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第3章 秘めし小火と級友の絆編
69.次男坊とシュヴェール流盾術
しおりを挟む「うぉおおお!!─────先手必勝ッ!!」
白金色の剣を振りかざしながらリッドへと駆け寄ったファイ。
そして、その剣を彼へと思いっきり叩きつける。
しかし、リッドは右手に装着されていた丸い盾で、ファイが繰り出した攻撃を難なく防いで見せたのだ。
彼のその盾は、重兵士が持っている大きな盾ではなくやや小ぶり造りの所謂"バックラー"で、表面には"キンバーライト家"の家紋である、亀の甲羅が鮮やかな色彩の橙色で描かれていた。
「君の力はこんなものじゃ無い筈だ。全力でかかってこい!」
リッドは盾を力強く横に振るうと、受け止めていた剣をファイの体ごと弾き飛ばしたのだ。
「─────"ロック・スパイクッ"!!」
さらに、リッドは弾き飛ばされたファイの着地するであろう場所に狙いを定めると、左手から六つの岩の棘を正確に撃ち放っていった。
「おっと!?」
リッドによる容赦ない追い討ちであったが、体勢を崩しながらも何とか躱すことができた
ファイは、反撃をすべく彼に駆け寄るや否や、その手に握りしめた剣を振り下ろしたのだ。
「はぁああああッ!!」
だが、その振り下ろした白金色の刃は、又もやリッドの盾によって最も簡単に防がれてしまう。
「いい太刀筋だ……………だが、この盾を破るにはまだ足りないな!!」
「……………だったら!!」
ファイは、先ほどのように盾で弾き飛ばされまいと自ら後ろに飛んで離れると、火属性特有の赤いオーラを白金色の剣身に纏わせ始めたのだ。
「うぉおおお!!─────"烈火斬"!!」
そして、今度はその真紅のオーラを纏わせた剣を、リッドが持つ盾へと目掛けて勢いよく斬りつけたのだった。
その真紅のオーラを纏った剣が、リッドの盾に触れた瞬間である。
なんと、攻撃していたはずのファイが、いつの間にか遠くに吹き飛ばされていたのだ。
「なっ…………!?」
一瞬の出来事で、吹き飛ばされたファイ自身でさえも何が起きたのか分かっておらず、混乱している様子であった。
「……………"カウンター・ストライク"。魔力を使って相手の攻撃を打ち返す、"シュヴェール流盾術"の基本的な防御技さ」
リッドは、自らの家紋が描かれている盾を、丁度体勢を立て直したファイに向けると、爽やかな笑みを浮かべていたのだ。
「なるほどな。"キンバーライト家"の次男坊も、結構腕を上げたようだな」
「…………………レイヴン!」
「先生、ウィンの具合はどうですか?」
「心配ない、今は医務室でグッスリと寝てる。それより、試合はどんな状況だ?」
「…………………今のところ、ファイが劣勢」
「相手の防御力が高すぎて、上手く攻められないでいます。流石は、"八名家"と言ったところでしょうか」
「……………いや、アイツの"本気"はこんなもんじゃないさ」
「え?それって、どう言うことですか?」
独り言だったのだろうか。レイヴンが溢したその言葉に、不思議そうな顔を浮かべているフリッドとクラン。
そんな二人をよそに、今も激しい攻防を繰り広げているファイとリッドの様子を見つめる彼の面持ちは、いつにもなく真剣そのものなのであった。
「あー、今日からお前たちに色々教える事になった、レイヴンだ。短い間だが、適当によろしく頼むわ」
"シャイニール王国"の首都、"フラッシュリア"の中央に聳える白城、"センテリュオ"。
その一角にある広場に、七歳ほどの少年少女七名が横一列に行儀良く並んでいた。
その子供たちの前には、シワだらけの黒いコートを着た痩せた男と、その隣には真っ白な鎧に身を包んだガタイのいい男が心配そうな様で子供たちの顔色を伺っているのだ。
「……………と言うわけだ。しばらくの間、この者に剣術や槍術を習ってほしい」
「えー。こんな弱そうな奴より、ガードナー教官の方がいいよー」
「わがままを言うもんじゃないよ、ゼクス。教官は、"五大英雄"の一人でもあり王国軍の総司令官でもあるんだから」
「そうだよ。我らのために、貴重な時間を割いてくださっているだけで、感謝しなくちゃ」
「フンッ!俺は、強くなれるんだったら誰でもいい」
「……………僕は、剣より戦略の方を教えて欲しいな」
「……………………………」
「まぁ、色々と大変だと思いますが、よろしくお願いしますね。レイヴン"教官"」
「へいへい……………ん?」
レイヴンは、少し面倒そうに返事をした後に、何かに気が付いたのか広場の隅に植えてある木に近づくと、その影を覗き込んだのだった。
「おい、ギル。聞いてたのは七名のはずだが、"コイツ"はいいのか?」
まるで、野良猫を扱うかのようにレイヴンによって首襟を掴まれながら引っ張り出されたのは、なんと綺麗なキャメル色の髪を持つ五歳くらいの子供だったのだ。
「…………あっ!ダメじゃないか、ちゃんとお留守番してなくちゃ!!」
その様子を見た一人の少年が、並んでいた列の中から慌てた様子でレイヴンの元に駆け寄る。
どうやら、その少年はレイヴンに掴み上げられている子供の関係者のようであった。
「…………ごめんなさい、ハルトお兄ちゃん。でも、一人は寂しくって……………」
「なんだぁ?お前の弟か?」
「そうです。……………すみません、私は弟を家まで送りますので、授業は先に進めてください」
少年は、レイヴンに向かって一礼するとキャメル色の髪を持つ子供の手を引いて、その場から立ち去ろうとしている。
しかし、子供の方はよほど帰りたくないのか、レイヴンの方を何度も振り向いては大粒の涙を浮かべていたのだ。
その表情が、心の奥に閉まっていた嫌な記憶を思い出させる。
真っ赤な血の海に浮かんでいる母親にしがみついては、大粒の涙を流しながら叫ぶように泣き続ける一人の少女。
レイヴンには、少年に手を引かれていく子供の顔が、その時の少女と重なって見えたのだった。
「別に一人ぐらい増えても、俺は全然構わないぜ?問題ないだろ、ギル?」
「……………どうせ、私がダメだと言っても聞かないのであろう?好きにするがいい」
そう言うと白い鎧の男は、呆れるようにため息をつきながら、その場から離れていったのだ。
「と言うわけだ。お二人さん、早く列に戻りな」
「……………本当に、いいんですか?弟も一緒に、授業を受けても」
「もちろんさ。だけど、俺の授業は厳しいから、覚悟しておけよ!
「……………はい!ありがとうございます!!ほら、お前も礼を言うんだ」
「うん!……………ありがとうございます、"レイヴン"教官!」
キャメル色の髪を持つ子供は、一度だけ深くお辞儀をすると、ニッコリと笑み浮かべるのであった。
「おうよ!これから、よろしくな。"キンバーライト家"の"次男坊"!」
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