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6.慣れない恋人関係

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 店に戻ると、塔子さんに冴島さんからジュエリーショップの生け込みの仕事を紹介してもらったことを伝えた。
 塔子さんはブランド名を聞いて大興奮。なんでも有名なブランドらしく、そういうのに疎いわたしは塔子さんから教えてもらい、ようやく自分が思っていた以上に大きな仕事なのだと認識できた。

「失敗したらどうしよう。わたし、うまくできるかな?」
「いつものようにやればいいのよ」
「そうだよね。一生懸命がんばるしかないよね」
「だけど、がんばりました、努力しましただけじゃだめなのよ。先方がどんなものを求めているのかをしっかり把握して期待に応えなさい」
「それ、お父さんがよく言ってたセリフじゃない」
「あら、そうだった?」

 塔子さんがおどけるように言った。

 仕事をしているときの父はストイックだった。普段は穏やかでやさしい人なのに、花に向き合っているときはまるで人が変わる。
 わたしが高校生のとき、店内のディスプレイのアレンジメントをやらせてもらったことがあったのだけれど。何度もだめ出しされて、やり直しをさせられた。
 ──「自分が作りたいものを上手に作ればいいってもんじゃないんだ」
 結局、わたしの作ったものは採用されず、飾られることもなかった。

 つくづく思う。あの頃のわたしはなにもわかっていなかったのだなあと。
 自己満足だけでは商売は成り立たない。つまり、自分本位のきれいや可愛いだけじゃだめなんだって。お客様が喜んでくださるもの、満足してもらえるものを作ることが大事なのだと思う。

「大丈夫、咲都はいいものを作ることができるわよ。なんてたってお父さんの血を受け継いでいるんだから」

 なんだかんだ言っても、塔子さんに励まされると元気が出てくる。わたしを紹介してくださった冴島さんにも迷惑がかからないよう、しっかり務め上げなければ。



 先方から電話がかかってきたのはその日の夕方だった。さっそく冴島さんが連絡を入れてくれたのだ。彼に感謝しながら、簡単なコンセプトの説明と打ち合わせ日程を決めて、その日は電話を終えた。

「どうだった?」

 塔子さんが電話の内容を気にして尋ねてきた。

「あさって、打ち合わせに伺うことになったの」

 レセプションは九日後。来週木曜日の夕方から。思ったよりも急なスケジュールだけれど問題はない。
 塔子さんに電話の内容を簡単に説明すると、「店の心配はいらないからね」と言ってくれて心強く思った。
 なんだかワクワクしてくる。さっきまでの不安が嘘のように吹き飛び、期待に胸がふくらんだ。
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