殿方逢瀬(短編集)

九条 いち

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店員さん~?~

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「どうしました」

「どうしてくれるんですか……全然感じませんでした」

 拓己さんの顔が険しくなる。
冷えた風が髪の間を掻き分けて私の首筋を冷やす。

とりあえず、と部屋の中に通される。リビングには大きなダークブラウンの革のソファがあり、そこに腰掛けるよう勧められて座る。

彼は違う部屋に行ってしまった。でもすぐに戻ってきて、横に座る。体をこちらに向けながら顔を覗き込まれる。

「エッチしたんですか」

「……しましたよ。すごく嬉しくて、なのに全然気持ちよくなくて。……おまけに拓己さんの顔がでてくるし……」

 思い出しただけで鼻の頭から目頭に熱が集まってくる。彼は呆れた顔で私に濡れタオルを渡す。

もらったタオルを目元にあてると、腫れて赤くなっていた瞼が冷やされて気持ちがいい。

「まあ、そうでしょうね。そうするように仕向けましたから」

「へっ?」

 タオルを外して拓己さんの方を見る。彼は足を折りたたんでソファの上にのせ、クッションを胸の前で抱いていた。

「僕が『好きな人の恋が実るまでの間だけでいい』って本当に思うわけないじゃないですか。そんなにいい人じゃないですよ。相手、ろくな奴じゃなさそうだし」

 急なこと過ぎて頭がついて行かない。無言の私を弄りながら拓己さんは続ける。

「もう凪さんは僕じゃないと満足できないと思いますよ」

「そんなっ」

 私の髪をくるくると巻いて遊んでいる拓己さんと目が合う。

見たことのない光のない鋭い目に見つめられてゾクっと背筋が凍る。

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