草履とヒール

九条 いち

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「前した時には他の男を考えていただろう?」
 前? 前のエッチの時の事か。
「ああ、それはカッコいいなと思った俳優さんをてきとうに想像してました。私だけ通政さんを見ているのは何だか悔しくて」
「本当か?」
「はい、本当です」
 通政さんは息が止まったように三秒程私を見つめると、大きなため息をついた。
「はぁーー」
 肩の荷が降りたように吹っ切れて彼の顔の緊張が解れていくのがわかった。
「誤解が解けたみたいでよ何よりです」
「全くだ。椿に他の相手がいると確信した時は頭を鈍器で殴られたようだった」
「うわあ痛そう」
「ああ、痛かった。癒してくれ」
 彼は私の顔にくちびるを寄せて、頬にキスの雨を降らせる。
「ちょっ、くすぐったいです」
「だめだ、離さない」
 逃げようとする私の両肩をガッチリと抱き留めてキスをされる。彼のくちびるが頬から耳、うなじへと降りていく。
「んっ、やぁ。くすぐったい」
 首元を吸われてチクリとした痛みが走る。
「んっ」
 肩を抱いていた彼の手が乳房に降りてくる。両胸をなぞるように触れられてビクッと体を揺らす。何度も彼に抱かれた身体は彼の指先に敏感に反応するようになってしまった。両胸を円く揉まれると、乳白色の湯から尖った先端が見え隠れする。
「あん、んぅ……」
 先を摘まれて腰に甘い痺れが走る。
「椿……綺麗だ」
 彼は私の首筋に顔を埋めて愛しげに火照った身体を見つめた。
「んっ、そんな、こと……」
「綺麗だ」
 首を這い上がるように舐め上げられて自然と背筋が伸び上がる。
「足、開いてくれ。……そう、いい子だ」
 左腕で両胸を抱え込むようにして刺激し、右の乳首を縒るようにして嬲られる。開いた足の間には彼の右手がゆっくりと入ってくる。お湯のせいでいつ触れられるかわからない。
「んっ……、っ」
「次、どこを触られるかわかるか?」
「わかんっ、ない……」
「当ててみろ」
「……ア、ソコ……」
 羞恥で火が出そうになる頬にチュッとキスをされる。
「残念」
 彼の指先が内腿に触れ、いやらしく揉まれる。
「期待した?」
 通政さんは意地悪な顔をしてこちらを見る。
「……して、ないもん」
 強がるようにして顔を背けると、内腿を捏ねていた手が足の付け根に滑り降りてくる。愛陰に触れる寸前のところを揉まれる。
「そうか? まだ触ってないのに、とろとろしたものが出てきてるぞ」
 秘裂に沿うように中指が触れる。
「んんっ……、んぅ……」
 焦らされて腰が揺れる。ナカに欲しい。彼の硬くて骨ばった指をナカに入れて掻き混ぜて……。
「ほら、欲しい?」
 中指で入口をヌプヌプと出入りされる。よじる腰に彼の硬くなった怒張が当たる。擦り付けられるようにされると淫らな考えでいっぱいになる。
「入、れ……て、……」
「どっち?」
 前も後ろも逃げ道がなくて彼の顔を見た。言うまで離してくれる気はないようだった。
 こんなこと言ったら淫らな女だと思われるだろうか。慣らしてもいないナカに彼のモノを欲しがるなんて。頭ではわかっていたが、欲には抗えなかった。
「通政さんの、大きいの入れて、ください……」
 腰に当たる彼のモノがドクンと脈を打ってさらに大きくなった。
「っ!」
「椿が煽るから」
 顎を掴まれて後ろを向かされる。開いた口に彼の熱い舌が入ってきた。
「んう、、ふぁ……ん、あぅ……」
 彼の舌に翻弄されながらも必死に舌を絡めると、彼の猛りが更に大きくなる。彼のくちびるが離れると、二人の間に口蜜の糸が垂れた。
「そこに手をついて」
 彼が指示したのは鏡の前だった。いつもの私なら絶対嫌がるが、彼のモノが欲しくて、言葉に大人しく従った。
「そう、お尻を突き出して」
 ゆっくりと鏡に手をつきながらお尻を突き出していく。まるで挿れてくださいと懇願するような体勢に肌が羞恥に染まる。
「絶景だな」
「なっ!」
 引っ込めようとする腰を掴まれて引き戻される。
「エロくて見てるだけでイきそうになる」
 耳元で囁かれて秘所がキュンと疼く。突き出した臀部に彼の滾りを滑らされてから、亀頭をヌルヌルと割れ目に擦り付けられる。
「椿のナカは俺のに吸いついてくるぞ」
「やあっ、あぁっ……!」
 彼の熱くて硬い怒張がゆっくりと入ってきて隘路を押し広げていく。広げられるほど呼吸が苦しくなるが、すぐに蕩けるような快感に変わる。
「ほら、前を見て」
 顔を持ち上げられて前を向くと、鏡に写った自分がいた。物欲しそうな目をしている自分と目が合う。くちびるは赤く色づいて潤んでいた。彼が腰を動かす度にはしたなく出る喘ぎ声と共にくちびるが淫らに動く。そこに彼の指が艶かしく入ってくる。彼は人差し指と中指で私の舌を掴み、扱く。開いたくちびるからは口蜜が垂れた。
「ふぁ……、ああっ、あっ……」
「すげえエロい顔してる」
 上顎の裏を指先でなぞられてゾクゾクっと背が震える。鏡越しに彼と目が合うと彼が更に激しく腰を打ちつける。
「今、椿を犯しているのは誰だ?」
「うぁっ、あんッ……、あ、やぁ……!」
「ほら、言って」
 ナカを押し広げられて奥をズンズンと押し広げられて訳がわからなくなる。混乱する意識の中、彼の名を必死に口にする。
「あっ、ああ! み……ちッ、ま……あっああ!」
「ちゃんと」
 グチュグチュと彼と私の結合部から卑猥な音が響く。
「あぅ……、んあ! みち……ま、さ、さんっ……ああ!」
「そうッだッ! んっ!」
 めちゃくちゃに奥を突かれて耐え切れないほどの激しい波が身体に襲いかかる。
「やぁっ、ああぁっ!」
 彼は後ろから両胸を揉み、乳首をギュウッと引っ張ってくる。引っ張られる度にナカを締め付けて彼の怒張をより感じてしまう。
「あんっ! だ、だめ、それ、ひゃあっ!」
「ん? 好きだろ? ほらッ!」
両乳首を強く摘まれて痛いはずなのになんとも言えないほどの快感が襲ってくる。先っぽを弾いたり押し込んだりされてヒクつくナカを彼の肉棒がものすごいスピードで擦り上げていく。
「あっ、あああ! イっ、イッちゃう……アンっ!」
「いいぞ、俺も、イきそ……」
「んぁっ! ああっ! んぁ! あぅッ!」
 遠慮のない腰遣いで叩きつけるようにピストンをされる。両乳首を
押しこまらながら怒張を突きつけられて身体がビクビクッと痙攣した。
 後を追うように最後の一突きが来ると、ナカに熱い液体がドクドクと吐き出された。
「はぁ……あん、ん……」
 ナカで脈打つ彼のモノを感じていると、耳の中に舌が入ってくる。クチャクチャとなる音に、まるで耳の中までも犯されているように感じる。
「あっ、ああ……」
「椿……」
 硬さを取り戻した彼のモノがヌプッと音を立てて抜かれた。
「あぅっ……」
「まだして欲しかったか?」
 彼の猛りが抜けないように無意識に腰がついて行っていた。
「ちっ、ちがっ!」
 咄嗟に否定するが、鏡に映る自分は淫らに腰を突き出していた。赤面して俯く私の頬に彼のくちびるが触れる。
「椿が疲れていない時に……な?」
 通政さんが身体を洗ってくれると言ってくれたが、羞恥で気を失いそうだったから自分で洗った。彼の視線が痛いほどに伝わってきたが、気づかないふりをしてなんとか気を紛らわせた。

 ベッドの上に座り、目を瞑って風を浴びる。仕上げの冷風が頭皮を心地よく掠めていく。
「終わったぞ」
「ありがとうございます」
 通政さんがドライヤーを折り畳むと、ベッドサイドに置いた。
「通政さんの髪乾かしますよ」
「いや、大丈夫だ。もうほとんど乾いている」
 彼の短くなった髪の毛先に触れる。通政さんの綺麗な黒髪がなくなったのは何だか寂しかった。
「どうして切ったんですか?」
「事務所に切れと言われた」
 仕事だと分かっていても、自分といた時は頑なに切らなかったものをこうも簡単に切られると複雑な気分になる。
「それに、椿はこの髪型、好きだろう?」
「何で知って」
 清潔感のある短髪に長めの前髪を分けて後ろに流す髪型は確かに大好きだ。でも、彼の前でそんなこと言った覚えはない。
「この前行ったアウトレットで言っていただろう」
「あっ、あの店員さん」
 通政さん用の秋服を探していたお店にいた店員の髪型がカッコいいと言っていた。特に意図を込めていなかったのですっかり忘れていた。そんな些細なことを覚えてくれていたなんて。
「前は切る気なかったから不思議に思っていたんです」
「周りの目を気にして切るのは嫌だったが、椿に好かれるのなら俺はいくらでも切るぞ」
 特にこだわりもないしな、と付け加える通政さんに思いっきり抱きつく。
「どうした」
「愛されてるなーって」
 冗談まじりに彼に笑いかける。
「そうだ。肝に銘じておけ」
 頭を揺らすように撫でられて拍子抜けする。本気で言っていなかったが、肯定されるとこそばゆい。
 瞳を閉じると、優しい手が私の髪を梳くように撫でる。その手が気持ちよくて、いつの間にか眠ってしまっていた。


 
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