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5.今夜は欲ばりに甘えたい
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「どうしたの?」
振り返って尋ねると、航は「明日、早いんだ」と告げてきた。
「日曜日なのに仕事?」
「うん、だから今日は帰るよ。美織が無事に家に帰れたのかをたしかめに来ただけだから」
「そのためだけ? やだなあ。子どもじゃないんだから、ちゃんとひとりで帰れるよ」
「でもけっこう飲んでたみたいだったし。自分では大丈夫だと思っても酔ってるのには変わりないだろう。心配になるよ」
とんでもなく自己嫌悪に陥った。
わたしが電話に出なかったからだ。電話でも誤解は解けたはず。疲れているのに、わざわざタクシーでここまで来る必要なんてなかったんだ。
「今日は本当にごめんなさい」
「何度も謝るなよ。美織はその必要なんてない。悪いのは俺なんだから」
「正直に言うね。航が会場で雫さんと仲よさそうにしていたのを見て、すごくやきもち焼いてたの。その上、介抱しているところにまで遭遇しちゃったもんだから、それで航を試すみたいなことをしたの」
「試す?」
「航はわたしを選んで、追いかけてきてくれるものだと思ってた」
「それは、本当にごめん。傷つけたってわかってた。でも、あのときはああするしか……」
航は言葉を詰まらせた。
けれど航を追いつめるつもりでこの話をしたんじゃない。わたしは話を続ける。
「もちろん、雫さんを放っておかなかった航の行動は正しいの。だけどやっぱり悔しくて、嫌だって思っちゃったの。わたしって心が狭いよね」
「逆の立場だったら俺も同じようなことを考えると思う。むしろ、美織がそんなふうに思ってくれてうれしいよ」
航が再び抱きしめてくれる。あたたかい胸のなかに身をまかせていると、その心地よさをもっと味わっていたくなって欲深くなっていく。
「今日は帰らないで」
こんなふうに我儘を言ったら困らせてしまう。わかっていたのに言わずにはいられなかった。
そのとき、航が腕に力を込めてきて、背中が仰け反るくらいに抱きしめられた。
「まったく……なんなんだよ。そんなふうに言われたら我慢できなくなるだろう」
「航……息が……苦しいよ」
「美織がかわいいことを言うからだ」
その腕にさらに力が込められる。足もともおぼつかなくなって、「苦しい」と軽く胸をたたいたら、ふと身体が動く。その間に体勢を整えようとしたら、ふいに顔を近づけられ、甘く口づけられた。
一度離され、また重ねられ、次に深いキスになる。するりと舌が侵入してくると遠慮なく絡めてきて、それがとんでもなく気持ちよくて、目を閉じてますますキスに溺れていった。
だけどいくらしても足りない。満足できない。それを埋めるように、より身体を密着させたら、航の動きがピタリと止まった。
不思議に思って目を開けると、航が唇を離し、ニヤリと笑った。
「もしかして、やりたいの?」
「べ、別にそういうつもりはなくて……」
「へえ、そっかそっか。一日に二度もなんて、今日は大サービスの日だな」
「違うから! 今のはもっと近づきたくて、それで……」
「つまり、その気になったってことだろう? いいよ、美織の希望ならアルコール入ってるけどがんばるよ」
からかっているんじゃないかというくらい軽い感じで言うけれど、その手はすでにパジャマのなかに入り込んでいる。ノーブラだとわかると大胆な動きになって、手のひらが直に胸を包んだ。
「ちょっと待って、ここ玄関」
「美織の身体、いい匂いがする。これ、ボディーソープ?」
「だと思う。いや、だからそうじゃなくって。ほんとにだめ、無理だからっ」
もう片方の手も脇腹をなぞり、上へとたどっていこうとしている。身をよじって離れようとすると、身体を壁に押しつけられた。
「素直になんないと、ここで全部脱がすよ」
「もう、今日は意地悪ばっかり」
そうは言っても、この先なにも期待せずにはいられない。求められるとその気になって、触れられるとあと戻りできなくなる。
見慣れている顔なのに、もっと見ていたくてじっと見つめていると、やさしく微笑まれた。
「……ここじゃ嫌」
「わかってる。ベッドがいいんだよな」
艶めいた声でささやかれ、差し伸べられた手を握った。そのまま手を引かれ、わたしはシングルベッドのシーツの上にそっと倒された。
振り返って尋ねると、航は「明日、早いんだ」と告げてきた。
「日曜日なのに仕事?」
「うん、だから今日は帰るよ。美織が無事に家に帰れたのかをたしかめに来ただけだから」
「そのためだけ? やだなあ。子どもじゃないんだから、ちゃんとひとりで帰れるよ」
「でもけっこう飲んでたみたいだったし。自分では大丈夫だと思っても酔ってるのには変わりないだろう。心配になるよ」
とんでもなく自己嫌悪に陥った。
わたしが電話に出なかったからだ。電話でも誤解は解けたはず。疲れているのに、わざわざタクシーでここまで来る必要なんてなかったんだ。
「今日は本当にごめんなさい」
「何度も謝るなよ。美織はその必要なんてない。悪いのは俺なんだから」
「正直に言うね。航が会場で雫さんと仲よさそうにしていたのを見て、すごくやきもち焼いてたの。その上、介抱しているところにまで遭遇しちゃったもんだから、それで航を試すみたいなことをしたの」
「試す?」
「航はわたしを選んで、追いかけてきてくれるものだと思ってた」
「それは、本当にごめん。傷つけたってわかってた。でも、あのときはああするしか……」
航は言葉を詰まらせた。
けれど航を追いつめるつもりでこの話をしたんじゃない。わたしは話を続ける。
「もちろん、雫さんを放っておかなかった航の行動は正しいの。だけどやっぱり悔しくて、嫌だって思っちゃったの。わたしって心が狭いよね」
「逆の立場だったら俺も同じようなことを考えると思う。むしろ、美織がそんなふうに思ってくれてうれしいよ」
航が再び抱きしめてくれる。あたたかい胸のなかに身をまかせていると、その心地よさをもっと味わっていたくなって欲深くなっていく。
「今日は帰らないで」
こんなふうに我儘を言ったら困らせてしまう。わかっていたのに言わずにはいられなかった。
そのとき、航が腕に力を込めてきて、背中が仰け反るくらいに抱きしめられた。
「まったく……なんなんだよ。そんなふうに言われたら我慢できなくなるだろう」
「航……息が……苦しいよ」
「美織がかわいいことを言うからだ」
その腕にさらに力が込められる。足もともおぼつかなくなって、「苦しい」と軽く胸をたたいたら、ふと身体が動く。その間に体勢を整えようとしたら、ふいに顔を近づけられ、甘く口づけられた。
一度離され、また重ねられ、次に深いキスになる。するりと舌が侵入してくると遠慮なく絡めてきて、それがとんでもなく気持ちよくて、目を閉じてますますキスに溺れていった。
だけどいくらしても足りない。満足できない。それを埋めるように、より身体を密着させたら、航の動きがピタリと止まった。
不思議に思って目を開けると、航が唇を離し、ニヤリと笑った。
「もしかして、やりたいの?」
「べ、別にそういうつもりはなくて……」
「へえ、そっかそっか。一日に二度もなんて、今日は大サービスの日だな」
「違うから! 今のはもっと近づきたくて、それで……」
「つまり、その気になったってことだろう? いいよ、美織の希望ならアルコール入ってるけどがんばるよ」
からかっているんじゃないかというくらい軽い感じで言うけれど、その手はすでにパジャマのなかに入り込んでいる。ノーブラだとわかると大胆な動きになって、手のひらが直に胸を包んだ。
「ちょっと待って、ここ玄関」
「美織の身体、いい匂いがする。これ、ボディーソープ?」
「だと思う。いや、だからそうじゃなくって。ほんとにだめ、無理だからっ」
もう片方の手も脇腹をなぞり、上へとたどっていこうとしている。身をよじって離れようとすると、身体を壁に押しつけられた。
「素直になんないと、ここで全部脱がすよ」
「もう、今日は意地悪ばっかり」
そうは言っても、この先なにも期待せずにはいられない。求められるとその気になって、触れられるとあと戻りできなくなる。
見慣れている顔なのに、もっと見ていたくてじっと見つめていると、やさしく微笑まれた。
「……ここじゃ嫌」
「わかってる。ベッドがいいんだよな」
艶めいた声でささやかれ、差し伸べられた手を握った。そのまま手を引かれ、わたしはシングルベッドのシーツの上にそっと倒された。
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