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橘さん~クールな彼~
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しおりを挟む橘さんに食い気味に話を遮られ、少しいて彼の方を見る。
「なのにその格好で対応するつもりだったんですか?」
「あ……」
何も纏っていない身体にベッドシーツを巻いただけの恰好の自分に気づく。
「でも足音速かったし、服着る時間なくて」
「……」
橘さんは黙る。眉間に皺を寄せ、怒ってるようだった。
「以後、気を付けます……」
彼に怒られて〝しゅん〟とする私。確かにだらしなかったのかもしれない。
でも、ホテルの人に見られてもいいじゃないか、シーツは体に巻いているんだし……。少し納得がいかない。彼にそっぽを向き、とりあえず服を着ようとベッドの方に戻ろうとする。そんな私の腕を橘さんが握って引き止める。
「すみません……。偉そうでした」
彼にそんなに素直に謝られると、怒っている自分がすごく心が狭いような気がする。私は顔を作り、何事もなかったかのように彼に振り向く。
「いえ、お気になさらず。橘さんにヤリ…じゃなくて、橘さんは一夜だけのつもりだったんじゃないかなーって落ち込んでたんです」
「どうしてそう思ったんですか?」
「朝起きたら橘さんいないし、荷物もなかったので」
「ベッドサイドに置手紙をしていましたが……すいません、気づきにくい場所でしたね」
橘さんはベッドサイドチェストを見る。彼の目線の先にあるベッドサイドチェストに目をやると確かにそこに置手紙が置いてあった。
「すいません、気づかなくて」
私の早とちりで勝手に誤解して、落ち込んでいたなんて……自分の不甲斐なさに落ち込む。
「いえ、次からはもっとわかりやすい場所に置くようにしますね」
橘さんはソファに腰かけて紙袋を開け、透明のフードパックを取り出す。中身はサンドイッチの様だった。
私はその様子をぼんやりと眺めながら、≪次からは≫という言葉に、次があるんだと少し安心していた。
……ん? 次があることに喜んでいるってことは彼のことが好きなんだろうか。でもまだ会ったばかりでよく知らない人だ。そんな人と一夜を共にしてしまったのだけれど。
いつもならありえない自分の行動に自分が一番驚いている。
「飲み物、何がいいですか?」
いつの間にか下に向いていた視線を少し上に移すと、ソファからこちらをのぞき込む橘さんと目が合う。
「どうしました?」
先ほどの謝罪の後だからだろうか、橘さんは少しばつの悪そうな顔をしていた。
「いや、なんでもないです」
とりあえず、早く着替えよう。自分の身に着けていた下着を探そうと彼から部屋に視線を変える。突然視界が薄暗くなる。
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