楽園-ベッド・イン-

さとう涼

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楽園-ベッド・イン-(2)

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「集中してくれないと、えるんだけど?」

 そう言って、リクは眉根を寄せた。
 どうやら、わたしが考えごとをしていたせいで、かなり機嫌を悪くしてしまったみたい。すっかり冷やかな空気が充満している。

「あ、ごめん」
「ごめんじゃないよ。雰囲気台無しにしやがって」

 怒りをぶつけるように、握っている手首に力を込める。

「痛っ……」

 思わず首をすくめる。
 血流が止まるんじゃないかというくらいの激しい劣情は怖いくらいだった。けれど、それも一瞬のこと。

「こっちはそんなに余裕ないんだからな」

 指先で顎を持ち上げられて、素直でいたわるようなキスをされた。一度離すと、もう一度ゆっくりと重ね合わせてくる。それを何度か繰り返していると、不思議なことにだんだんと夢うつつになっていく。
 リクの作り出す世界に落とされて、いつの間にか溺れていた。
 一枚一枚丁寧に衣服をはぎ取られ、その都度リクはわたしの髪に指を通したり、頬を撫でたりする。鎖骨を指でなぞって、耳に噛みついて、目を細めて笑っていた。

「こうやって遊びながらもいいかもな」

 リクはチュッと楽しそうに唇をあててきた。

「好きにしていいよ。リクの好きなように」
「従順なフリ?」
「フリじゃないよ。わたし、リクだからいいと思ったんだよ」

 だってリクだってわたしのために……。

 このスイートルームを選んでくれたのは、リクなりの気遣い。現実に疲弊したわたしを別の世界に連れ出して、少しでも癒やそうとしてくれているからだと思う。
 ヨーロッパの古城を彷彿とさせるデザインの部屋のなかにいると、自分がただのOLだということを忘れさせてくれる。
 限られた夢の時間で、わたしはお姫様になる。子どもの頃に憧れていたガラスの靴を履いたシンデレラになったような気分になるのだ。

 お姫様だなんて子どもじみているし、二十六歳の大人の発想としてはかなりイタイ。だけどリクが王子様みたいだから、勘違いしてしまう。
 クールな王子様。
 ちょっと口は悪いけれど、十五歳の頃からお互いを知っているから、それはぜんぜん気にならない。むしろ、ひとりでどんどん大人になって、こんなふうに違う一面を見せつけてくるから、そのギャップにはまっていく。

 だけど変わらないのはそのやさしさ。だから安心してゆだねられる。
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