FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-

さとう涼

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5.この想いを届けたとき

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 約束の土曜日。今日は冴島社長の誕生日。
 夕方、早めに店をあがらせてもらい、代わりに塔子さんが店に入った。
 塔子さんに事情を説明したとき、そりゃあもう大変なはしゃぎっぷりだった。「孫の顔を早く見たいわ」と言い出す始末で、あきれるばかり。
 別につき合うことになったわけじゃないし、向こうだってそういうことまで考えていないかもしれないのに。

 店の奥にある事務所で、手持ちの普段着の服で一番高いワンピースに着替え、髪とメイクを整える。姿見がないので卓上の鏡でなんとかチェックした。

「大丈夫かなあ」

 服装もそうだけれど、知らない人ばかりのところにおじゃまするのはかなり緊張する。
 誘われて浮かれている場合じゃなかった。大学時代といっても冴島社長のお友達ということはハイスペックの人ばかりなんじゃないだろうか。

「はぁ……」

 無意識にため息がもれた。
 するとそこに塔子さんが入ってきたので、慌てて口を閉じた。

「どうしたの? せっかくのデートだっていうのに」
「デートじゃないから。それより、この服おかしくない?」

 くるりとまわると、塔子さんはいつになくまじめな顔つきになった。

「やっぱり変?」
「ううん、きれいよ」
「本当?」
「あたり前でしょう。お母さんの娘なんだから」

 言うと思った。こんなんだから、ぜんぜん参考にならない。

「ふざけないで」
「ふざけてないわよ。咲都はきれいよ。どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘。もっと自分に自信を持ちなさい」
「急にどうしたの?」

 普段はこんなこと言わないのに。

「お母さんはうれしいのよ。お父さんが死んでから、咲都はずっと花屋のことばかり。休みの日も机に向かって花の勉強をしてるでしょう。だから咲都がようやく自分のために時間を使うようになってくれて安心したわ。楽しんできなさいね」

 塔子さんに言われ、一心不乱に仕事に打ち込んできたこれまでのことを振り返る。
 花屋の娘だけれど、わたし自身、花屋としてのスタートが遅かった分、ハンデのように感じていた。だから、もっともっと努力しなくちゃいけないのだと自分を鼓舞し、恋愛も娯楽も封印してきた。
 でもさすがにストイックすぎたのかな。
 これからは自分のために……。榎本くんも言っていたように、仕事とプライベートをちゃんと分けよう。まわりに心配されないように、もっと自分の人生を楽しまないとね。



 夜の七時。迎えにきてもらった冴島社長の車に乗り込んだ。

「今日はお招きいただいてありがとうございます」

 けれどそう言った途端、思いきり笑われた。むくれていると、「ごめん」と明るい声が返ってくる。

「そんなに堅苦しい集まりじゃないから安心して。初対面で気を使うかもしれないけど、あんまり変な人は来ないと思う」
「だとしても緊張します」

 ていうか、たまに変な人が来るような言い方だな。

「そっか。でも今日来るやつらは気さくでいいやつばかりのはず」
「別に冴島社長のお友達を怪しんでいるわけじゃありませんから」

 そう言ってシートベルトに手を伸ばす。すると冴島社長に、「荷物はうしろに置くよ」とわたしの膝の上の紙袋を持とうとするので、とっさにシートベルトから手を離した。

「これ、もしよかったらなんですけど……」

 わたしは紙袋に視線を落とした。
 紙袋のなかには夕べ作ったかごブーケが入っている。花瓶などを用意せず、すぐに飾れるよう、籐のかごに花を飾った。
 冴島社長は手ぶらでいいと言ってくれたけれど、花屋である以上、こういうときこそ心のこもった花をプレゼントしたいと思った。

「テーブルに飾っていただければと思いまして。どなたかほしい方がいらっしゃれば、その方に持ち帰ってもらってかまいません」
「そんなこと言ったら奪い合いになりそうだな。それ、すごくきれいだから。ちょっと不思議な色だね」

 ハンドルに手を置きながら、顔を斜めにして覗き込む。

「プリザーブドフラワーなんです」
「聞いたことあるよ。一度、脱色してから染料液で着色するんだよね」
「さすが、よくご存じですね。人工の色なので生花とはまた違うんです」
「なんか好きだな、そういう色合い」

 しみじみと言われ、ドキリとする。
 その姿が妙に色っぽくて、プリザーブドフラワーのことなのに変に意識してしまう。

「カラフルに色を取りそろえたんですが、スモーキーな色で統一したので、仰々《ぎょうぎょう》しくなくてお部屋の雰囲気をじゃましないかと思います」
「ありがとう、ぜひ飾らせてもらうよ」

 意外にも好感触でうれしい。男の人に花をあげても興味を持ってくれないと思ったけれど、がんばって作ってきてよかった。
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