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橘さん~クールな彼~
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しおりを挟む「いえ。彼が見えたらおっしゃってください。下までお送りします。」
……え?
「彼、とは?」
不思議そうに聞くは私にばつが悪そうな顔をして答える。
「彼氏を待たれているのかと。勝手な思い違いでしたね。すみません。」
「いえ!私こそ紛らわしい言い方をしてしまって。彼氏の一人や二人いてくれたらよかったんですけどね」
冗談まじりに言って彼を見ると「そうですか」と少し顔をほころばせていた。
窓の外に視線を移動させると、地上に篠宮さんがいるのが見えた。
「いました!」
見つけられた喜びでやや興奮気味に彼に話しかけてしまう。私の様子に彼はフッと微笑む。
「おりましょうか」
「本当にありがとうございました。何かお礼をと思ったのですが、私に出来ることは何かありますでしょうか?」
エレベーターの中で彼に話しかける。彼の笑みを何度か見て、安心してしまったのか、いつもよりたくさん話しかけてしまう。
「それでは、僕を彼の候補に入れていただけませんか?」
「え?」
「あなたがよければですが。」
こんな素敵な人が私の彼氏になりたいなんて願ってもないお話! 私は何の疑いもせずに目をキラキラさせて頷く。
「そんな! もちろんです!」
「よかったです。あの、では連絡先と名前をお伺いしても?」
「あっ、すいません! えっと……」
エントランスを出たところで篠宮さんがキョロキョロしていた。なんだか可愛くて思わず笑みがこぼれる。
「悠衣{ゆい}ちゃん!」
私に気づいた篠宮さんが手を振りながらゆっくり歩いてくる。私の横にいた橘さんにも気づいたみたいだ。
私は篠宮さんに軽くお辞儀をしたあと、橘さんに向き直る。
「今日はありがとうございました。食事、楽しみにしてます」
お辞儀して顔を上げると、橘さんは冷たい目で私を一瞥する。
「ええ、それでは」
彼はビルの中に戻って行ってしまった。少し、突き放された感じがした。
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