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第3章 秘めし小火と級友の絆編
51.八名家と亀
しおりを挟む「"ナンバーズ"だか、なんだか知らないけど、この"ホウキ"のことを馬鹿にするのは許さないんだからっ!!」
先ほど、ウィンたちに絡んでいた男が未だ白目を向いたまま気絶している。
「ヒーティス様っ!?」
「しっかりしてください、ヒーティス様!!」
おそらくクラスメイトであろうか。同じ金色のネクタイをした男2人が、慌ててヒーティスへと駆け寄る。
「………くっ!貴様、よくもヒーティス様を!!」
駆け寄った2人のうち、背が低い黄色髪の男が激怒しながら右手に装着されている金色の腕輪をウィンに向ける。
やがて、その腕輪が雷属性特有の黄色いオーラで満たされると、次第に雷の魔法へと変わり、迸り始めたのだった。
「気を付けてください、バングル型の魔法具です!」
「遅い!………"スパーク・ニードル"!!」
ヒーティスを文字通りぶっ飛ばした張本人であるウィンに狙いを定めた黄色髪の男が、今まさに魔法を放とうとしたその時だった。
突然、その男の右手が上方向と向けられたと同時に、腕輪から放たれた雷の針が天井へと突き刺さったのだった。
「なっ………!?」
黄色髪の男は自分の右手が上を向いていることに混乱していた。
しかし、腕を誰かに強く握られている痛みに気付き、ふと右の方を見るとなんとファイが男の腕をしっかりと掴んでいたのだった。
「い、いつのまに!?」
「そんな危ない魔法を………俺の大切な"友達"に向けるな!!」
ファイは、男に向かってそう叫ぶと掴んでいる部分から炎が溢れ出したのだった。
「………ヒィッ!?熱っ!………は、離せ!!」
「ファイ!!!」
炎により熱がる黄色髪の男の悲鳴と、ウィンの呼び声によりファイは我に帰り腕を離す。
すると、男はその反動で尻餅をつきながら制服に未だ残っている炎を必死に消そうとしていた。
「………火が消えないっ!だ、誰か助けてくれ!!」
男が消火に手間取っていると、今度はまるで腕の燃えていた部分を包み込むよな氷塊が出現し、炎を消し去ったのだった。
「まったく、その程度の炎で騒ぎすぎなんですよ。なんなら、全身を氷漬けにしてあげましょうか?」
「なんだとぅ!?………おのれ~、よくもミエルをーー!!」
また仲間がやられてしまったのが余程悔しかったのか、今までヒーティスの具合を見ていたガタイのいい緑髪の男が、怒りを露わにしている。
普段なら、平穏無事な昼時の食堂で今まさに
、一触即発の険悪な雰囲気が流れている。
もしかしたら、次は怪我だけじゃ済まないかもしれない。誰もがそう思った、その時であった。
「────そこまでだ!!!」
食堂に、凛とした声が木霊する。
突如、聞こえてきた声にその場に居た者たちが一斉に静まり返る。
そして、声の方を振り向くと、ある一人の男子生徒が入り口の扉の前に立っていたのだった。
その男子生徒はまるで状況確認をするかのように食堂を見渡すと、どうやら騒ぎの原因がついさっきまでお互いに睨み合っていたファイたちと、ヒーティスの仲間のミエルたちであることを理解したと同時に、呆れたのか深いため息をこぼしたのであった。
「誰か、ハイスヴァルムを保健室に連れて行ってくれないかな?」
近くに居た数人の生徒に、気絶しているヒーティスを保健室へと運んでもらうように爽やかな笑顔で頼み終えたと思いきや、そのまファイたちの方へと向かってくる。
しかし、彼のその表情は爽やかな笑顔から一変して、真剣そのものと言った怖い形相であった。
少し長めのキャメル色の髪が特徴の美青年。
一見、体がか細く病弱そうに見えるのだが、その全く無駄のない一挙手一投足は、幼い頃からの修練の賜物であり、彼の纏っている雰囲気ですら品格が感じられる程だ。
先ほどのように、只々気取っていただけのヒーティスとは大違いである。
ふと彼の制服を見ると、右腕の上部には校章とはまた違うデザインの紋章が付けられているのだが、どうやら7つの六角形で象られている甲羅から長い首を出している亀のようで、その甲羅の下部には十字に輝く光のマークも描かれていた。
「確か、あの紋章は"八名家"の………」
「……………"キンバーライト家"」
「さて、一体どう言うことか聞かせてもらえないか?ミエル、ガスト」
美青年の生徒を前にして、そのあまりの威圧感に背の小さい黄色髪とガタイがいい緑髪の凸凹コンビがたじろいでしまっている。
「ち、違うんだ、リッド様!………アイツらが先にヒーティス様を!!」
「どうせ、ヒーティスが彼らに無礼を働いたのだろう?」
「それは、そうですけど………これじゃ貴族としての"誇り"が………」
黄色髪のミエルが不意に発してしまった"誇り"と言う言葉を聞いたリッドが、目の前の2人を鋭く睨みつける。
「………ヒィッ!?」
すると、睨みつけられたミエルとガストが蛇を前にした蛙の如く硬直し、また怯えるかのように青ざめた顔をしていた。
「この学園に身分制度などない!それに、本当の貴族であるならば、他の者たちの模範となるべきではないのか!?」
リッドの熱弁に、食堂に居た野次馬たちも共感したのか何度も深く頷いたり、歓声をあげたり、思わず拍手し始める者まで現れ、やがて野次馬たちによる拍手喝采の歓喜に包まれたのだった。
そんな野次馬たちなど興味がないと言った様子で、今度はファイたちの方へと歩き出すリッド。
そして、一番前に立っていたファイの目の前まで来たと同時に、その場で深く頭を下げたのだった。
リッドの思いもよらない行動に、驚いたのはファイたち7組のメンバーだけではなかった。先ほどまで青ざめた顔で俯いていたミエルやガスト、それにリッドに拍手を送っていた野次馬たちまで驚愕していたのだった。
「クラスメイトが無礼を働いて申し訳ない。この、"リッド・A=キンバーライト"が代わりに謝罪する。本当にすまなかった!」
「ちょ、ちょっと!!頭あげてよ!悪いのはあのヒーティスってやつなんだし、何もキミがそんなことしなくても………」
「そうはいかない。貴族として………いや、"八名家"である"キンバーライト家"の者として、ハイスヴァルムへの注意が足りなかった。これは、間違いなく僕の責任だ」
「………あー、もうわかったってば!もう、アイツが言ったことだって、何とも思ってないからさ!!」
「君たちにも、あの二人が迷惑をかけてしまったようだ。本当にすまない」
「俺たちは、別に嫌なこと言われた訳じゃないし、いいよ。それに、こっちだってヒーティスをぶっ飛ばしたりしちゃった訳だし、悪かったよ」
「………確かに、アレはちょっとやり過ぎだったんじゃないかな。個人的には、スカッとしたけどね」
ヒーティスが白目を剥いて気絶していたのを思い出したのか、リッドが必死に笑いを堪えている。
「うぅぅぅ~………言われてみれば、ほんのちょーっとやり過ぎだったかも………ごめんなさい」
「ハイスヴァルムには、キミが謝っていたと僕から伝えておく。それと同時に、今回の件について、しっかりと注意しておくと誓おう」
「頼むよ。えっと、キンバーライトさん」
「リッドでいいよ。出来れば、君たちとはこれから仲良くしてもらえると助かる」
「もちろんさ!俺は、ファイ・フレイマー。よろしくね、リッド」
ファイとリッドが固く握手を交わす。その後、残りの7組のメンバーを軽く紹介していった。
だが、そんな和気藹々の雰囲気の中で、どうにも納得がいかないのか、ミエルとガストの2人だけが悔しさを滲ませるような表情でファイたちを睨みつけているのであった。
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