殿方逢瀬(短編集)

九条 いち

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橘さん~クールな彼~

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ふぅ。気持ちよかった。タオルで拭く私の髪は、備え付けのシャンプーのフローラルな香りがする。着替えをどうしようか。クローゼットの中にあるだろうか。とりあえずバスタオルを巻いて胸の上で留めてシャワールームを出る。

人影が見えて身体が固まる。

「橘さん?」

 すっかり帰ったと思っていたから完全に気が緩んでいた。

「すいません。迎えの時間を聞いてなかったので待っていたのですが……。着るものが必要ですね。バスローブがあったはずです。取ってきます」

 彼は寝室の入り口付近にあるクローゼットから持ってきてくれる。

「ありがとうございます」

彼は私にバスローブを手渡すと後ろを向いた。袖を通すと全身ふわふわのタオルに包まれているような感覚になる。

「着替えました」

 彼がこちらに振り向いて微笑む。

「酔いは醒めたみたいですね」
「はい、おかげさまで」
「それでは……迎えの時間はどうしますか?」
「いいです。明日は自分で帰ります。待たせちゃってなんですけど」
「それはできません」
「え?」
「あなたを家に送らないと私の気が済みませんから」

 彼は譲る気はないといった様子でいる。どうしよう。夜遅くに車で帰って、支度をして寝て、朝起きて私の指定した時間に間に合うように準備をして迎えに来る。考えただけでも面倒だ。

「なら、ここで泊まるっていうのはどうでしょう」
「いいんですか」
「はい、橘さんさえよければ。広いベッドですし」
「……ありがとうございます」

 橘さんはシャワーを浴びに行き、私はドライヤーで髪を乾かす。明日は休日でよかった。髪を乾かし、整え終わる頃には彼がバスローブを着て寝室に来ていた。

「ドライヤー、使いますか?」
「はい、そこに置いといてください」

 彼はベッドの端に座り、濡れた前髪をうっとうしそうにかき上げる。水も滴る――とはよく言ったもので。元から色気があるのに、今はより一層色香が彼のまわりを深く漂っていた。

 ラフに着られたバスローブの胸元から筋肉のついた厚い胸板が見える。普段から鍛えているのだろう、首から肩にかけて盛り上がった筋肉に目が釘付けになる。

「どうかしましたか」
「い、いえ!」

 私はキッチンに行き、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出す。キャップを開けて勢いよく水を飲む。喉を冷たい液体が通り、冷やしながら落ちていく。

「ぷはぁ」

 ペットボトルの水は半分近くまで減っていた。
 寝室に戻るとベッドに直行する。さっさと寝よう。軽くて温かい布団に包まれて幸せな気分になる。枕もほどよく弾力があり、寝むるための姿勢をとるのに適していた。私はゆっくりと瞼を閉じる。

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