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ロベリアが咲き乱れるお茶会へ
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どうにもきちんとしたルールを教え込まれていないのか。普段の茶会に参加するようなドレスで顔も隠さずに、その誇らしげで自信に満ち溢れた表情で言った。
「橙様の代理で参りました!」
年頃的にウィロウとだいたい同じであろう。
ハーフアップツインテールの赤茶髪を上下に揺らした女が、「主催者は?」と近くにいた女中に聞く。
こそり、と耳打ちをすれば、雰囲気に似合わない声色で、
「赤の女王様に申します。本日は勝手に参りましたことをお許しください」
「それで?」
「こちらをお預かり致しました」
皆、口を噤んだままで、その頭の弱そうな女たちを無視しているが、視線だけはうるさいほど凝視していた。
赤の女王であるレイラがその手紙を預かると、封蝋を開けて中身を取り出す。
投げるよう置かれた封筒の封印は確かに橙が秘密裏に使用する物なので、偽りではないのだろう。
(あのクソ女、レイラお姉様に媚を売って慈悲で席に収まったくせして……公爵家だからってこんなこと許されると思っているんだから、本当に無能だわ!)
誰もが思ったことであろう。
しかし次にそれを読み上げる時、
「なるほど。〝これが今年の花を咲かせるための種で御座います〟ね……」
ウィロウは怒りと同時に肌が粟立つ。
橙である公爵令嬢は、レイラを落ち目だと見切りを付けたのだ。
公爵家である私がわざわざ時間をかけるほどでもない。そんな行為である。
それは後ろ足で砂をかける行為だった。
(絶対に許さない……っ!!)
ベールに覆われたことをいい事に、その手紙を見開いた目の玉で呼吸も忘れ見つめた。
だと言うのに。レイラはそれを高らかに笑った。少し掠れた声で。
「あっはっは、面白い!! ねえ、そう思うだろう?」
胸を押さえ、ゼイゼイと喘鳴しながら手に持った紙を握り潰す。
どうしようもなく彼女も怒っている、言葉遣いで感じる。隣に座るウィロウも口角をひくつかせて無理矢理に笑みを作った。
それを未だに立たされたままの女たちも、手応えありだと。同じように表情を真似て、
「本日は、皆様が楽しめますよう話を持って参りましたので、どうかご一緒させて頂きたく……」
「ふん、良いだろう」
「赤の女王様のご許可、ありがたく存じます」
それを聞いたレイラが女中にもう一つの椅子を用意させると、どこの家格かも知れぬ無粋な女二人が、いとも簡単に隣に座る。
当たり前だが周りは面白くなかった。
「さ、始めましょう」
そうしてメンバーが揃うと、その一声で奇妙な茶会が幕をあけた。
女中が右回りに簡単に茶を注いでいく。その香りと色から既にこのカップの中のストレートのブラックティーに喉を鳴らす。
「皆様、冷めぬうちに」
そんな風に促され、皆が一口含み静かに息を吐く。
(毎年のことながら……これほどの茶葉は、手に入らないわ。きっと王室で頂いた代物に違いない)
フレーバーティーが貴族の中にやっと浸透してきた時代。つまりブラックティーもそれなりで満足出来、香りが足りない場合は花弁やフルーツの砂糖漬けを浮かべて楽しんでいるのに。
ウィロウはこれだけでも参加出来ることに感謝してしまう。
ここまで満足させる豊富な旨味と重厚感、更にエグ味を弄らない。それすらもアクセントだと……。
「橙様の代理で参りました!」
年頃的にウィロウとだいたい同じであろう。
ハーフアップツインテールの赤茶髪を上下に揺らした女が、「主催者は?」と近くにいた女中に聞く。
こそり、と耳打ちをすれば、雰囲気に似合わない声色で、
「赤の女王様に申します。本日は勝手に参りましたことをお許しください」
「それで?」
「こちらをお預かり致しました」
皆、口を噤んだままで、その頭の弱そうな女たちを無視しているが、視線だけはうるさいほど凝視していた。
赤の女王であるレイラがその手紙を預かると、封蝋を開けて中身を取り出す。
投げるよう置かれた封筒の封印は確かに橙が秘密裏に使用する物なので、偽りではないのだろう。
(あのクソ女、レイラお姉様に媚を売って慈悲で席に収まったくせして……公爵家だからってこんなこと許されると思っているんだから、本当に無能だわ!)
誰もが思ったことであろう。
しかし次にそれを読み上げる時、
「なるほど。〝これが今年の花を咲かせるための種で御座います〟ね……」
ウィロウは怒りと同時に肌が粟立つ。
橙である公爵令嬢は、レイラを落ち目だと見切りを付けたのだ。
公爵家である私がわざわざ時間をかけるほどでもない。そんな行為である。
それは後ろ足で砂をかける行為だった。
(絶対に許さない……っ!!)
ベールに覆われたことをいい事に、その手紙を見開いた目の玉で呼吸も忘れ見つめた。
だと言うのに。レイラはそれを高らかに笑った。少し掠れた声で。
「あっはっは、面白い!! ねえ、そう思うだろう?」
胸を押さえ、ゼイゼイと喘鳴しながら手に持った紙を握り潰す。
どうしようもなく彼女も怒っている、言葉遣いで感じる。隣に座るウィロウも口角をひくつかせて無理矢理に笑みを作った。
それを未だに立たされたままの女たちも、手応えありだと。同じように表情を真似て、
「本日は、皆様が楽しめますよう話を持って参りましたので、どうかご一緒させて頂きたく……」
「ふん、良いだろう」
「赤の女王様のご許可、ありがたく存じます」
それを聞いたレイラが女中にもう一つの椅子を用意させると、どこの家格かも知れぬ無粋な女二人が、いとも簡単に隣に座る。
当たり前だが周りは面白くなかった。
「さ、始めましょう」
そうしてメンバーが揃うと、その一声で奇妙な茶会が幕をあけた。
女中が右回りに簡単に茶を注いでいく。その香りと色から既にこのカップの中のストレートのブラックティーに喉を鳴らす。
「皆様、冷めぬうちに」
そんな風に促され、皆が一口含み静かに息を吐く。
(毎年のことながら……これほどの茶葉は、手に入らないわ。きっと王室で頂いた代物に違いない)
フレーバーティーが貴族の中にやっと浸透してきた時代。つまりブラックティーもそれなりで満足出来、香りが足りない場合は花弁やフルーツの砂糖漬けを浮かべて楽しんでいるのに。
ウィロウはこれだけでも参加出来ることに感謝してしまう。
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