殿方逢瀬(短編集)

九条 いち

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瀬崎さん~口下手な彼~

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中はこじんまりとした大衆酒場といった感じだった。
通路の左側は6人ぐらい座れる座敷が3つあり、間には目隠し程度のすだれがかけられている。
通路の右側はカウンター席が7席ほどあって、店のいたるところにビールの広告の貼紙やおすすめメニューが貼ってある。

水曜日の早い時間だったからだからか、他のお客は座敷に一組だけだった。
いい感じにお酒が入って盛り上がっているようだ。

「いらっしゃいませー、何名様ですか」

50前後くらいの肩からエプロンをかけたふくよかな女性がカウンターの向こう側から出てきて私の方に歩いてくる。

「一人です、大丈夫ですか?」

聞こえないかもしれないから
右手の人差し指を顔の前に出し、一人だということをアピールする。

「こちらへどうぞー」

奥から2番目のカウンター席に通される。
席に座り、メニューを取って開く。

とりもも 3本 - 350円
てばさき 4本 - 500円

…よかった安いみたい。
注文を済ませて料理を待つ。

手持無沙汰で店内を見回す。
座敷の方を見ると、すだれ越しではあるが、4人の男性が飲んでいるようだった。
その中に一際体格のいい男性がいた。

あの人だ…。

いつも消防署で目を奪われるあの人がこの居酒屋にいた。

気づかれないように自然に顔を前に戻す。
この距離だとよく見えた。
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