2 / 16
2.彼女は大事な存在
002
しおりを挟む
(side 冬馬)
今日は同じ会社の人に誘われての合コンだった。こういうのはいつものこと。俺もみんなでわいわい飲むのは好きだから、つい誘いにのってしまう。
いろんな女の子と遊ぶのも大好きだった。遊びすぎて特定の彼女もいたためしはない。でもそれなりに楽しい。そう思っていた。少し前までは。
最近は違う。それもこれも……。
とくに女の子と遊んだ日は、無性に輝《ひかる》に会いたくなる。合鍵を持たされている俺は、時間なんて関係なく、ここに来てしまう。
なあ、輝。これはどういうことなんだ? 普通、合鍵ってどうでもいいと思っているやつには渡さないもんだろう?
でもまさかな。輝はいまもあいつが好きなんだから。
「朝帰りするなら自分のマンションに帰ってよ。なんでわざわざここに来るの?」
「だってここからのほうが会社に近いし」
「それじゃあ、なんのためにひとり暮らしをはじめたのかわかんないじゃない」
ひとり暮らしをしているマンションがあるのに、ここに来る理由を輝が知ったら驚くだろうな。てか、引かれないか? 俺の気持ちを知ったら……。
輝が香水の匂いを気にしていた。やきもちを焼かれているみたいでうれしかった。
それにしても今日の女はしつこかったな。香水のにおいを強烈に放ちながら俺にまとわりついてくる。少し前の俺だったら適当に相手をしていたんだろうけど、いまは違う。
俺を変えたのは、輝、おまえだよ。眠っているときに、うしろから抱きしめる癖がついたのはおまえのせいだよ。せめて眠っている間だけは、ひとり占めしたいんだ。
◇◇◇
輝にはずっと忘れられない男がいることは、けっこう前に本人から聞いていた。
そして半年前。偶然、輝のスマホの待ち受けを見た。そこに写っていた男、そいつが輝の好きな男だとすぐにわかった。
俺たちよりもずっと年上の男だった。周辺には緑があって、「このとき虹がすごくきれいだったんだ」と輝は懐かしそうに言った。
「そいつが例の男か」
「うん、昔好きだった人」
「『だった』じゃなくて、いまも好きな男だろう。それにしてもイケメンだな」
「性格もいいんだよ。とにかくやさしくてお人好し」
「やさしい? 結局、輝を捨てた男だろう? どこがやさしいんだよ?」
「でもやさしかったの! 絶対に幸せになれって、最後に言ってくれたんだ」
好きな人の心のなかに別の誰かがいるというつらさ。俺にも似たような経験があったから輝の気持ちはよくわかる。
でも俺は仕方ないとして。どうして輝みたいな女を切り捨てるかな。こんないい女、めったにいない。
俺と輝は似ているようだけど、生き方は違った。
高三のとき、俺にはひとつ下の好きな女の子がいた。
彼女の名前は『沙耶《さや》』。
ある日、彼氏と別れた沙耶に俺は近づいた。元彼に少しだけ似ていた俺だったから、沙耶は俺を選んでくれた。といってもセフレという関係だ。
だけど結局、沙耶は元彼を忘れられず、元彼とヨリを戻した。もともとあのふたりは想い合っているのに意地を張って別れただけだったから当然の結果なんだけど。
実際、沙耶と関係を持っていたときはかなり苦しかった。自分の想いを告げられず、セフレの役割を果たし続けた。
沙耶たちがヨリを戻して少し経ったときに、最後に「好きだ」と気持ちを告げてはみたけれど。案の定、玉砕。
それから俺は次から次へと女の子を変えて遊ぶようになった。だけど沙耶への想いをこじらせていたわけじゃない。単に誰も好きにならなかっただけだ。
とにかく、好きになった人がほかの誰かを忘れられずにいる状況はもうごめんだ。だから本気の恋をしないで適当に遊んでいる。
あれ? つまりそれが「こじらせている」ということなのか? そっか、そうなのかもしれない。
一方、輝はずっとひとりの男を想い続けたまま。時間が止まったかのように誰も受け入れず、誰ともつき合うことをしなかった。
輝は一途で健気で、心配になるくらい純粋だった。正直、そんなふうに想われているその男がうらやましかった。そして、そんなふうに生きている輝をなんて強い人間なんだろうと尊敬していた。やがて俺はそんな輝の恋愛観が気になるようになった。
でも、この気持ちはたぶん好きとかそういうんじゃないと思う……。半年前はそう思っていた。
今日は同じ会社の人に誘われての合コンだった。こういうのはいつものこと。俺もみんなでわいわい飲むのは好きだから、つい誘いにのってしまう。
いろんな女の子と遊ぶのも大好きだった。遊びすぎて特定の彼女もいたためしはない。でもそれなりに楽しい。そう思っていた。少し前までは。
最近は違う。それもこれも……。
とくに女の子と遊んだ日は、無性に輝《ひかる》に会いたくなる。合鍵を持たされている俺は、時間なんて関係なく、ここに来てしまう。
なあ、輝。これはどういうことなんだ? 普通、合鍵ってどうでもいいと思っているやつには渡さないもんだろう?
でもまさかな。輝はいまもあいつが好きなんだから。
「朝帰りするなら自分のマンションに帰ってよ。なんでわざわざここに来るの?」
「だってここからのほうが会社に近いし」
「それじゃあ、なんのためにひとり暮らしをはじめたのかわかんないじゃない」
ひとり暮らしをしているマンションがあるのに、ここに来る理由を輝が知ったら驚くだろうな。てか、引かれないか? 俺の気持ちを知ったら……。
輝が香水の匂いを気にしていた。やきもちを焼かれているみたいでうれしかった。
それにしても今日の女はしつこかったな。香水のにおいを強烈に放ちながら俺にまとわりついてくる。少し前の俺だったら適当に相手をしていたんだろうけど、いまは違う。
俺を変えたのは、輝、おまえだよ。眠っているときに、うしろから抱きしめる癖がついたのはおまえのせいだよ。せめて眠っている間だけは、ひとり占めしたいんだ。
◇◇◇
輝にはずっと忘れられない男がいることは、けっこう前に本人から聞いていた。
そして半年前。偶然、輝のスマホの待ち受けを見た。そこに写っていた男、そいつが輝の好きな男だとすぐにわかった。
俺たちよりもずっと年上の男だった。周辺には緑があって、「このとき虹がすごくきれいだったんだ」と輝は懐かしそうに言った。
「そいつが例の男か」
「うん、昔好きだった人」
「『だった』じゃなくて、いまも好きな男だろう。それにしてもイケメンだな」
「性格もいいんだよ。とにかくやさしくてお人好し」
「やさしい? 結局、輝を捨てた男だろう? どこがやさしいんだよ?」
「でもやさしかったの! 絶対に幸せになれって、最後に言ってくれたんだ」
好きな人の心のなかに別の誰かがいるというつらさ。俺にも似たような経験があったから輝の気持ちはよくわかる。
でも俺は仕方ないとして。どうして輝みたいな女を切り捨てるかな。こんないい女、めったにいない。
俺と輝は似ているようだけど、生き方は違った。
高三のとき、俺にはひとつ下の好きな女の子がいた。
彼女の名前は『沙耶《さや》』。
ある日、彼氏と別れた沙耶に俺は近づいた。元彼に少しだけ似ていた俺だったから、沙耶は俺を選んでくれた。といってもセフレという関係だ。
だけど結局、沙耶は元彼を忘れられず、元彼とヨリを戻した。もともとあのふたりは想い合っているのに意地を張って別れただけだったから当然の結果なんだけど。
実際、沙耶と関係を持っていたときはかなり苦しかった。自分の想いを告げられず、セフレの役割を果たし続けた。
沙耶たちがヨリを戻して少し経ったときに、最後に「好きだ」と気持ちを告げてはみたけれど。案の定、玉砕。
それから俺は次から次へと女の子を変えて遊ぶようになった。だけど沙耶への想いをこじらせていたわけじゃない。単に誰も好きにならなかっただけだ。
とにかく、好きになった人がほかの誰かを忘れられずにいる状況はもうごめんだ。だから本気の恋をしないで適当に遊んでいる。
あれ? つまりそれが「こじらせている」ということなのか? そっか、そうなのかもしれない。
一方、輝はずっとひとりの男を想い続けたまま。時間が止まったかのように誰も受け入れず、誰ともつき合うことをしなかった。
輝は一途で健気で、心配になるくらい純粋だった。正直、そんなふうに想われているその男がうらやましかった。そして、そんなふうに生きている輝をなんて強い人間なんだろうと尊敬していた。やがて俺はそんな輝の恋愛観が気になるようになった。
でも、この気持ちはたぶん好きとかそういうんじゃないと思う……。半年前はそう思っていた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる