34 / 62
6.慣れない恋人関係
034
しおりを挟む
それからの食事の時間は最高に楽しかった。冴島さんの学生時代の思い出をたくさん聞かせてもらい、運ばれてくるコース料理は完食。
今日は車で来ているため、残念ながらお酒は飲めなかったけれど、アルコールが入っているのかと思うくらい、冴島さんは陽気に笑っていた。
食事を終えると船のデッキに出て、海風にあたりながら夜景を見た。レインボーブリッジや高層ビル群の光に魅了され、その美しさに言葉をなくす。
そのとき、肩がふわりとなにかに包まれた。
「冷やすといけないから」
肩にかけられたのは肌触りのいいストール。シルクのようななめらかさで、薄手の生地なのに不思議とあたたかく感じた。
「これって……」
「プレゼント。船に乗る前に急きょクルーズ会社に頼んで用意してもらった」
いつの間にそんな手配までしていたのだろう。空港のターミナルビルでわたしがトイレに行っているときだろうか。どちらにしてもそのときしか思いつかない。
だけど、こんなに尽くしてもらっていいのかな。わたしはもらうだけもらって、なにも返せていない。
「ありがとうございます。これ、大事にします」
「よかった、受け取ってくれて」
「えっ?」
「“頂けません”って突っ返されるかと思ったから」
「……うれしかったので」
ストールを選んだのは別の人だけれど、用意をしてくれたそのやさしさがうれしい。
心があたたかくなっていく。
だけど、いつもわたしを見てくれているのだと思ったらドキドキして、嫌でも意識してしまう。
もう、こんなに好きなんだ。
決して強引じゃなかった。うまい具合に誘われて、気づけば冴島さんの存在はわたしの心を大きく占めていた。彼の言葉や仕草、そして表情に一喜一憂させられているのがその証拠だ。
「どうかした? もしかして船酔い?」
「い、いいえ! ぜんぜん平気です」
「じゃあ照れてるだけかな?」
からかうように言われ、またも思考を読まれているのだとわかった。
わたしは図星でなにも言い返せない。
「僕の前では正直でいてほしいって言ったよね?」
改めてこの至近距離に戸惑う。間近で顔を覗き込まれ、思わず一歩あとずさりした。
「そうですけど。恋愛なんて久しぶりですし、えっと、その……あまり経験が豊富というわけでもなくて……」
さっきよりも少しだけ開いた距離。だけど冴島さんがその分をすかさず詰めてくる。わたしは顔を見られなくて、夜の真っ黒な海に視線を移した。
冴島さんのことを好きという気持ちが急速に大きくなっていくことに、わたし自身が追いついていけないのだろうか。わたしも自分の熱い想いを伝えたいのに、いざとなると怖くなってしまう。
おかしいな。こんなはずではなかったのに。どうして怖いと思ってしまうのだろう。
「僕もどうしていいのかわかんなくなる」
「えっ?」
少し困ったように言うので、びっくりして冴島さんを見上げた。
わたし、なにかしたのだろうか。なんとなく冴島さんの気を悪くさせてしまったような気がした。
だけど冴島さんは甘く微笑みながら言った。
「春名さんのこと、現在進行形でどんどん好きになっていくよ。まさか自分がこんなにも誰かに夢中になるとは思ってもみなかった」
夜でよかった。とろけそうな彼の声を聞いているだけで、心臓がバクバクして大変なことになっている。もし明るいところできれいな顔が目の前にあったら直視できないと思う。
わたしは心を落ち着けようと深呼吸を繰り返す。
そんなわたしをよそに、冴島さんはだんだんと余裕を取り戻したみたいで、海風を気持ちよさそうに受けながら夜景を眺めていた。
今日は車で来ているため、残念ながらお酒は飲めなかったけれど、アルコールが入っているのかと思うくらい、冴島さんは陽気に笑っていた。
食事を終えると船のデッキに出て、海風にあたりながら夜景を見た。レインボーブリッジや高層ビル群の光に魅了され、その美しさに言葉をなくす。
そのとき、肩がふわりとなにかに包まれた。
「冷やすといけないから」
肩にかけられたのは肌触りのいいストール。シルクのようななめらかさで、薄手の生地なのに不思議とあたたかく感じた。
「これって……」
「プレゼント。船に乗る前に急きょクルーズ会社に頼んで用意してもらった」
いつの間にそんな手配までしていたのだろう。空港のターミナルビルでわたしがトイレに行っているときだろうか。どちらにしてもそのときしか思いつかない。
だけど、こんなに尽くしてもらっていいのかな。わたしはもらうだけもらって、なにも返せていない。
「ありがとうございます。これ、大事にします」
「よかった、受け取ってくれて」
「えっ?」
「“頂けません”って突っ返されるかと思ったから」
「……うれしかったので」
ストールを選んだのは別の人だけれど、用意をしてくれたそのやさしさがうれしい。
心があたたかくなっていく。
だけど、いつもわたしを見てくれているのだと思ったらドキドキして、嫌でも意識してしまう。
もう、こんなに好きなんだ。
決して強引じゃなかった。うまい具合に誘われて、気づけば冴島さんの存在はわたしの心を大きく占めていた。彼の言葉や仕草、そして表情に一喜一憂させられているのがその証拠だ。
「どうかした? もしかして船酔い?」
「い、いいえ! ぜんぜん平気です」
「じゃあ照れてるだけかな?」
からかうように言われ、またも思考を読まれているのだとわかった。
わたしは図星でなにも言い返せない。
「僕の前では正直でいてほしいって言ったよね?」
改めてこの至近距離に戸惑う。間近で顔を覗き込まれ、思わず一歩あとずさりした。
「そうですけど。恋愛なんて久しぶりですし、えっと、その……あまり経験が豊富というわけでもなくて……」
さっきよりも少しだけ開いた距離。だけど冴島さんがその分をすかさず詰めてくる。わたしは顔を見られなくて、夜の真っ黒な海に視線を移した。
冴島さんのことを好きという気持ちが急速に大きくなっていくことに、わたし自身が追いついていけないのだろうか。わたしも自分の熱い想いを伝えたいのに、いざとなると怖くなってしまう。
おかしいな。こんなはずではなかったのに。どうして怖いと思ってしまうのだろう。
「僕もどうしていいのかわかんなくなる」
「えっ?」
少し困ったように言うので、びっくりして冴島さんを見上げた。
わたし、なにかしたのだろうか。なんとなく冴島さんの気を悪くさせてしまったような気がした。
だけど冴島さんは甘く微笑みながら言った。
「春名さんのこと、現在進行形でどんどん好きになっていくよ。まさか自分がこんなにも誰かに夢中になるとは思ってもみなかった」
夜でよかった。とろけそうな彼の声を聞いているだけで、心臓がバクバクして大変なことになっている。もし明るいところできれいな顔が目の前にあったら直視できないと思う。
わたしは心を落ち着けようと深呼吸を繰り返す。
そんなわたしをよそに、冴島さんはだんだんと余裕を取り戻したみたいで、海風を気持ちよさそうに受けながら夜景を眺めていた。
0
お気に入りに追加
378
あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました
蓮恭
恋愛
恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。
そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。
しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎
杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?
【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる