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性悪な聖女と社交界の花

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「あの、僭越ながら、何故に私を?」


素直に意味が分からないのだから尚更に不気味だ。
せめて納得のいく言葉が欲しい。
新手の詐欺か勧誘だろうか。
ウィロウは目に見えるよう狼狽えた。

それをレディーらしからぬ大口を開けて豪快に笑っている。声は美しいのに何とも品がない。
肩からずり落ちたシルクのストールを手繰ると、


「貴女、社交界の花をどう思って?」

「どう、って……。見目が良く、ダンスが上手く、新たな流行を作り、あらゆる情報と人望が……あの?」


聞いておいて興味も無さそうに欠伸をしている。
面白くないのはこちらである。公爵家の人間を前にそんな素直な表情を見せるわけにもいかず、あけすけな作り笑いで、言いたいことがあるなら言え、と促した。


「眠くなるようなことを並べる貴女が悪い」

「申し訳御座いません」


(お前が聞いてきたくせに……っ)

それをレイラが意地の悪そうな、半目で片方の眉と口角を上げて頬杖を付いている。
見透かされているよう感じたウィロウは小首を傾げ、更に目を細めて微笑み、「何でしょう?」と取り繕った。


「下手な誤魔化し方。夜会には様々な目的を持って皆集まるの。綺麗なものばかりではない。他人の闇すらもすべて抱えるのよ……社交界の花という存在は」

「闇を……」

「その足、誰にやられたのか言ってごらん。あの頭が軽そうな愛想だけは良い母親? それとも融通の利かないつまらなそうな父親?」


ウィロウはカッと顔を赤くすると、ドレスの端を強く掴んだ。自身で思うのと他人に言われることは別。
いくら公爵家でも侮辱される言われはなかった。


「違います!」

「あら、良い表情。だったらやはり家庭教師を騙った、あの無能な侯爵家の次女か……」

「何故それを……あっ!」


開いた窓から肌を刺すような冷たい風が吹いた。
床に投げ捨てられ散らばった紙面が足元に滑ると驚愕してしまう。
自身の名からスタンリー伯爵家の様々なことが書いてあるのだから。
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