1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-

丁玖不夫

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第3章 秘めし小火と級友の絆編

63.第三試合とハイスヴァルム家

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「……………勝者、クラン・グランディール!!」


 審判を務めているウッドランドが第一試合の時と同様に、手に持った魔道マイクを通して勝利者の名前を呼び上げた。


「………………ふぁあああ~~~」


 しかし、当の本人は試合の直後にも関わらず、勝利の余韻に浸っているわけでもなく、いつもの如く眠そうに欠伸をしているのであった。



「ぐぬぬぬぬ………!!」


 そんな余裕の態度を取るクランが気に入らなかったのか、待機席に備え付けてある簡素な椅子が軋む程に、激しく貧乏揺すりをしている人物がいた。


「優秀者だけを集めた一組の中から、さらに選ばれた者しかなれない、通称"ナンバーズ"
 。それが、立て続けに二人も……………」

「私も、まさかガストがやられるとは思いませんでした」

「…………これでは、我が一組が烏合の衆である七組より優れていることを、全校中に知らしめられないではないかぁ!!」

「まぁまぁ、落ち着いてください。叔父上」

「これが、落ち着いていられようか!…………このままでは、良くて引き分けになってしまうのだぞ?」


 スコルドは、自分の思惑通りにことが運ばないのに納得がいかないのか、ヒーティスが少し宥めたぐらいでは彼のその苛立ちは収まりはしなかったのだ。


「…………確かに、私たちが勝った所で引き分けになってしまうのは事実。だったら、只の引き分けにしなければ良いだけです」

「ヒーティス、それは一体…………?」

「なぁに、簡単なことですよ」


 そう言うと、ヒーティスは怪しく微笑むのだった。





「さぁ、お待たせしました!続きまして、三試合目の組み合わせを決めたいと思います!!」


 マグネスが、天井に吊り下がっているディスプレイに手を向けると、これまでと同じく生徒の名前が次々と切り替わりながら映し出されていく。

 しかし、交流試合もこれで三試合目に差し掛かっている。
 従って、この画面の中で高速に切り替わっている名前は、両クラスとも二人ずつしかいないのである。

 そして、そのディスプレイに演習場に居る者全員の視線が集まる中、ついに第三試合で戦う二人の名前が画面上に大きく表示されたのだった。


「…………第三試合は、"ヒーティス・ハイスヴァルム"君と、"ウィンディ・スカイレーサー"さんに決まったーーー!!」




「うげげ!よりにもよって、あのヒーティスってやつが相手だなんて~~~…………」

「………………ウィン、頑張って!」

「いいですか?僕たちが教えたこと、忘れないでくださいよ?」

「わかってるよ♪じゃあ、いってきまーす!」


 ディスプレイに表示された二人の生徒が、これより激しい試合が行われるであろうフィールドへと足を踏み入れる。
 そして、ウッドランドが待つ中央付近に近づくや否や、ヒーティスは隠し持っていた魔道マイクを取り出すのだった。


「試合を始める前に、一言だけ言っておきたいことがある」


 いきなりのヒーティスの行動に演習場に居る誰もが驚き、騒めいていただろう。
 当然ながら、彼のその行動を不審に思う観客たちも少なからず居り、そんな者たちから口々に文句が聞こえてもいたのだ。
 しかし、ヒーティスはそんな事など気にも留めずと言った態度で、話を続けるのだった。


「我ら一組相手に、二人も倒すなんて正直言って驚いた。そして、認めようじゃないか、君たち七組の実力を!!」


 相変わらず、上からの物言いではあるのだが、それでもあのヒーティスが七組の力を認めたのは、かなり意外なことであった。


「だから、私も全力を持ってこの試合を制して見せる!"ハイスヴァルム"家の、誇りにかけて!!」


 ヒーティスの言葉に、観客たちによる歓声が湧き上がる。
 それにより、彼は殆どの観客を味方につけてしまい、観客席の至る所からヒーティスコールが鳴り響くのだった。


「…………すごい、歓声だね」

「まぁ、相手が相手ですからね」

「………………どう言うこと?」

「性格はどうであれ、一応アイツらハイスヴァルム家は貴族だからな」

「それに、ハイスヴァルム家と言えば"魔族侵攻"の時に、かなりの功績をあげた名家と聞きます」

「へぇ、詳しいじゃないかフリッド。まぁ、"八名家"である"プロヴィネンス家"には及ばなかったけど、中々の奮闘だったらしいぜ」

「そうなんだ」





「もう気が済んだかな?そろそろ、試合を始めたいんだが…………」

「ウッドランド教諭、お待たせして申し訳ありません。私は、いつでも始められます」

「わ、私も準備オッケーです!」

「わかった。では、これより第三試合"ヒーティス・ハイスヴァルム"と、"ウィンディ・スカイレーサー"の試合を行う!」


 ウッドランドが、これまでと同様に右手を上げる。
 すると、さっきまでヒーティスに歓声を送っていた観客たちも、試合が始まるその瞬間を静かに見守っているのだった。


「と言う訳だから、全力でいかせてもらうよ。ホウキ使いの"田舎者"くん!!」


 故意であるかどうかはさて置き、ヒーティスが言い放った"田舎者"という言葉を聞いた瞬間、ウィンは俯きながら震えだしたのだった。


「……………アイツ、さっき認めるとかなんとか言ってなかったか?」

「もしかして、無意識なんじゃ」

「やれやれ、天然って怖いですね」


 俯くウィンの周囲に、風の魔法が竜巻のように渦巻いている。
 そして、顔を上げた彼女は今まで見たことがないほど、怒りを露わにしているのだった。


「……………だ~~か~~ら~~、"田舎者"って言うな~~~!!!」





「───────始めっ!!」












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