殿方逢瀬(短編集)

九条 いち

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瀬崎さん~口下手な彼~

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朝、出勤前に30秒の一つ楽しみがある。

勤務する会社まであと5分で着くというところに消防署があり、私の出勤時間は消防隊員たちが車両や署内の点検、清掃をしたりしている。

オレンジのズボンに紺色のTシャツから見える太い腕の筋肉の隆起やシャツの中のたくましい背中に惚れ惚れする。

元来、体格のいい男性が好きな私にとって目を引かれずにはいられない光景だ。

たくましい体の隊員たちの中でも一際目立つ人がいて、その人が私のお気に入りだ。

その人は170㎝前後の隊員達が小さく見えるくらい大きい。
185㎝は確実にありそうな身長に、体格は前にテレビで見たヘビー級のプロレスラー選手に似ている。

最初は、
あの体に包まれたらすごく安心するだろうな、とか考えちゃったりする…。
気持ち悪いよね。
考えないようにしよう。
でも、やっぱり、彼女いるのかな…。結婚してたりして…。
とか、いろいろ考えていた。

でも、道の反対側から見ているだけの距離。
6mの距離は思ったよりも遠い。
知り合ってもいない人を想うのはあまりに可能性が低すぎる。

あまりのめり込まない様に、イケメンカフェ店員のような目の保養として見る人とレッテルを貼るようになった。

今は髪形やオシャレにも自然に気を遣うようになるし、ありがとう!ぐらいの気持ちで消防署の通るようになっていた。

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