1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-

丁玖不夫

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第3章 秘めし小火と級友の絆編

50.食堂とナンバーズ

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「おい、今朝のニュース見たか!昨日の夜、街に"ファントム"が出たらしいぜ!」

「見た見た!目撃情報によると、"センテュリオ"の方から現れたみたいだし、王国軍とやり合ったのかな?」

「でも、それならニュースで総司令官の"ギルバート・ガードナー"から何か報告がある筈だし、偶々城の方から来ただけだったんだよ」


 "クロノス駅"を出てすぐ目の前に現れる、そこそこ傾斜がある坂道。
 目的地である我らが学び舎、クロノス魔法学園を目指し、生徒たちが魔道テレビでやっていた朝のニュースの話などをしながら、次々とその坂道を歩いて行く。


「………ふぁああああ~~~」


 その中に、自慢の赤い髪に寝癖がついたままの状態で、眠そうにあくびをしながら歩くファイの姿があった。


「おっはよー、ファイ!なんだか眠そうだね」

「おはよー、ウィン。………実は、昨日あんまり眠れなかったんだよね」

「そーなんだ?もしかして、昨日のこと考えてたの?」

「まぁね。何とかしてフリッドの力になってあげたいけど、どうしたらいいのかなって考えちゃって」

「ファイって、ホント優しいよね!」

「そんなことないよ………ん?ウィン、足に小さい傷がいっぱいあるけど、またどこかで転んだの?」

「アタシ、そんな毎回転ぶほどドジじゃないよー!これは、"例の"飛ぶ練習でちょっと失敗しただけー」

「ってことは、やっぱり転んだんじゃん。それで、練習の成果はどう?」

「それが、全然………ファイにも手伝ってもらってるのに、なんかごめんね~………」


 いつも無駄に明るいウィンが、今回ばかりは珍しく落ち込んだ顔をしている。

 火事の事件以来、ウィンは高く飛ぶ練習を続けており、ファイも時々ではあるがその練習を手伝っているのだ。
 しかし、高く飛ぶ練習と言っても、いきなり高所から飛び降りる訳にもいかず、"自然区"にある公園で助走をつけながら飛んで徐々に高度を上げていくと言うものだった。
 だが、その練習も十分な助走距離が必要なため、周りに大勢の人が居る時は出来ないため主に早朝に行われていた。


「こう言うのは焦っちゃダメだよ。大丈夫、ウィンならきっと出来るから」

「うん!!ありがとう、ファイ♪」


 ウィンに、いつもの笑顔が戻る。
 そんな彼女の笑顔を見ると、まるでそれに釣られてしまうように、こちらも自然と笑顔になってしまう。
 ウィンの笑顔には、そんな不思議な力があるのかなと密かに思うファイであった。


「それでさ、ファイ。実は、週末にまた練習に付き合って欲しいんだけど、いいかな?」

「別に構わないけど….….…そうだ!それなら、いい考えがあるよ」









「なるほど。あの火事の裏で、そんなことが起きていたんですね」

「………………2人が無事で、本当に良かった」

「それで、フリッドとクランにもアタシの練習に付き合って欲しいんだよ!」

「もちろんですよ。僕にできることなら、喜んで協力しますよ」

「………………私も、手伝う」

「2人共、ありがとうっ!!」

「………おはようさ~ん。ホームルーム始めるから席につけ~」け


 不意に扉が開くと、いつにも増して眠たそうなレイヴンが7組の教室へと入ってくる。
 寝癖は至る所で立ち放題、ネクタイは緩んだままの状態で、更にはいつも着ているトレードマークの黒いコートは脇に抱えているのだが、床に引きずってしまっている始末。

 側から見れば、どう考えても教師とは見えない彼の酷い姿を目の当たりにして、ファイたちも思わず絶句してしまうほどであった。


「………え?え?先生、だよね?」

「一体、どうしたんですか………?」

「………ん?いや、別に何でもないぞ?それよりホームルームふぁじめふあぁぁぁ~~………」

「いやいや!最後あくびと一緒で何言ってるかわかんなかったから!」

「ねぇねぇ、クラン。先生、一体どうしちゃったの?」

「………………わからない。私が起きた時には、あの格好のままソファで寝てた」

「………"ちょっと"寝不足なだけだ。それに、俺は朝が弱いから余計に酷く見えるんだよ」



 確かに、朝に弱いことは今までの彼の様子を見れば分かっていたことであるのだが、明らかに"ちょっと"ではないその様子から、昨日の夜に何かあったんだなと、思わず察してしまう教え子たちなのであった。








「先生、午前中ずっと眠そうだったよね~」

「あまり寝てないみたいだったし、仕方がないんじゃない?」

「鐘が鳴るなり、急いでどこかへ行ってしまいましたからね」

「…………多分、今頃寝てる」


 ファイたち7組のメンバーが午前中の授業を終え、学園の廊下を先ほどのレイヴンの話をしながら歩いている。

 ここ、クロノス魔法学園では入ることを禁止されている場所や、衛生状態問題がある場所以外では、どこでも昼食を食べることができる。
 現にファイとウィンも、昼の時間は雨の日を除き学園の丁度中央にある庭で昼食を食べていたのだが、今日は4人揃って食堂の方へと足を運ぼうとしているのだ。

 クロノス魔法学園の1階にある食堂には、昼食時に多くの生徒で賑わう。
 しかし、そこそこ広く席も多いため、余程一度に生徒たちが集中しない限り、席を確保するのはさほど難しくなかった。


「あ、ここいいんじゃない?このテーブル広いし!」

「しかし、こう言うところで食べるのはちょっと新鮮ですね」

「フリッド、いつも教室で栄養食みたいな物しか食べてなかったもんね」

「本を読む片手間に食べられるし、尚且つ栄養も取れるので丁度良かっただけです」


 4人が席について、いざ昼食を食べようと思ったその時であった。

 突然、数人の生徒がファイたちが座るテーブルの周りに集まりだしたのだった。
 制服からして、間違いなく同じ"クロノス魔法学園"の生徒なのだが、ネクタイの色が煌びやかに存在感を示している金色であった。

 そして、その生徒たちの中から一人の男が、こちらに近づいてくるのだが、その男はまるで演劇で王子様か何かを演じているように悠然とした態度で歩いてくると、ウィンの目の前に来るや否やこう言い放ったのだ。


「ここは、我ら選ばれし"ナンバーズ"が使っている席だ。君たち、田舎者には相応しくないから違う席へ行ってもらえないか?」


 ファイは、その男が言った"田舎者"と言う単語を聞いた瞬間、実力試験の日に自分とウィンが周りからそんな風に言われていたことを思い出した。


「………田舎者?アンタ、今アタシのこと田舎者って言ったんだよね???」


 ファイは、恐る恐るウィンの方を見る。すると、テーブルの上にある彼女の拳が小刻みに震えており、正直今にも手を出しそうでならなかった。


「今どき、流行っていない"ホウキ"なんて使っているんだ。どうせ、最先端の流行も知らない田舎………」


 ─────バキッ!!!


 突然、すごい音がしたと思えば、ついさっきまでウィンに話をしていた男が壁に激突した後、そのまま床に倒れ込み白目を剥きながら気絶してしまっていた。

 一方ウィンは、手を伸ばしたようなポーズのまま止まっている。
 おそらく、さっきのはウィンが作った風の玉を相手の体のすぐ近くで破裂させることで発生した風が腹を直撃したため、男は勢いよく後ろの壁に激突してしまったのだ。


 本来、生徒たちの笑い声や話し声で溢れている筈であった昼時の食堂が、シーンと静まり返る。




「"ナンバーズ"だか、なんだか知らないけど、この"ホウキ"のことを馬鹿にするのは許さないんだからっ!!」



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