殿方逢瀬(短編集)

九条 いち

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店員さん~?~

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彼はドア付近に立って、部屋の中にいる私に問いかける。

「すぐ終わります。あの、この前買ったやつの使い方がわからなくて」

「確か……一番人気のやつですよね」

「はい、そうです」

「ちょっと取ってきますね」

 ――戻ってきた彼は新しい箱を手にしていた。見本品で説明してくれるだけで十分なのに。

「あの、電源ボタンの場所を知りたいだけなので!」

「もう開けちゃいました。代金は頂かないので心配しないでください。お客様はこういう商品は初めてですか?」

「はい……」

「じゃあ初めから説明しますね」

彼はデスクの上に軽く腰かける。私も同じようにする。もうどうせなら全部聞いて帰ろう。中途半端に早く帰っても前みたいなことになりかねない。

「まずは温めないといけません。温めなくてもいけるんですけど、ヒヤッとしちゃいますから」

 そう言って彼は別室に行ってしまった。二,三分して帰ってきた彼は手に湯の入ったボウルを持っていて、中にはディルドとローションが入っていた。

「消毒を兼ねて熱湯で温めてきました。これを少し冷やして体温と同じくらいにします」

 彼が私の近くに座って温まったディルドを私に手渡す。

「あったかいですね」

「ええ」

 彼は微笑む。近くで見る彼にドキッとする。こんな整った顔の人に至近距離で微笑まれて何とも思わない人なんていないんじゃないか。

「次は指を使って中を慣らします」

 彼の手が私の膝まであるスカートの中に入ってくる。ゾワゾワッとした感覚とともに正気に戻る。

「えっ、ちょっ」

「お嫌ですか?」

嫌では……。ダメだ。流されそうになってしまった。

「嫌ではないんですけど……その、自分でしますんで」

「わかりました。それじゃあ、これ、使ってください」
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