだから、さっさと本題に入らないと」
「だったら仕事に戻れよ」
「そうはいくかよ。咲都ちゃんが悩んでいるなら俺も協力する。俺でよければ力になるよ、咲都ちゃん」
コタさんまで巻き込んでしまった。ディナータイムと重なって忙しいのに申し訳ない気持ちになる。
まったく、わたしはなにをやっているのだろう。冴島さんに直接聞けばいいのに。どんな答えでもそれが事実なら受け止めなくてはならないんだ。
だからといって、今のわたしにはその覚悟がないのだけれど……。
なんとか仕事を終えて、迎えに来てくれた野上さんの車に乗り込む。
国産の黒いミニバンは整然としていて清潔な感じだ。
コタさんの営む『洋食 須崎亭』までは、ここから車で十分もかからない。幹線道路に面していて、わたしも車で何度も通っている。
野上さんの話だと、もともとはメインエリアから外れた場所で営業していたそうだ。けれど駐車場不足や建物の老朽化の問題が深刻となり、コタさんが洋食屋を継いだタイミングで、今の場所へ移転したということだった。
洋食屋を訪れ、しばらくすると、シェフ姿のコタさんが「いらっしゃい」とテーブルまで来てくれた。
テーブルには先ほど運ばれてきたオムレツ、ビーフシチュー、ポークカツレツ、サラダが並んでいる。
「来てくれてうれしいよ、咲都ちゃん!」
コタさんがハイテンションで歓迎してくれた。
だけど、「咲都ちゃん」とは? この間はそんな呼び方じゃなかったのに。なんだか照れくさい。
「ごめん。咲都ちゃんって呼ぶの、気に入らなかった?」
「いいえ、かまいません。でも、“ちゃん”づけで呼ばれることはあまりないので慣れていなくて。そう呼ぶのは商店街の一部の、それも年配の人くらいなんです」
「そうなんだあ。じゃあ、若者では俺だけってことか」
「はい、そういうことになりますね」
コタさんは「よしよし」と、ご機嫌な様子で言う。
「相変わらずコタは軽いな。春名さんは分別のある人だから大丈夫だけど、そんなんだから女の子が勘違いしちゃうんだよ」
「だってそのほうが早く仲よくなれるじゃん。それに咲都ちゃんっていい子そうだから、もっと仲よくなりたいと思って」
野上さんがあきれたようにため息をつく。どうやらコタさんはチャラい……じゃなかった。かなり人懐っこい性格らしい。
「厨房は放っておいていいのか?」
野上さんが食べながらコタさんに尋ねると、コタさんが「残念、ただ今休憩中」と野上さんの隣に座った。
「それにしても驚いたな。ついこの間、冴島から彼女だと紹介されたばかりなのに、まさか野上と咲都ちゃんがねえ……」
コタさんが意味深につぶやく。
「ちが、違います! わたしと野上さんはそういうんじゃなくて、今日はいろいろと相談にのってもらおうと思いまして……」
そこまで言って、コタさんが笑いをこらえているのに気がつき、からかわれているのだとわかった。
「コタ、今日はまじめな話なんだよ。茶化したいだけなら遠慮してくれないか?」
「なるほど、それでふたりが一緒なのか。で、冴島がなにやったの?」
「コタ……」
「しょうがないだろう。休憩時間短いんだから、さっさと本題に入らないと」
「だったら仕事に戻れよ」
「そうはいくかよ。咲都ちゃんが悩んでいるなら俺も協力する。俺でよければ力になるよ、咲都ちゃん」
コタさんまで巻き込んでしまった。ディナータイムと重なって忙しいのに申し訳ない気持ちになる。
まったく、わたしはなにをやっているのだろう。冴島さんに直接聞けばいいのに。どんな答えでもそれが事実なら受け止めなくてはならないんだ。
だからといって、今のわたしにはその覚悟がないのだけれど……。
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