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性悪な聖女と社交界の花
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集中が途切れてしまった、というよりは侍女にしてやられたと思うウィロウ。
火照る身体の熱も冷めやまないまま、自分は何て中途半端な人間なのだろうと深い溜息が落ちた。
この通り、ダンスでは彼女に及ばず、
「ケリー伯爵家のエマお嬢様は若い貴族令嬢の中でも群を抜いてらっしゃる」
またマナーでも、
「子爵家のご令嬢をご存知ですか? アイヴィー様と仰る方です。それはもう女神のように美しい容姿と所作ですよ」
などと、どの茶会へ参加しても持ち切りの話題だ。
情報の豊富さと、誰にも負けない言い回し、そしてあの「ロベリアが咲き乱れるお茶会」の主が、まさに現在の社交界を盛り上げる花。
その花が、「スタンリー伯爵家のウィロウ様は、次代の社交界を盛り上げてくれるでしょうね」と援護してくれたからこそある地位なのだ。
用意された人望と、女神だと謳われる少女の脇で聖女だと持て囃されることの苦痛、周囲の目を全て攫っていくほどのダンスが踊れるわけでもない。
刺繍は好きだったが社交界には必要がなかった。
ただ、「その目が気に入ったの」そんな風にあの日言われたから今のウィロウがある。
二年ほど前のことだ。
冬の冷気にまだ破れた足の皮膚が薄く繋がりかけていた頃。
「流行のチェックもレディーの務めよ!」と意気揚揚に王都を連れ回す母の歩幅に無理をして合わせていれば、皮膚がまた裂け痛みによろめいた。
そこを支えてくれたのが、華やかで艶やか。
凄まじい雰囲気を漂わせながら微笑んでいる。
吸い込まれるような澄んだ瞳の中に、僅かに混在する自分とよく似た闇深い部分。
「大丈夫?」
「はい、失礼致しました。お礼を申し上げます」
母はすぐに駆け寄ろうとしたが、彼女がそれを手で制した。付き人である従者らしき人物に「話相手になっておやり」と告げれば、無言のまま頭を下げて何やら会話をしている。
衝撃を受けた。ぺこぺこと頭を下げる母を見たのは初めてだったからだ。
火照る身体の熱も冷めやまないまま、自分は何て中途半端な人間なのだろうと深い溜息が落ちた。
この通り、ダンスでは彼女に及ばず、
「ケリー伯爵家のエマお嬢様は若い貴族令嬢の中でも群を抜いてらっしゃる」
またマナーでも、
「子爵家のご令嬢をご存知ですか? アイヴィー様と仰る方です。それはもう女神のように美しい容姿と所作ですよ」
などと、どの茶会へ参加しても持ち切りの話題だ。
情報の豊富さと、誰にも負けない言い回し、そしてあの「ロベリアが咲き乱れるお茶会」の主が、まさに現在の社交界を盛り上げる花。
その花が、「スタンリー伯爵家のウィロウ様は、次代の社交界を盛り上げてくれるでしょうね」と援護してくれたからこそある地位なのだ。
用意された人望と、女神だと謳われる少女の脇で聖女だと持て囃されることの苦痛、周囲の目を全て攫っていくほどのダンスが踊れるわけでもない。
刺繍は好きだったが社交界には必要がなかった。
ただ、「その目が気に入ったの」そんな風にあの日言われたから今のウィロウがある。
二年ほど前のことだ。
冬の冷気にまだ破れた足の皮膚が薄く繋がりかけていた頃。
「流行のチェックもレディーの務めよ!」と意気揚揚に王都を連れ回す母の歩幅に無理をして合わせていれば、皮膚がまた裂け痛みによろめいた。
そこを支えてくれたのが、華やかで艶やか。
凄まじい雰囲気を漂わせながら微笑んでいる。
吸い込まれるような澄んだ瞳の中に、僅かに混在する自分とよく似た闇深い部分。
「大丈夫?」
「はい、失礼致しました。お礼を申し上げます」
母はすぐに駆け寄ろうとしたが、彼女がそれを手で制した。付き人である従者らしき人物に「話相手になっておやり」と告げれば、無言のまま頭を下げて何やら会話をしている。
衝撃を受けた。ぺこぺこと頭を下げる母を見たのは初めてだったからだ。
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