13 / 34
性悪な聖女と社交界の花
12
しおりを挟む
惚けたまま見つめていると、
「不慮の事故。経緯は想像に任せるわ、ありふれたなこと。それより見てよ、こんな醜い痕をドレスの下に忍ばせる私を……周りが言うの。太陽の女神から愛された情熱的な聖女でもあり社会性の花、だとね」
彼女が吐き捨てるように嘲笑する。
ウィロウは思ったままに言葉を返した。
「いいえ……とても綺麗です……」
「変わった子」
デスクから降りる様すら、ウィロウには地上に舞い降りた女神のようで。掴む手を離すと、ドレスがさらりと足元まで落ちて揺れている。
ふっくらと柔らかそうな肌に食い込む、茨の蔦にも似た痕が隠れて。少し名残惜しそうな表情のまま、
「私も貴女のような、唯一無二の美しい存在で在りたい」
そんな風に自然と言葉が涙と溢れた。
もうエマ・ケリーに比べられたくはない。アイヴィーという女神の影にぼんやり映る中途半端な見てくれだけの女で居たくなかった。
先程の虚勢が虚しくなる。自身の矜恃など、この絶対的存在を前にしたらちっぽけに思えたからだ。
「闇を宿した貴女のその目が気に入ったの、私と同じ。恐れと執着に囚われたそれこそが、高潔に咲き誇る花となるの。だから他人の闇をも受け入れられるの。ウィロウ、欲しいでしょう?」
「何が」と口を開こうとするが、近寄りレイラの冷えた指が伸びてきて、濡れた目元を拭う。
無機質で、やはり同じ人種とは考えられず。
慈愛を型どった表情と無慈悲な瞳。
(私の瞳もこの人と同じ……?)
「はい、貴女のすべてが欲しい……」
彼女の目がその言葉しか許さないようで。瞬き一つもせずに呟けば、レイラは嬉しそうにその目を細めながら、「良い子ね」とだけ返す。
それが当時二十二歳のレイラ・ハワードとの出逢いだった。
「不慮の事故。経緯は想像に任せるわ、ありふれたなこと。それより見てよ、こんな醜い痕をドレスの下に忍ばせる私を……周りが言うの。太陽の女神から愛された情熱的な聖女でもあり社会性の花、だとね」
彼女が吐き捨てるように嘲笑する。
ウィロウは思ったままに言葉を返した。
「いいえ……とても綺麗です……」
「変わった子」
デスクから降りる様すら、ウィロウには地上に舞い降りた女神のようで。掴む手を離すと、ドレスがさらりと足元まで落ちて揺れている。
ふっくらと柔らかそうな肌に食い込む、茨の蔦にも似た痕が隠れて。少し名残惜しそうな表情のまま、
「私も貴女のような、唯一無二の美しい存在で在りたい」
そんな風に自然と言葉が涙と溢れた。
もうエマ・ケリーに比べられたくはない。アイヴィーという女神の影にぼんやり映る中途半端な見てくれだけの女で居たくなかった。
先程の虚勢が虚しくなる。自身の矜恃など、この絶対的存在を前にしたらちっぽけに思えたからだ。
「闇を宿した貴女のその目が気に入ったの、私と同じ。恐れと執着に囚われたそれこそが、高潔に咲き誇る花となるの。だから他人の闇をも受け入れられるの。ウィロウ、欲しいでしょう?」
「何が」と口を開こうとするが、近寄りレイラの冷えた指が伸びてきて、濡れた目元を拭う。
無機質で、やはり同じ人種とは考えられず。
慈愛を型どった表情と無慈悲な瞳。
(私の瞳もこの人と同じ……?)
「はい、貴女のすべてが欲しい……」
彼女の目がその言葉しか許さないようで。瞬き一つもせずに呟けば、レイラは嬉しそうにその目を細めながら、「良い子ね」とだけ返す。
それが当時二十二歳のレイラ・ハワードとの出逢いだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる