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第4章 心配性の王子様
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ダークブラウンのタイル張りの外観。オートロックつきで築浅の建物は、ハイセンスで清潔感があって落ち着いた印象だった。
三階建てアパートの世良さんの部屋は二階にあり、間取りは十帖のリビングダイニングと八帖の寝室。ひとり暮らしには十分な広さの1LDKである。
てっきり豪華なマンションに住んでいるのかと思っていた。タワーマンションとまではいかなくても、きらびやかな夜景と華やかなシャンデリアがあるのかなと勝手に想像していた。
そのことを世良さんに言ったら大笑いされてしまったが、よくよく考えたら世良さんがセレブ生活をしているほうがおかしいわけで、出会って七年目にして世良さんの実態を知ったような気がした。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「僕は今から夕飯を作るから、亜矢ちゃんはくつろいでいて」
リビングであたたかい紅茶でおもてなしされ、その上そんなセリフを聞かせられて、はいそうさせていただきますと誰が言えるだろう。
「わたしもお手伝いします」
すっくと立ち上がり、髪もシュシュでまとめて、やる気を見せた。
お世話になるのだし、お料理くらいはお手伝いしなきゃ。……お料理、得意じゃないけど。
「亜矢ちゃんは座ってて。疲れたでしょう?」
「大丈夫ですから」
「ううん、そんなことないよ。たぶん自分で思っている以上に疲れているはずだよ」
ゆっくりと諭すような声は、父のようであり母のようでもある。甘い旋律のように奏でられる声は、その時々で色を変える不思議な音色。
それと同時にあたたかく癒やしてくれる包容力は、元彼にも感じたことがなかった。
「そういう計算なしの上目遣いは、いつ見ても強力だな」
「上目遣い? あっ、ごめんなさい。そんなつもりはないんですけど」
「身長差があるから自然とそうなるんだよ」
クルンとしたまつ毛の目が一度瞬きする。そんな目で言われても、その言葉をそのままお返ししますとしか言えない。
世良さんに見つめられると、知らず知らずのうちに虜になって見入ってしまうからなのに。
「今日はごはんを食べたら早めに寝よう。亜矢ちゃんの手料理は明日堪能することにするよ」
世良さんがわたしを気遣って、そう言ってくれた。
「わかりました。でもわたし、お料理があまり得意ではないので期待しないでくださいね」
「そう言われても期待しちゃうよ。楽しみだなあ」
とびきりの笑顔がまぶしい。こんなことなら、もっと真剣にお料理をやっておけばよかった。元彼に何度か手料理を振る舞うことはあったけれど、でしゃばって奥さん気取りで作るわりにはさほどでもなくて、たいして喜ばれなかった
うちは母がなんでもやってくれていたから。お料理もお洗濯もお掃除も完璧な良妻賢母の母なのだ。
「世良さんは、明日お休みですか?」
明日は土曜日。わたしも世良さんの会社も完全週休二日制。だけど世良さんは休日出勤するのかな?
「夕方前には帰ってくるよ」
やっぱり忙しいんだ。今日の分を取り返さないといけないのかもしれない。
「わたしはアパートに行ってきますね。保険会社の鑑定人の方がいらっしゃるので」
「ひとりで大丈夫?」
切なそうに揺れる瞳が麗しい。ときめきそうになる胸を必死に抑えて、わたしはなんとか普通に笑ってみせた。
「大丈夫ですよ」
「でも、あんな怖い場所にひとりで行かせたくないよ」
「世良さんったら過保護過ぎです。それにひとりじゃありません。保険会社の方がいますから」
本当は実家の両親も来ることになっている。さっき電話をしたら、心配した母が上京すると言い出したのだ。
両親はホテルに泊まる予定。でも、わたしが世良さんのお家に泊めてもらっていることがバレやしないか内心ヒヤヒヤ。母には、前の会社の同期の女の子の家にお世話になると言ってごまかしたけれど、母は意外に勘が鋭いので心配なのだ。
「じゃあ、保険のことは亜矢ちゃんを信用するとして。お腹空いたから、さっそくごはんを作るよ」
このお部屋はアイランドキッチン。リビングのソファに座ったまま、キッチンの水道で世良さんが手を洗っているのを見ていると、萌さんから着信が入った。
『ごめんね、亜矢。今、ホテルに戻ってきたところなの』
少し前に萌さんに電話を入れていたので、着信履歴を見てかけてくれたのだろう。
『それで、亜矢は大丈夫?』
「平気だって。もう、みんな同じようなことばっかり言うんだから」
両親も春山社長も世良さんも、みんなわたしを心配してくれている。
アパートが火事になって部屋が水浸しになってしまったショックはかなりのものだけど、人のあたたかさとやさしさに触れて、怖さや不安が自然とやわらいでいた。
『世良さんの家にいるのよね?』
「なんで知ってるの?」
『聖人《まさと》からメールがあったのよ』
聖人とは春山社長のこと。
ああ、だから春山社長は萌さんが上海に出張中というのを知っていたのか。
今でもそういった近況を報告し合う仲なんだなと関係ないことに感心しながら、話が早くて助かったと思った。
「成り行きでそんなことに……。あの、お父さんたちには……」
萌さんは父の妹だから、口止めをしておかなきゃ。
『わかってるわよ。言えないわよ、そんなこと。それに聖人が強引に仕向けたんでしょう?』
「そうなの。あれよあれよという間に、こんな段取りになってた」
『でもわたしも安心よ。知っている人が亜矢を預かってくれるんだもの。それに世良くんは無理やりなことをしない人だものね』
萌さんも世良さんの人柄を知っているから、そんなことが言える。それくらい世良さんへの信頼度が高い。
「うん。だから心配ないよ」
この日は、萌さんが帰国する夜に、萌さんのマンションに行く約束をして電話を終えた。
やっぱり萌さんは頼りになる。友達が少ないわたしにとって、萌さんは身内であると同時に親しい友人みたいな関係なのだ。
ふと視線を感じてキッチンのほうを見ると、世良さんがこちらを見ていた。
「萌さんからでした」
「そう」
「帰国したら電話をくれるそうです」
「わかった」
世良さんはそれだけ言うと、料理を再開する。電話の内容をたずねることはなかった。
王子様は包丁を握らせても格好いい。トントンとまな板の鳴る音を聞いていたら、なにを作るんだろうと興味がわいた。
わたしは紅茶のカップを手にダイニングテーブルの椅子に座った。
「ここで見ていてもいいですか?」
「いいけど、見られると照れるな。失敗しちゃったらどうしよう」
手を止めて、茶目っけたっぷりに言う。
「万が一おいしくなくても食べますから、どうぞ続けてください」
「亜矢ちゃんにまずいものは食べさせられないよ。僕のオリジナル特製カレーにしようかと思ったけど、市販のカレールーを使おうかなあ」
軽いイジワルのつもりみたいで、「カレールー、どこだっけ」とおどけながら、奥の吊り戸棚を開けてさがす素振りをした。
その様子がなんとも微笑ましい。わたしもついはしゃいでしまった。
「ごめんなさい! ジロジロ見ませんからオリジナル特製カレーを作ってください!」
両手を合わせてお願いすると、世良さんはこらえきれないとばかりにプッとふき出したので、ふたりで笑い合った。
「仕方ないなあ。がんばって作るよ」
世良さんのお部屋で、世良さんのお料理をしている姿を見ながら、世良さんが淹れてくれた紅茶を飲む。これってかなりの贅沢。世良さんファンの女の子が知ったらなんて思うだろう。
今までの女の子もこうして、ここに座って、世良さんのお料理する様子を眺めていたのかな。彼女だったらそうしたいと思うだろうし、世良さんの鮮やかな手つきは見ているだけなのに飽きることがない。
「いつもこうしてお料理をするんですか?」
「週に一、二度くらいかな。あとは身体が野菜を欲するとき」
「それ、わかります」
わたしもひとり暮らしだから食事のバランスが偏ってしまう。ほんのひと手間をかけることすら面倒なときもあって、根菜類なんかは疎遠になるなあ。
「前は料理なんてやらなかったけど。年をとったせいかな」
「年齢は関係ないですよ。男の子もお料理しますよ。うちの事務所にも弁当男子がいますから」
見習わなきゃと思っていたところ。不器用なりにも手作りのお弁当はおいしそうなんだもん。
お弁当かあ。世良さんに作ってあげたいなあ。でも独身の世良さんが会社にお弁当を持っていったら、女の子たちになにを言われるかわからないから、やめておいたほうがいいのかな。
そんなことを考えていると、玉ねぎを炒める音が聞こえてきて、ジロジロ見ませんと言いながらも夢中になって見てしまう。
やがてカレーの香りか漂ってきた。ゴロゴロ野菜が入ったお鍋にホールトマトとローリエを入れ、さらに煮込んでいく。
合間にハムとレタスのサラダを作り、洗い物まですませる段取りのよさ。サラダが盛りつけられる頃には野菜入りシーフードカレーもできあがっていた。シーフードは冷凍物を使っていたけれど、それでも本格的。野菜が大きいのは男の人らしくて、食べごたえがありそうだった。
「いい匂いですね」
「でも味はどうかな?」
ごはんも炊けて、世良さんがカレーを盛りつけている。その間にわたしはカトラリーをテーブルにセッティングして、サラダを並べた。
「さあ、食べようか」
それから向かい合わせに座ると、ふたりで「いただきます」と言って、世良さんの特製カレーを味わった。
「どう?」
世良さんが心配そうに小さな声でたずねる。
「とってもおいしいです。牛乳が入っているんですか?」
「ヨーグルトドリンクだよ」
「ドリンクだから酸味が少ないんですね。真似したいです」
「どうぞ。でもなんとなく入れてみただけなんだ。前に亜矢ちゃんがヨーグルトが大好きだって言っていたから」
そういえばそんな話をしたような気がする。そんな些細なことを覚えてくれていたんだ。
「いつもは入れないんですか?」
「今日が初めてだよ。たまたま今日あったから」
世良さんは楽しそうに言うと、スプーンを口に運んだ。
「意外にいけるね」
スパイシーな味がまろやかになったシーフードカレー。世良さんみたいなやさしい味。
本当はあまり食欲がなかった。やはり火事のショックと疲れが響いていたのだろう。それなのに自分でもびっくりするくらい食が進んだ。
夕飯の時間は和やかに過ぎていった。「安物だけど飲みやすいよ」と白ワインまで開けてくれて、カレーとワインという不思議な組み合わせを楽しんだ。
今まで何度も食事をともにしているせいか、初めての世良さんのお部屋なのにリラックスできる。だけど話題が今日の寝床のことになったとき、急に現実を思い出してカチカチに固まってしまった。
「僕のベッドでよければ使ってほしいんだ」
「世良さんはどこで寝るんですか?」
「ソファを使うよ」
ふたりでリビングのソファに視線を移した。
三人掛けのソファの座り心地はとてもいい。だけど世良さんは細身だが背は高い。ソファだと窮屈で身体が休まらないと思う。
「わたしがソファで寝ます。世良さんはそのままベッドを使ってください」
「僕は別にどこでもいいんだよ」
「よくないです。居候がベッドを占領するなんて、そんなことできませんから!」
しかし……。
シャワーを借りて、歯磨きもすませて、あとは寝るだけというとき。わたしはベッドの上に正座し、世良さんを見上げていた。
「あの、すみません」
「さすがにソファで寝させる男はいないでしょう?」
「……そうですね」
ここは寝室。究極にドキドキの場所。けれど、わたしの服装は着古したヨレヨレのロンTとスウェットパンツ。ムードなんてものは微塵もなく、落ち着いたダウンライトの下で見事な健全ぶりを発揮していた。
あれだけソファで寝ると豪語していたのに、世良さんに言いくるめられ、ベッドで寝ることになった。萌さんは月曜日に帰国する。今日から三泊だけの短い期間なので、おとなしく従うことにした。
「亜矢ちゃん?」
「はい」
世良さんがベッドに腰かけてきた。わたしの身体が小さく揺れる。頭にふわっとした感触を覚え、視線を合わせると、頭上にある手のひらがゆっくりと動く。
わたしを怖がらせないように。なにもしないから安心してと伝えるように何度も髪を撫でつけて、催眠術にかかったかのようにわたしの心はゆるゆると安らいでいく。
「この部屋にいることに遠慮しなくていいんだよ」
「はい」
「亜矢ちゃんは女の子なんだ。身体を冷やしちゃいけないし、慣れない環境の上にソファなんかで寝て睡眠不足になんてなったら、それこそ僕が困るんだよ」
わたしは頭を撫でられながら、静かに語りかけてくる言葉にじっと耳を傾けていた。
「僕の母さんが言うんだ。女の子は赤ちゃんを産む身体だから大事にしなさいって。お腹には赤ちゃんを育てる大切な臓器があるから乱暴に扱ってはいけないんだよって。僕は小さい頃から、そう言われて育ってきた」
世良さんが微笑む。
世良さんがやさしいのはお母さん譲りなんだね。もちろん、お父さんもそうなんだろうな。だからお母さんは自分の子どもにそんなふうに言えるのだと思う。
「僕は亜矢ちゃんを大事にしたい。だから亜矢ちゃんも自分の身体をもっと大事にしてほしいんだ」
こんなことが言える男の人をわたしはほかに知らない。世良さんのやさしさの根底にあるものは、もっと大きくて深いもの。上辺だけの人じゃないんだ。
「世良さんみたいな人、初めてです」
「結婚する気になった?」
「えっと、それは……」
「いいんだよ。言っただろう。何度でもプロポーズするって。それに、こういう時間もなかなか楽しいし、結構満足しているよ」
世良さんの精いっぱいの気配りが心地いい。
世良さん、わたしもなかなか楽しいです。あなたと一緒にいると嫌なことを忘れていられるんです。怖さも憂鬱さも、ハチミツみたいな甘い蜜に上手に溶かされていくんです。
「おやすみ。ゆっくり休んでね」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
照明が落とされて、世良さんがドアの向こうに消えた。わたしは安心してベッドに身体を沈める。すると思いのほか身体は疲れていたらしく、吸い込まれるように眠りに落ちた。
目覚めるとカーテンの隙間から光がこぼれている。
おかしいな、さっき眠ったばかりなのに。そんなことを考えながら、再び目を閉じかけてハタと気がついた。
「朝ごはん!」
時刻は七時三十分を過ぎている。平日だったら遅刻だ。だけど今日は土曜日。世良さんは何時に出勤するんだろう。昨日の夜にちゃんと聞いておけばよかった。
急いで着替えてボサボサの髪の毛をきゅっとひとつに結ぶ。それから化粧ポーチを持って音を立てないようにドアを開ける。するとキッチンの明かりが見えた。
今朝もさわやかな笑顔を振りまいて、世良さんがキッチンで「おはよう」と声を発した。わたしは化粧ポーチを胸のあたりに抱えながら小さくおじぎをする。
「お、おはようございます。あの……洗面所、お借りします」
「どうぞ。朝ごはん、もうすぐできるから」
あっ、遅かったか。夕べはおまかせしてしまったので、朝はわたしが作ろうと思っていたのに。
「なに? どうかした?」
足を止めて突っ立っているわたしを不審に思った世良さんがたずねてくる。
「わたしが朝ごはんを作りたかったんですけど、スマホのアラームをセットするのを忘れてました」
「かえってゆっくり眠れたみたいで、よかったよ」
「ホテルに泊まらなくて正解でした。ひとりで過ごしていたら心細かったと思います」
「これからのことも、ひとりでなんとかしようなんて思わないで。僕がいる」
「世良さん……」
ふとしたときに考えてしまう。
火事の原因は放火とは決まっていないけれど、故意に火をつけられたと思うと恐ろしい。もし部屋にいるときに火事になっていたら、部屋は燃えなくても煙を吸っていたかもしれない。その煙で最悪なことだってあり得る。
世良さんも春山社長も、わたしをひとりにさせられないと言ってくれた。あの火災現場を見て、わたしが精神的に参ってしまうのを見越していたのだ。
「あの部屋は引き払おう。すぐに修繕が終わるとしても、あんな場所に住まわせるわけにいかない」
世良さんが真剣に語る。
心強く感じた。引っ越すことまでは考えが及ばなかったけれど、たしかに放火だとしたら犯人が捕まるまで、あの部屋には戻りたくない。犯人が捕まったとしても変な想像ばかりしてしまいそう。
「部屋は解約します。今日、管理会社にもそのことを話してきます」
「新しく住む場所のことは僕が力になるから」
だけど世良さんはうつむいてしまった。それからなにか言いたげに唇を動かす。それから意を決するように静かに息を吐いた。
「正直に言うと、春山社長よりも僕を頼ってほしいんだ」
世良さんがゆっくりと顔を上げる。
「格好悪いね。よりにもよって春山社長に嫉妬しちゃうなんて」
春山社長に嫉妬?
なにを言い出すのかと思ったら。そんなの想像するのもばかばかしい。あり得ない。春山社長が聞いたら大爆笑するに決まっている。
「わたしと春山社長は親子みたいなものですよ」
「それはわかっているんだよ。恋敵っていう意味じゃなくて……、なんて説明すればいいんだろう。たとえば相手が大久保さんでも同じように思っちゃうかな」
「世良さんって変わってますね」
「自分でもそう思うよ。亜矢ちゃんのことになると、大人げなくなっちゃうんだよ」
世良さんは肩をすぼめ、照れたように言う。
「それを聞いてほっとしました。わたしと春山社長がだなんて、考えただけで笑っちゃいます。それに春山社長は──」
そう言いかけて止めた。
わたしの勘違いかもしれない。春山社長が今でも萌さんのことを想っているなんて、まさかそんなわけないよね。
「大久保さんのこと?」
「世良さんも感じます?」
「うん。あのふたりを見ていると、離婚したとは思えないくらい、いい感じなんだよね。ただ僕は結婚していた頃のふたりを知らないんだけど」
「離婚前も今も、あまり変わっていませんよ。あのふたりは昔からあんな感じです」
プライベートでも人前で露骨にのろけることをしないふたりだった。おまけに、ふたりとも自己主張が強いわりに、喧嘩をするところを見たことがなくて、理想的な大人の関係に見えた。
「でも、ふたりが話し込んでいるときには、入り込めないものがあるよね」
「そうなんですよ。じゃましちゃ悪いなと思っちゃうんです」
「しっかりと男と女の関係に見えるね」
萌さんは春山社長のことを思って事務所を離れた。その気持ちを知らない春山社長なのに、いまだに萌さんを気にかけている。自分のせいでライティングの世界から遠のかせた責任を感じているように思えた。
だからもう一度この世界に呼び戻したいのかな?
春山社長は、萌さんが持ってくるライティングデザインの案件のいくつかを断っていた。
小さな店舗のデザインは萌さんが得意としていたところ。萌さんのほうが顧客の要望を熟知してデザインに生かせると判断したものは、萌さんの会社に仕事を受けさせていた。萌さんの才能を埋もれさせないように、うちの事務所の利益よりもデザイナーとしての萌さんを優先している。
はたから見ると、そんなふたりは互いを思いやっているように見えてならないのだ。
三階建てアパートの世良さんの部屋は二階にあり、間取りは十帖のリビングダイニングと八帖の寝室。ひとり暮らしには十分な広さの1LDKである。
てっきり豪華なマンションに住んでいるのかと思っていた。タワーマンションとまではいかなくても、きらびやかな夜景と華やかなシャンデリアがあるのかなと勝手に想像していた。
そのことを世良さんに言ったら大笑いされてしまったが、よくよく考えたら世良さんがセレブ生活をしているほうがおかしいわけで、出会って七年目にして世良さんの実態を知ったような気がした。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「僕は今から夕飯を作るから、亜矢ちゃんはくつろいでいて」
リビングであたたかい紅茶でおもてなしされ、その上そんなセリフを聞かせられて、はいそうさせていただきますと誰が言えるだろう。
「わたしもお手伝いします」
すっくと立ち上がり、髪もシュシュでまとめて、やる気を見せた。
お世話になるのだし、お料理くらいはお手伝いしなきゃ。……お料理、得意じゃないけど。
「亜矢ちゃんは座ってて。疲れたでしょう?」
「大丈夫ですから」
「ううん、そんなことないよ。たぶん自分で思っている以上に疲れているはずだよ」
ゆっくりと諭すような声は、父のようであり母のようでもある。甘い旋律のように奏でられる声は、その時々で色を変える不思議な音色。
それと同時にあたたかく癒やしてくれる包容力は、元彼にも感じたことがなかった。
「そういう計算なしの上目遣いは、いつ見ても強力だな」
「上目遣い? あっ、ごめんなさい。そんなつもりはないんですけど」
「身長差があるから自然とそうなるんだよ」
クルンとしたまつ毛の目が一度瞬きする。そんな目で言われても、その言葉をそのままお返ししますとしか言えない。
世良さんに見つめられると、知らず知らずのうちに虜になって見入ってしまうからなのに。
「今日はごはんを食べたら早めに寝よう。亜矢ちゃんの手料理は明日堪能することにするよ」
世良さんがわたしを気遣って、そう言ってくれた。
「わかりました。でもわたし、お料理があまり得意ではないので期待しないでくださいね」
「そう言われても期待しちゃうよ。楽しみだなあ」
とびきりの笑顔がまぶしい。こんなことなら、もっと真剣にお料理をやっておけばよかった。元彼に何度か手料理を振る舞うことはあったけれど、でしゃばって奥さん気取りで作るわりにはさほどでもなくて、たいして喜ばれなかった
うちは母がなんでもやってくれていたから。お料理もお洗濯もお掃除も完璧な良妻賢母の母なのだ。
「世良さんは、明日お休みですか?」
明日は土曜日。わたしも世良さんの会社も完全週休二日制。だけど世良さんは休日出勤するのかな?
「夕方前には帰ってくるよ」
やっぱり忙しいんだ。今日の分を取り返さないといけないのかもしれない。
「わたしはアパートに行ってきますね。保険会社の鑑定人の方がいらっしゃるので」
「ひとりで大丈夫?」
切なそうに揺れる瞳が麗しい。ときめきそうになる胸を必死に抑えて、わたしはなんとか普通に笑ってみせた。
「大丈夫ですよ」
「でも、あんな怖い場所にひとりで行かせたくないよ」
「世良さんったら過保護過ぎです。それにひとりじゃありません。保険会社の方がいますから」
本当は実家の両親も来ることになっている。さっき電話をしたら、心配した母が上京すると言い出したのだ。
両親はホテルに泊まる予定。でも、わたしが世良さんのお家に泊めてもらっていることがバレやしないか内心ヒヤヒヤ。母には、前の会社の同期の女の子の家にお世話になると言ってごまかしたけれど、母は意外に勘が鋭いので心配なのだ。
「じゃあ、保険のことは亜矢ちゃんを信用するとして。お腹空いたから、さっそくごはんを作るよ」
このお部屋はアイランドキッチン。リビングのソファに座ったまま、キッチンの水道で世良さんが手を洗っているのを見ていると、萌さんから着信が入った。
『ごめんね、亜矢。今、ホテルに戻ってきたところなの』
少し前に萌さんに電話を入れていたので、着信履歴を見てかけてくれたのだろう。
『それで、亜矢は大丈夫?』
「平気だって。もう、みんな同じようなことばっかり言うんだから」
両親も春山社長も世良さんも、みんなわたしを心配してくれている。
アパートが火事になって部屋が水浸しになってしまったショックはかなりのものだけど、人のあたたかさとやさしさに触れて、怖さや不安が自然とやわらいでいた。
『世良さんの家にいるのよね?』
「なんで知ってるの?」
『聖人《まさと》からメールがあったのよ』
聖人とは春山社長のこと。
ああ、だから春山社長は萌さんが上海に出張中というのを知っていたのか。
今でもそういった近況を報告し合う仲なんだなと関係ないことに感心しながら、話が早くて助かったと思った。
「成り行きでそんなことに……。あの、お父さんたちには……」
萌さんは父の妹だから、口止めをしておかなきゃ。
『わかってるわよ。言えないわよ、そんなこと。それに聖人が強引に仕向けたんでしょう?』
「そうなの。あれよあれよという間に、こんな段取りになってた」
『でもわたしも安心よ。知っている人が亜矢を預かってくれるんだもの。それに世良くんは無理やりなことをしない人だものね』
萌さんも世良さんの人柄を知っているから、そんなことが言える。それくらい世良さんへの信頼度が高い。
「うん。だから心配ないよ」
この日は、萌さんが帰国する夜に、萌さんのマンションに行く約束をして電話を終えた。
やっぱり萌さんは頼りになる。友達が少ないわたしにとって、萌さんは身内であると同時に親しい友人みたいな関係なのだ。
ふと視線を感じてキッチンのほうを見ると、世良さんがこちらを見ていた。
「萌さんからでした」
「そう」
「帰国したら電話をくれるそうです」
「わかった」
世良さんはそれだけ言うと、料理を再開する。電話の内容をたずねることはなかった。
王子様は包丁を握らせても格好いい。トントンとまな板の鳴る音を聞いていたら、なにを作るんだろうと興味がわいた。
わたしは紅茶のカップを手にダイニングテーブルの椅子に座った。
「ここで見ていてもいいですか?」
「いいけど、見られると照れるな。失敗しちゃったらどうしよう」
手を止めて、茶目っけたっぷりに言う。
「万が一おいしくなくても食べますから、どうぞ続けてください」
「亜矢ちゃんにまずいものは食べさせられないよ。僕のオリジナル特製カレーにしようかと思ったけど、市販のカレールーを使おうかなあ」
軽いイジワルのつもりみたいで、「カレールー、どこだっけ」とおどけながら、奥の吊り戸棚を開けてさがす素振りをした。
その様子がなんとも微笑ましい。わたしもついはしゃいでしまった。
「ごめんなさい! ジロジロ見ませんからオリジナル特製カレーを作ってください!」
両手を合わせてお願いすると、世良さんはこらえきれないとばかりにプッとふき出したので、ふたりで笑い合った。
「仕方ないなあ。がんばって作るよ」
世良さんのお部屋で、世良さんのお料理をしている姿を見ながら、世良さんが淹れてくれた紅茶を飲む。これってかなりの贅沢。世良さんファンの女の子が知ったらなんて思うだろう。
今までの女の子もこうして、ここに座って、世良さんのお料理する様子を眺めていたのかな。彼女だったらそうしたいと思うだろうし、世良さんの鮮やかな手つきは見ているだけなのに飽きることがない。
「いつもこうしてお料理をするんですか?」
「週に一、二度くらいかな。あとは身体が野菜を欲するとき」
「それ、わかります」
わたしもひとり暮らしだから食事のバランスが偏ってしまう。ほんのひと手間をかけることすら面倒なときもあって、根菜類なんかは疎遠になるなあ。
「前は料理なんてやらなかったけど。年をとったせいかな」
「年齢は関係ないですよ。男の子もお料理しますよ。うちの事務所にも弁当男子がいますから」
見習わなきゃと思っていたところ。不器用なりにも手作りのお弁当はおいしそうなんだもん。
お弁当かあ。世良さんに作ってあげたいなあ。でも独身の世良さんが会社にお弁当を持っていったら、女の子たちになにを言われるかわからないから、やめておいたほうがいいのかな。
そんなことを考えていると、玉ねぎを炒める音が聞こえてきて、ジロジロ見ませんと言いながらも夢中になって見てしまう。
やがてカレーの香りか漂ってきた。ゴロゴロ野菜が入ったお鍋にホールトマトとローリエを入れ、さらに煮込んでいく。
合間にハムとレタスのサラダを作り、洗い物まですませる段取りのよさ。サラダが盛りつけられる頃には野菜入りシーフードカレーもできあがっていた。シーフードは冷凍物を使っていたけれど、それでも本格的。野菜が大きいのは男の人らしくて、食べごたえがありそうだった。
「いい匂いですね」
「でも味はどうかな?」
ごはんも炊けて、世良さんがカレーを盛りつけている。その間にわたしはカトラリーをテーブルにセッティングして、サラダを並べた。
「さあ、食べようか」
それから向かい合わせに座ると、ふたりで「いただきます」と言って、世良さんの特製カレーを味わった。
「どう?」
世良さんが心配そうに小さな声でたずねる。
「とってもおいしいです。牛乳が入っているんですか?」
「ヨーグルトドリンクだよ」
「ドリンクだから酸味が少ないんですね。真似したいです」
「どうぞ。でもなんとなく入れてみただけなんだ。前に亜矢ちゃんがヨーグルトが大好きだって言っていたから」
そういえばそんな話をしたような気がする。そんな些細なことを覚えてくれていたんだ。
「いつもは入れないんですか?」
「今日が初めてだよ。たまたま今日あったから」
世良さんは楽しそうに言うと、スプーンを口に運んだ。
「意外にいけるね」
スパイシーな味がまろやかになったシーフードカレー。世良さんみたいなやさしい味。
本当はあまり食欲がなかった。やはり火事のショックと疲れが響いていたのだろう。それなのに自分でもびっくりするくらい食が進んだ。
夕飯の時間は和やかに過ぎていった。「安物だけど飲みやすいよ」と白ワインまで開けてくれて、カレーとワインという不思議な組み合わせを楽しんだ。
今まで何度も食事をともにしているせいか、初めての世良さんのお部屋なのにリラックスできる。だけど話題が今日の寝床のことになったとき、急に現実を思い出してカチカチに固まってしまった。
「僕のベッドでよければ使ってほしいんだ」
「世良さんはどこで寝るんですか?」
「ソファを使うよ」
ふたりでリビングのソファに視線を移した。
三人掛けのソファの座り心地はとてもいい。だけど世良さんは細身だが背は高い。ソファだと窮屈で身体が休まらないと思う。
「わたしがソファで寝ます。世良さんはそのままベッドを使ってください」
「僕は別にどこでもいいんだよ」
「よくないです。居候がベッドを占領するなんて、そんなことできませんから!」
しかし……。
シャワーを借りて、歯磨きもすませて、あとは寝るだけというとき。わたしはベッドの上に正座し、世良さんを見上げていた。
「あの、すみません」
「さすがにソファで寝させる男はいないでしょう?」
「……そうですね」
ここは寝室。究極にドキドキの場所。けれど、わたしの服装は着古したヨレヨレのロンTとスウェットパンツ。ムードなんてものは微塵もなく、落ち着いたダウンライトの下で見事な健全ぶりを発揮していた。
あれだけソファで寝ると豪語していたのに、世良さんに言いくるめられ、ベッドで寝ることになった。萌さんは月曜日に帰国する。今日から三泊だけの短い期間なので、おとなしく従うことにした。
「亜矢ちゃん?」
「はい」
世良さんがベッドに腰かけてきた。わたしの身体が小さく揺れる。頭にふわっとした感触を覚え、視線を合わせると、頭上にある手のひらがゆっくりと動く。
わたしを怖がらせないように。なにもしないから安心してと伝えるように何度も髪を撫でつけて、催眠術にかかったかのようにわたしの心はゆるゆると安らいでいく。
「この部屋にいることに遠慮しなくていいんだよ」
「はい」
「亜矢ちゃんは女の子なんだ。身体を冷やしちゃいけないし、慣れない環境の上にソファなんかで寝て睡眠不足になんてなったら、それこそ僕が困るんだよ」
わたしは頭を撫でられながら、静かに語りかけてくる言葉にじっと耳を傾けていた。
「僕の母さんが言うんだ。女の子は赤ちゃんを産む身体だから大事にしなさいって。お腹には赤ちゃんを育てる大切な臓器があるから乱暴に扱ってはいけないんだよって。僕は小さい頃から、そう言われて育ってきた」
世良さんが微笑む。
世良さんがやさしいのはお母さん譲りなんだね。もちろん、お父さんもそうなんだろうな。だからお母さんは自分の子どもにそんなふうに言えるのだと思う。
「僕は亜矢ちゃんを大事にしたい。だから亜矢ちゃんも自分の身体をもっと大事にしてほしいんだ」
こんなことが言える男の人をわたしはほかに知らない。世良さんのやさしさの根底にあるものは、もっと大きくて深いもの。上辺だけの人じゃないんだ。
「世良さんみたいな人、初めてです」
「結婚する気になった?」
「えっと、それは……」
「いいんだよ。言っただろう。何度でもプロポーズするって。それに、こういう時間もなかなか楽しいし、結構満足しているよ」
世良さんの精いっぱいの気配りが心地いい。
世良さん、わたしもなかなか楽しいです。あなたと一緒にいると嫌なことを忘れていられるんです。怖さも憂鬱さも、ハチミツみたいな甘い蜜に上手に溶かされていくんです。
「おやすみ。ゆっくり休んでね」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
照明が落とされて、世良さんがドアの向こうに消えた。わたしは安心してベッドに身体を沈める。すると思いのほか身体は疲れていたらしく、吸い込まれるように眠りに落ちた。
目覚めるとカーテンの隙間から光がこぼれている。
おかしいな、さっき眠ったばかりなのに。そんなことを考えながら、再び目を閉じかけてハタと気がついた。
「朝ごはん!」
時刻は七時三十分を過ぎている。平日だったら遅刻だ。だけど今日は土曜日。世良さんは何時に出勤するんだろう。昨日の夜にちゃんと聞いておけばよかった。
急いで着替えてボサボサの髪の毛をきゅっとひとつに結ぶ。それから化粧ポーチを持って音を立てないようにドアを開ける。するとキッチンの明かりが見えた。
今朝もさわやかな笑顔を振りまいて、世良さんがキッチンで「おはよう」と声を発した。わたしは化粧ポーチを胸のあたりに抱えながら小さくおじぎをする。
「お、おはようございます。あの……洗面所、お借りします」
「どうぞ。朝ごはん、もうすぐできるから」
あっ、遅かったか。夕べはおまかせしてしまったので、朝はわたしが作ろうと思っていたのに。
「なに? どうかした?」
足を止めて突っ立っているわたしを不審に思った世良さんがたずねてくる。
「わたしが朝ごはんを作りたかったんですけど、スマホのアラームをセットするのを忘れてました」
「かえってゆっくり眠れたみたいで、よかったよ」
「ホテルに泊まらなくて正解でした。ひとりで過ごしていたら心細かったと思います」
「これからのことも、ひとりでなんとかしようなんて思わないで。僕がいる」
「世良さん……」
ふとしたときに考えてしまう。
火事の原因は放火とは決まっていないけれど、故意に火をつけられたと思うと恐ろしい。もし部屋にいるときに火事になっていたら、部屋は燃えなくても煙を吸っていたかもしれない。その煙で最悪なことだってあり得る。
世良さんも春山社長も、わたしをひとりにさせられないと言ってくれた。あの火災現場を見て、わたしが精神的に参ってしまうのを見越していたのだ。
「あの部屋は引き払おう。すぐに修繕が終わるとしても、あんな場所に住まわせるわけにいかない」
世良さんが真剣に語る。
心強く感じた。引っ越すことまでは考えが及ばなかったけれど、たしかに放火だとしたら犯人が捕まるまで、あの部屋には戻りたくない。犯人が捕まったとしても変な想像ばかりしてしまいそう。
「部屋は解約します。今日、管理会社にもそのことを話してきます」
「新しく住む場所のことは僕が力になるから」
だけど世良さんはうつむいてしまった。それからなにか言いたげに唇を動かす。それから意を決するように静かに息を吐いた。
「正直に言うと、春山社長よりも僕を頼ってほしいんだ」
世良さんがゆっくりと顔を上げる。
「格好悪いね。よりにもよって春山社長に嫉妬しちゃうなんて」
春山社長に嫉妬?
なにを言い出すのかと思ったら。そんなの想像するのもばかばかしい。あり得ない。春山社長が聞いたら大爆笑するに決まっている。
「わたしと春山社長は親子みたいなものですよ」
「それはわかっているんだよ。恋敵っていう意味じゃなくて……、なんて説明すればいいんだろう。たとえば相手が大久保さんでも同じように思っちゃうかな」
「世良さんって変わってますね」
「自分でもそう思うよ。亜矢ちゃんのことになると、大人げなくなっちゃうんだよ」
世良さんは肩をすぼめ、照れたように言う。
「それを聞いてほっとしました。わたしと春山社長がだなんて、考えただけで笑っちゃいます。それに春山社長は──」
そう言いかけて止めた。
わたしの勘違いかもしれない。春山社長が今でも萌さんのことを想っているなんて、まさかそんなわけないよね。
「大久保さんのこと?」
「世良さんも感じます?」
「うん。あのふたりを見ていると、離婚したとは思えないくらい、いい感じなんだよね。ただ僕は結婚していた頃のふたりを知らないんだけど」
「離婚前も今も、あまり変わっていませんよ。あのふたりは昔からあんな感じです」
プライベートでも人前で露骨にのろけることをしないふたりだった。おまけに、ふたりとも自己主張が強いわりに、喧嘩をするところを見たことがなくて、理想的な大人の関係に見えた。
「でも、ふたりが話し込んでいるときには、入り込めないものがあるよね」
「そうなんですよ。じゃましちゃ悪いなと思っちゃうんです」
「しっかりと男と女の関係に見えるね」
萌さんは春山社長のことを思って事務所を離れた。その気持ちを知らない春山社長なのに、いまだに萌さんを気にかけている。自分のせいでライティングの世界から遠のかせた責任を感じているように思えた。
だからもう一度この世界に呼び戻したいのかな?
春山社長は、萌さんが持ってくるライティングデザインの案件のいくつかを断っていた。
小さな店舗のデザインは萌さんが得意としていたところ。萌さんのほうが顧客の要望を熟知してデザインに生かせると判断したものは、萌さんの会社に仕事を受けさせていた。萌さんの才能を埋もれさせないように、うちの事務所の利益よりもデザイナーとしての萌さんを優先している。
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