上 下
33 / 34
終幕

2

しおりを挟む
貴族の子女が成人の儀で必要な物、それは。

白いオペラグローブ、白いドレス、白い髪飾り。
そして白い花束である。
その日のために、様々な意味を込めて一本ずつの白い花が贈られ、それらを花束にして参加をするのだ。

そのつもりのフランネルフラワーなのだろう。

(花言葉は、高潔と誠実……そうであれ、というのね)

それから、二年後の成人の儀まで生きていられないから。
そう言われている気がして、ウィロウが言葉を零した。


「諦めるんじゃないわよ……」


何故だか頭が妙に冷えている。
こんなところでいつまでもぐずぐずとしていて良いわけがない。

(何処に居るかも知れないお姉様に、私の名を届けるの。まずはこの一通分のレターセット。きっとお姉様にはもう先が読めているのよ)

すぐに持ち帰り、自室のデスクで考えていた。

すると侍女がやって来て、


「お嬢様、お手紙をお持ち致しました」


ロベリアが咲き乱れるお茶会から一週間も経たずに三通の、お礼とは名ばかりの手紙が届いたのだ。
黄色、緑、青の令嬢からである。

その中でも黄の令嬢は、「夜会の際には私の所へ来なさい」という社交界の花として、それなりに助力をしてくれるらしい。

緑と青の令嬢は、「一応、他の茶会でもあの女に注意するよう触れ回っておく」という内容。

そのどれにも共通して書いてあることは、「あの女は追い出される際、謝罪ではなく正気を疑う言葉を喚いていた。きっとまだ何か下衆な策を考えているに違いない」というものだった。


「まあ、それなりに私を茶会主として認めて下さっているのね」


改めて実感した心強さ。
それならば、自身も動かねばならないだろう、と。

ウィロウはこれまで沢山のことを教えてきてくれたレイラなら、あれだけの対応をしたのだから、次にどうするかを考え行動に移そうとした。

(でもね、あの陰湿な公爵令嬢クソ女は絶対に許さない。けれどまだ社交界デビューを果たせない私は無力だわ。だったら……)

まずは気に入らないライバル。エマ・ケリーへ嫌味たっぷりに「面白い情報を手に入れたから、心優しい私が教えてあげる。だからこの私をあんたの茶会に誘いなさい」という風な手紙を書いた。

そしてもう一通はレイラの印がある便箋へと筆を移す。
その宛先は、三大公爵家の一つで同い年のエルシーという令嬢へと向けた。
このエルシーこそ、エマ・ケリーを猫可愛がりしているというのは周知の事実。
ハワード家の次に力を持つ公爵家だが、彼女も時に残酷で無慈悲、腹の中が真っ黒なのは散々レイラに教えられて来た。

紙面には、茶会の簡単な内容と、エマの婚約者が通う名門校の卒業パーティーは、パートナーを共にするので何かを起こすならそこなのではないか心配だ、など案ずる良い子ぶった言葉。
それから予めある印の下に、自身の名を書いた。



「名を売る機会でもあるし、丁度いいかもしれないわね。あの無能な女たちも充てがえれば、退屈しのぎにもなるでしょうし。それにエマに恩を売れる」


ふん、と鼻で笑って封蝋をして侍女を呼び、すぐに届けてくるよう命じたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

処理中です...