エマ・ケリーの手紙

山桜桃梅子

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伯爵令嬢、エマ・ケリー

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優雅に馬車へと乗り少し経った頃、二人はまるで合わせたかのように長く深い息を吐いた。


「アラン、助かったわ。あそこで割ってくれなければ、相手が満足して飽きるまで帰れなかったもの。お礼を言うわ」

「いや本当はもっとちゃんとした言葉でエマを守りたかった、俺の名を守ってくれたのだろ。こちらこそ助けて貰ってばかりだ」


リリィやあの公爵令嬢のことで、情けない、と素直に表情を浮かべるアランにエマは言う。


「良いの。これで良かったのよ」


今までの学校での功績、またこれから何かと表に出ることが多くなった時にマイナスになっていたかもしれない。
男として女に守られ背に隠されたことはプライドが許さなかっただろうが。結果的にはことが拗れず早々に決着がついたのだから、やはりこれで良かったのだと思う。

それでもせっかく気持ちが通じたというのにダンスは一回、パーティーもたいして楽しめなかったことが少し釈然としない。

勇気を振り絞りアランへ一つ、こんな提案をしてみることにした。


「あのね、貴方がその、疲れていなければ。少し家に寄って行っては如何かしら……?」


先ほどとは打って変わって俯き自信のなさそうな声のエマに、アランが愛おしそうに微笑んだ。


「嬉しいよ、まだ離れたくないと思っていたのが俺だけではないということが」

「そうねっ、誤解が生じずに良かったわ」


なるべく素直に接しようと言葉を選んでくれるエマのその気持ちが尚更嬉しく思う。
彼女の家に着いたらどんな話をしようか、あれもこれもと考えると心が躍ってくる。

アランがそれはもう鼻歌でも奏でそうなほどに上機嫌な笑顔のまま見つめてくるので、エマはいい加減にしなさいよ! と呆れた視線で溜息をつく。



それから他愛もない会話をしながら二時間も馬車に揺られると、エマの領地へと入りその高台に建つ立派な屋敷に戻ってきた。

邸内へ入ると二人を纏う雰囲気が出掛ける時とは違うことに、両親も兄も使用人でさえも気付き更には、


「少しアランと話の続きをしたいの。応接間にお茶を用意して頂戴。私は着替えるわ」

「エマ、もう少しその姿で……」

「そ、そう? だったらもう少しこのままで居ようかしら」


このような表情、会話を聞いてしまえば、使用人たちが「今すぐに~!」などと浮き足立ってしまうのも無理はない。
本当にすぐに案内をされお茶が用意され退出しようとすれば、父であるケリー伯爵がやって来て複雑な表情で咳払いを一つ。


「いいか、ドアを閉めることは許さんぞ」


恨めしそうな目付きでアランに「まだ嫁入り前だ、わかるな?」と言いたげにしているので、夫人が呆れた顔でその腕を掴み引き摺って行く。

(何よ、お父様だって私がアランと仲良くすることを望んでいたのでしょうに……)

エマは夫人と同じ顔付きで、その姿が見えなくなるまで見つめると、向き直って互いに苦笑いを浮かべた。


「何だかごめんなさいね」

「いや、伯爵もエマが可愛くて仕方ないのだろう。わかるよ」
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