殿方逢瀬(短編集)

九条 いち

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瀬崎さん~口下手な彼~

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「ふぅ…疲れた。」

久しぶりに定時に会社を出ることができた。だが連日の激務でくたくたになっていた私は家に帰って夕飯を作る気力など残っていなかった。

スーパーのお惣菜は飽きたし、あんまり食べる気分でもないのにデリバリーもあんまり気が進まない。

どうしようかと歩いていると、いつも気になりつつも入ったことがなかった居酒屋が目に入った。
アスファルトの歩道からすぐに入れる昔の町屋を改修したような和風の建物。社寺の木材のような年数を重ねた木材にしか出せない黒茶が上品な雰囲気を出していた。入り口横の日よけ暖簾には「居酒屋 とき」とある。

入り口の引き戸は格子状のガラス張りだったが、目線の部分はすりガラスで見えないようにされていて、いつも中の様子はわからなかった。

高級居酒屋だったらどうしようと思って、入っていなかったが、今日は食欲もそんなにないから、メニューを見て高かったら少し食べて帰ろうと決意して入る。

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