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終幕
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貴族の子女が成人の儀で必要な物、それは。
白いオペラグローブ、白いドレス、白い髪飾り。
そして白い花束である。
その日のために、様々な意味を込めて一本ずつの白い花が贈られ、それらを花束にして参加をするのだ。
そのつもりのフランネルフラワーなのだろう。
(花言葉は、高潔と誠実……そうであれ、というのね)
それから、二年後の成人の儀まで生きていられないから。
そう言われている気がして、ウィロウが言葉を零した。
「諦めるんじゃないわよ……」
何故だか頭が妙に冷えている。
こんなところでいつまでもぐずぐずとしていて良いわけがない。
(何処に居るかも知れないお姉様に、私の名を届けるの。まずはこの一通分のレターセット。きっとお姉様にはもう先が読めているのよ)
すぐに持ち帰り、自室のデスクで考えていた。
すると侍女がやって来て、
「お嬢様、お手紙をお持ち致しました」
ロベリアが咲き乱れるお茶会から一週間も経たずに三通の、お礼とは名ばかりの手紙が届いたのだ。
黄色、緑、青の令嬢からである。
その中でも黄の令嬢は、「夜会の際には私の所へ来なさい」という社交界の花として、それなりに助力をしてくれるらしい。
緑と青の令嬢は、「一応、他の茶会でもあの女に注意するよう触れ回っておく」という内容。
そのどれにも共通して書いてあることは、「あの女は追い出される際、謝罪ではなく正気を疑う言葉を喚いていた。きっとまだ何か下衆な策を考えているに違いない」というものだった。
「まあ、それなりに私を茶会主として認めて下さっているのね」
改めて実感した心強さ。
それならば、自身も動かねばならないだろう、と。
ウィロウはこれまで沢山のことを教えてきてくれたレイラなら、あれだけの対応をしたのだから、次にどうするかを考え行動に移そうとした。
(でもね、あの陰湿な公爵令嬢は絶対に許さない。けれどまだ社交界デビューを果たせない私は無力だわ。だったら……)
まずは気に入らないライバル。エマ・ケリーへ嫌味たっぷりに「面白い情報を手に入れたから、心優しい私が教えてあげる。だからこの私をあんたの茶会に誘いなさい」という風な手紙を書いた。
そしてもう一通はレイラの印がある便箋へと筆を移す。
その宛先は、三大公爵家の一つで同い年のエルシーという令嬢へと向けた。
このエルシーこそ、エマ・ケリーを猫可愛がりしているというのは周知の事実。
ハワード家の次に力を持つ公爵家だが、彼女も時に残酷で無慈悲、腹の中が真っ黒なのは散々レイラに教えられて来た。
紙面には、茶会の簡単な内容と、エマの婚約者が通う名門校の卒業パーティーは、パートナーを共にするので何かを起こすならそこなのではないか心配だ、など案ずる良い子ぶった言葉。
それから予めある印の下に、自身の名を書いた。
「名を売る機会でもあるし、丁度いいかもしれないわね。あの無能な女たちも充てがえれば、退屈しのぎにもなるでしょうし。それにエマに恩を売れる」
ふん、と鼻で笑って封蝋をして侍女を呼び、すぐに届けてくるよう命じたのだ。
白いオペラグローブ、白いドレス、白い髪飾り。
そして白い花束である。
その日のために、様々な意味を込めて一本ずつの白い花が贈られ、それらを花束にして参加をするのだ。
そのつもりのフランネルフラワーなのだろう。
(花言葉は、高潔と誠実……そうであれ、というのね)
それから、二年後の成人の儀まで生きていられないから。
そう言われている気がして、ウィロウが言葉を零した。
「諦めるんじゃないわよ……」
何故だか頭が妙に冷えている。
こんなところでいつまでもぐずぐずとしていて良いわけがない。
(何処に居るかも知れないお姉様に、私の名を届けるの。まずはこの一通分のレターセット。きっとお姉様にはもう先が読めているのよ)
すぐに持ち帰り、自室のデスクで考えていた。
すると侍女がやって来て、
「お嬢様、お手紙をお持ち致しました」
ロベリアが咲き乱れるお茶会から一週間も経たずに三通の、お礼とは名ばかりの手紙が届いたのだ。
黄色、緑、青の令嬢からである。
その中でも黄の令嬢は、「夜会の際には私の所へ来なさい」という社交界の花として、それなりに助力をしてくれるらしい。
緑と青の令嬢は、「一応、他の茶会でもあの女に注意するよう触れ回っておく」という内容。
そのどれにも共通して書いてあることは、「あの女は追い出される際、謝罪ではなく正気を疑う言葉を喚いていた。きっとまだ何か下衆な策を考えているに違いない」というものだった。
「まあ、それなりに私を茶会主として認めて下さっているのね」
改めて実感した心強さ。
それならば、自身も動かねばならないだろう、と。
ウィロウはこれまで沢山のことを教えてきてくれたレイラなら、あれだけの対応をしたのだから、次にどうするかを考え行動に移そうとした。
(でもね、あの陰湿な公爵令嬢は絶対に許さない。けれどまだ社交界デビューを果たせない私は無力だわ。だったら……)
まずは気に入らないライバル。エマ・ケリーへ嫌味たっぷりに「面白い情報を手に入れたから、心優しい私が教えてあげる。だからこの私をあんたの茶会に誘いなさい」という風な手紙を書いた。
そしてもう一通はレイラの印がある便箋へと筆を移す。
その宛先は、三大公爵家の一つで同い年のエルシーという令嬢へと向けた。
このエルシーこそ、エマ・ケリーを猫可愛がりしているというのは周知の事実。
ハワード家の次に力を持つ公爵家だが、彼女も時に残酷で無慈悲、腹の中が真っ黒なのは散々レイラに教えられて来た。
紙面には、茶会の簡単な内容と、エマの婚約者が通う名門校の卒業パーティーは、パートナーを共にするので何かを起こすならそこなのではないか心配だ、など案ずる良い子ぶった言葉。
それから予めある印の下に、自身の名を書いた。
「名を売る機会でもあるし、丁度いいかもしれないわね。あの無能な女たちも充てがえれば、退屈しのぎにもなるでしょうし。それにエマに恩を売れる」
ふん、と鼻で笑って封蝋をして侍女を呼び、すぐに届けてくるよう命じたのだ。
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