束縛フィアンセと今日も甘いひとときを

さとう涼

文字の大きさ
17 / 59
5.今夜は欲ばりに甘えたい

017

しおりを挟む
「どうしたの?」

 振り返って尋ねると、航は「明日、早いんだ」と告げてきた。

「日曜日なのに仕事?」
「うん、だから今日は帰るよ。美織が無事に家に帰れたのかをたしかめに来ただけだから」
「そのためだけ? やだなあ。子どもじゃないんだから、ちゃんとひとりで帰れるよ」
「でもけっこう飲んでたみたいだったし。自分では大丈夫だと思っても酔ってるのには変わりないだろう。心配になるよ」

 とんでもなく自己嫌悪に陥った。
 わたしが電話に出なかったからだ。電話でも誤解は解けたはず。疲れているのに、わざわざタクシーでここまで来る必要なんてなかったんだ。

「今日は本当にごめんなさい」
「何度も謝るなよ。美織はその必要なんてない。悪いのは俺なんだから」
「正直に言うね。航が会場で雫さんと仲よさそうにしていたのを見て、すごくやきもち焼いてたの。その上、介抱しているところにまで遭遇しちゃったもんだから、それで航を試すみたいなことをしたの」
「試す?」
「航はわたしを選んで、追いかけてきてくれるものだと思ってた」
「それは、本当にごめん。傷つけたってわかってた。でも、あのときはああするしか……」

 航は言葉を詰まらせた。
 けれど航を追いつめるつもりでこの話をしたんじゃない。わたしは話を続ける。

「もちろん、雫さんを放っておかなかった航の行動は正しいの。だけどやっぱり悔しくて、嫌だって思っちゃったの。わたしって心が狭いよね」
「逆の立場だったら俺も同じようなことを考えると思う。むしろ、美織がそんなふうに思ってくれてうれしいよ」

 航が再び抱きしめてくれる。あたたかい胸のなかに身をまかせていると、その心地よさをもっと味わっていたくなって欲深くなっていく。

「今日は帰らないで」

 こんなふうに我儘を言ったら困らせてしまう。わかっていたのに言わずにはいられなかった。
 そのとき、航が腕に力を込めてきて、背中が仰け反るくらいに抱きしめられた。

「まったく……なんなんだよ。そんなふうに言われたら我慢できなくなるだろう」
「航……息が……苦しいよ」
「美織がかわいいことを言うからだ」

 その腕にさらに力が込められる。足もともおぼつかなくなって、「苦しい」と軽く胸をたたいたら、ふと身体が動く。その間に体勢を整えようとしたら、ふいに顔を近づけられ、甘く口づけられた。
 一度離され、また重ねられ、次に深いキスになる。するりと舌が侵入してくると遠慮なく絡めてきて、それがとんでもなく気持ちよくて、目を閉じてますますキスに溺れていった。
 だけどいくらしても足りない。満足できない。それを埋めるように、より身体を密着させたら、航の動きがピタリと止まった。
 不思議に思って目を開けると、航が唇を離し、ニヤリと笑った。

「もしかして、やりたいの?」
「べ、別にそういうつもりはなくて……」
「へえ、そっかそっか。一日に二度もなんて、今日は大サービスの日だな」
「違うから! 今のはもっと近づきたくて、それで……」
「つまり、その気になったってことだろう? いいよ、美織の希望ならアルコール入ってるけどがんばるよ」

 からかっているんじゃないかというくらい軽い感じで言うけれど、その手はすでにパジャマのなかに入り込んでいる。ノーブラだとわかると大胆な動きになって、手のひらが直に胸を包んだ。

「ちょっと待って、ここ玄関」
「美織の身体、いい匂いがする。これ、ボディーソープ?」
「だと思う。いや、だからそうじゃなくって。ほんとにだめ、無理だからっ」

 もう片方の手も脇腹をなぞり、上へとたどっていこうとしている。身をよじって離れようとすると、身体を壁に押しつけられた。

「素直になんないと、ここで全部脱がすよ」
「もう、今日は意地悪ばっかり」

 そうは言っても、この先なにも期待せずにはいられない。求められるとその気になって、触れられるとあと戻りできなくなる。
 見慣れている顔なのに、もっと見ていたくてじっと見つめていると、やさしく微笑まれた。

「……ここじゃ嫌」
「わかってる。ベッドがいいんだよな」

 艶めいた声でささやかれ、差し伸べられた手を握った。そのまま手を引かれ、わたしはシングルベッドのシーツの上にそっと倒された。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

処理中です...