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番外編 Episode2(3)

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「冴島社長もいよいよ結婚かあ。ショックを受ける女性が大勢いそうですね」
「そんなことないですよ。僕なんてぜんぜん……」

 謙遜しているけれど、それは絶対に違うと断言できる。だってこんな素敵な人、ほかにいない。たくさんの人に好意を持たれて当然だ。
 でも秋成さんは意外にも、モテる自覚があまりないらしい。コタさん曰く、近寄ってくる女性の数があまりにも多くて、把握しきれていないだけらしいけど。実際、外野では過去に秋成さんの争奪戦が繰り広げられていたらしく、女同士の修羅場が何度もあったとか、なかったとか。
 ちょっとそれってどういうこと? と思ったけど、怖くてそれ以上のことは聞けなかった。

 男性とはその場で別れ、会計を済ませたあと帰路につく。
 マンションまではほんの少しの距離。駐車場から五分もかからずにマンションに着いた。すると地下の駐車場に車を止めた秋成さんが、なぜか突然わたしの手を握ってきた。

「どうしたの?」
「やっとふたりきりになれた」
「おおげさだよ」
「おおげさなんかじゃないよ。外ではあんまりベタベタできないし、スーパーでは知り合いに会っちゃうし。やっぱり近所は油断できないな」
「なに言ってるの? 会社の近くの商店街で手をつないできたのは、どこの誰だっけ?」

 定食屋の帰り。真っ昼間なのに、秋成さんは堂々としたものだった。

「あのときはつい浮かれちゃって。今日もやばかった」
「ならスーパーでイチャイチャしなくてよかったね」
「ほんとそう。僕ってクールな男で通っているから危なかったよ」
「クールだなんて意外だった。秋成さんってやさしいイメージだけど」
「そう? けっこう言われるけど」
「へえ、知らなかった」
「なかには悪いことをたくらんでいる人間がいるかもしれないからね。ヘラヘラ顔だとカモにされちゃう」

 冗談まじりに言うけれど、たぶんまんざら嘘でもないと思う。
 ある日、冴島WESTビルに生け込みに行ったとき、ロビーで誰かと電話していた秋成さんの顔は険しくて、思いきり戦闘モードだった。
 だけど、やっぱりわたしには秋成さんの世界は現実味がなくて、うまく想像できない。わたしの前では常にやさしさ全開の秋成さんだから、余計にそう思うのかもしれない。

「今日は僕も一緒にから揚げとポテトサラダを作らせて」
「うん、ありがとう」

 ほらね。こんなふうにわたしを甘やかしてくれるから、秋成さんが実はとてつもなく厳しい世界にいることを忘れてしまうの。
 わたしはこれからちゃんと秋成さんの支えになれるのかな。考えなきゃならないことがたくさんあって、頭がパンクしちゃうたびに、秋成さんが「無理しなくていいよ」と言ってくれる。でもそろそろ甘えるのをやめなきゃいけない。ちゃんと現実を見て、将来に備えなきゃと強く思った。

 ──結婚を前提でおつき合いしています。

 スーパーで言われたその言葉に身が引きしまる思いだった。

「でもポテトサラダは作ったことないんだ」
「春名家ではゆでたまごも入れるんだけど、どうする?」
「もちろん、ゆでたまご入りで」
「わかった」

 秋成さんにいつまでも無邪気に笑っていてもらいたいから──。

「それじゃ、荷物を運ぼうか。咲都は苺をお願いね」
「はーい」

 ──わたしはようやくひとつの決断ができた。





番外編 Episode2《完》
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