束縛フィアンセと今日も甘いひとときを

さとう涼

文字の大きさ
6 / 59
3.仲直りはベッドの上で

006

しおりを挟む
 披露宴の会場でテーブルにつくと、久しぶりに再会した大学時代の女友達と、近況報告などの話題で盛りあがった。
 航は新郎側のテーブルに座っている。きっと大学時代の男友達なのだろう。気取らない様子で談笑しているのが見えた。

「ねえ美織、智花の旦那さんって、たしか有名な商社に勤めているんだよね?」

 隣に座っている真野《まの》ちゃんこと、真野あかりが耳打ちしてきた。
 真野ちゃんはうちの大学でも華やかで目立つ子だった。とても社交的で、ほかの女の子たちとも仲がよく、男友達も多い。

「うん、そうだよ。蒼汰くんってすごく頭がいいんだって」

 大学が違うので直接は知らないけれど、航からそう聞いていた。
 蒼汰くんは、会社でもかなり優秀らしく、プライドの高い航が唯一認めた男友達と言っても過言ではない。

「同僚の人とお近づきになりたいなあ。二次会、がんばらなくちゃ!」
「真野ちゃん、彼氏いないの? 前に会ったときは、大学時代からの彼とつき合ってたよね?」

 真野ちゃんに会うのは一年ぶりくらい。智花とは家が近く、休日や仕事が定時で終われたときなどにたまに会うのだけれど、真野ちゃんは家が少し遠い上に、仕事がハードらしく、なかなか時間が合わない。

「あんなの、とっくに別れたよ。それから誰ともつき合ってないの。ここ十ヶ月間フリーだよ」

 “あんなの”呼ばわりされる元彼さんがかわいそう。けっこう格好よかったんだけどな。同じ大学のひとつ先輩だった人で、あの頃の真野ちゃんののめり込みようは、こっちがあきれるほどだった。

「真野ちゃん、かわいいのに。なんか意外」
「合コンには何度も参加してるんだけど、どんどん目が肥えてきちゃって。ここまできたら妥協もしたくないし」

 真野ちゃんは自分に気合を入れるように大きく頷く。

「わたしも協力するよ。わたしにできることがあれば、なんでも言って」
「ありがとう! そのときはお願いね!」

 真野ちゃんがわたしの手を握り、すがってくる。予想以上の必死さにじゃっかん引きながらも、わたしはなんとか笑顔で返した。
 そして、いよいよ披露宴がはじまると、関心は一気に新郎新婦へ。
 手をつないで入場するふたりに盛大な拍手が送られていた。真野ちゃんはスマホで動画を撮っている。

「いやあ、智花のドレス姿、きれいだわ。ねっ、美織?」
「そうだね、すっごくきれいだね」

 純白のウェディングドレスの智花は花の髪飾りをつけてヘアチェンジしていて、挙式のときとはまた違う雰囲気。うっとりと見とれてしまう。
 これまで何度か披露宴に出席してきたけれど、やっぱりいいものだなと思う。手作りのウェルカムボードや新郎新婦のプロフィールブック。会場に流れてくる曲にも、ふたりの想いが詰まっていて、じんわりと胸があたたかくなる。

 披露宴は滞りなく、執り行われていた。
 新婦のお色直しのあと、キャンドルサービスとなる。裾が大きく広がった鮮やかなピンク色のドレスはバラの花のように美しい。

 智花がにこにことわたしたちのテーブルに来て、キャンドルに火を灯す。みんなからの「おめでとう」の声に、智花は涙ぐみ、ちょっとだけ唇を震わせていた。
 その姿をわたしは無言のまま目で追っていた。どうしてか、すごくさみしい気持ちになって、笑顔を向けることができなかった。
 花嫁のお母さんの心境に近いのかもしれない。
 おかしいね。結婚しても友達には変わりないのに。蒼汰くんに智花を取られちゃった気分だよ。

 おかげでキャンドルサービスのあとの友人代表のスピーチは、ボロボロだった。花嫁以上に号泣し、会場からどっと笑いが起きるほど。花嫁の涙が引っ込むくらいの失態だった。
 わたしの前に航もスピーチしていたけれど、航は涼しげな顔で見事にやってのけており、この落差にもめちゃめちゃ落ち込んだ。

「ちょっと化粧室に行ってくる」

 スピーチを終え、真野ちゃんにそう言うと、バッグを手に取る。

「美織、そんなに落ち込まないでよ。すごくよかったよ。わたしは感動した」

 真野ちゃんがやさしくフォローしてくれるけれど、残念ながら今のわたしにはなんのなぐさめにもならない。

「行ってらっしゃい。ちゃんと戻ってきてね」
「うん、わかってる」

 心配顔の真野ちゃんに見送られ、わたしは会場を出て、化粧室に向かった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

処理中です...