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第3章 秘めし小火と級友の絆編
41.退院祝いと担当医
しおりを挟む学園内に、綺麗な鐘の音が響き渡る。
現在、時刻は15時半を丁度回ったところであり、その鐘の音はここ“クロノス魔法学園“での授業の終了を示していた。
「……今日の授業はここまでだな」
「ふぅぅ~~~。今日もなんとか終わった~~~」
「アタシも疲れたけど、先生の授業久しぶりだったから、なんだか新鮮だったね♪」
「確かに、昨日までスティーリア先生が授業してくれてましたからね」
「お前たちにも迷惑かけて、本当にすまなかったな。でも、俺がいない間、寂しかったんじゃないか?」
「いえ、別に」
「なんで???」
「……あ、そう」
少しこの教室を留守にしていたせいか、可愛がってきた教子の態度が冷たく感じられるようになってしまったレイヴンなのであった。
「……俺は寂しかったよ」
しかし、その中でファイだけは違っていた。
「俺は先生が居なくて困ってたよ!」
「……ファイ、お前」
そう、ファイだけは一日千秋の思いでレイヴンの帰りを待ち続けていたのだ。そのファイのあまりにも真っ直ぐな気持ちに、レイヴンの目から思わず涙が溢れそうになってしまうほどであった。
「だって……だって、先生が放課後に鍛錬してくれないと物足りなくて困ってたんだよー!!」
「……へ?」
「やっぱり、毎日やってたからかな?ここ三日間の一日の終わりが寂しくて寂しくて」
「そ、そうか……」
ファイの予想外のその言葉により、レイヴンの目から溢れ落ちそうになっていた涙も一瞬で引っ込んでしまい、ただただ呆れるしかなかった。
「そう言うことで、出来なかった三日分の鍛錬お願いします!!」
「あー、張り切ってるとこすまんが、今日は無理だ」
「そ、そんなぁああああ~~~!!!!」
「それと、これからお前たちに付き合って欲しいところがある」
"国立インゲニウム総合病院"の一室の前に、ファイとウィン、フリッドの3人姿があった。その部屋の部屋番号の下には、“クラン・グランディール“と書いてあるネームプレートが貼られていた。
軽くノックをすると、中から小さな声で「どうぞ」と言う声が聞こえた。なので、横にスライドするドアを開けると、結構広めの個室の中でクランが退院のために着替えなどの荷物を整理しているところであった。
「クラン、久しぶり~!!元気してた~~??」
ウィンは、クランの姿を見るや否や傍に駆け寄った後、思いっきり抱きつく。そのウィンによる突然の激しい抱擁に、クランはとても驚いた顔をしていた。
しかし、ある程度状況を理解したのか、ほんの少しだけ柔らかい表情となって、こちらも負けじとウィンをしっかりと抱きしめたのであった。
「…………ウィン、久しぶりだね。…………心配かけてごめんね」
「いいよ!だって、アタシたち友達でしょ?」
「…………うん!」
そして、勢いよく突入していったウィンの後に、少々遅れる形で部屋に入ったファイとフリッドであったが、女の子が二人で抱き合っている尊さが溢れ出ている光景に若干の居心地の悪さを感じてしまうのであった。
「えっと……クラン、元気になってホントよかったよ」
「退院、おめでとうございます……」
「…………ファイもフリッドも来てくれたんだ。あれ、レイヴンは?」
「それが、学園を出ようとしていたら、タイミング悪く教頭に捕まってしまって」
「で、退院の手続きはしてあるから、みんなでエントランスで待っててくれって」
「…………そうなんだ」
「終わったらすぐ行くって言ってたから、きっともうそろそろ来るよ♪」
「…………うん」
クランの支度が済んだので、みんなで一緒にエントランへ向かっていると向こうの方から綺麗な花束を持った白衣の男が歩いてきた。
その男は、スタイルがよく高身長で、おまけにかなりの美形であるためか周りに居た女性たちから小さな黄色い声が飛び交っていた。
すると、ファイたちの目の前で立ち止まると、持っていた花束をクランへと差し出したのだった。
「退院おめでとう、クラン。元気になって本当によかったよ」
「…………ありがとうございます、先生。大変お世話になりました」
「君のためなら、どうってことない。あぁ、コレは私からの退院祝いと言うことで」
差し出された綺麗な花束をクランが受け取ると、男は爽やかな笑みを浮かべる。
その姿は見た感じ好青年そのものであるが、目の奥は決して笑っておらず不思議な雰囲気を漂わせていた。
「クラン、この人は???」
「…………この人は、私の担当医で…………」
「……ハロルド・グラース」
それは、初対面であろうファイたちのために、クランがその男の紹介をしようとした矢先のことである。
なんと、一番後ろを歩いていたフリッドが、鋭い目つきで男を睨みながら、その名前を呟いたのだ。
「ん?フリッド?なぜ、お前がここに……あぁ、そう言えばクランと同じクラスだったか」
ここに、フリッドが居ることを疑問に思いながら、男は首を傾げる。しかし、その疑問に対する答えを既に持っている事を思い出したのか、早々と自己完結してしまった。
「こうして話すのも、2週間ぶりですね……"ハロルド兄さん"」
「え、"兄さん"ってことは……」
「も、もしかして、フリッドのお兄さんっ~~!?」
白衣の男は驚くファイとウィンの反応を見ると、爽やかな笑みを浮かべた。
鮮やかな空色の長い髪は、まるでエステにでも通っているかのように艶があり、さらにサラサラで後ろ姿だけ見たら女性と間違えてしまいそうなほどである。
白衣の下は、薄い紫色のシャツを着ているのだが、前のボタンの上から3つが留まっておらず、胸元の一部が露わになっており変な色気が醸し出されている。
「改めて自己紹介をするとしよう。"ハロルド・グラース"だ、いつも弟がお世話になっている」
「い、いえ!僕たちもフリッドにはいつも助けられてますから!」
「でも、まさかフリッドのお兄さんがお医者さんだったなんて知らなかったよね~」
「残念だが、私は医者ではない。一応、医師の資格は持ってはいるがね」
「え?でも、さっきクランが担当医って……?」
「あぁ、それはクランが使っている“魔道医療機器“を作ったのが私だからだ。なにぶん、複雑な機器でね、困ったことに私以外の人では動かせなくてね」
「じゃあ、お兄さんって“技術士“の人なんだ?」
「いや、私は……」
「そんなことより、兄さんっ!!」
突然、フリッドが大きな声を出してハロルドの言葉を遮る。普段からあまり大声など出すことがない“冷静“なフリッドが、こんなにも荒っぽくなるのは珍しいことである。
しかし、その様子は“あの時“の感じと似ていた。
そう、クランが“巨大な黒い腕“を出した後に、その黒い腕の真実を知るレイヴンを問い詰めようとした、"あの時"である。
「クランに兄さんが関わっているって言うことは、兄さんもクランの秘密を知っているんですね?」
「フリッド、それは先生から……」
「そーだよっ!先生から頼まれたじゃん、クランから話してくれるまで待とうって!!」
「…………え?…………どういうこと?」
「………すみません、クラン。さっき、ウィンが言った通り、“あの時“クランに起きたことを先生に聞こうとしたら、クランから話してくれるまで待ってくれと言われました」
「…………そう、なんだ………」
フリッドから告げられた真実に、クランは納得がいっていないようであった。それもその筈である、なにせ自分の知らないところで、自分の事についてそんな約束がされていたのだ。納得できないのも当然である。
「僕も、それでいいと思ってました。……でも、兄さんが関わっているのなら話は別です!」
「どう言うこと……フリッド?」
フリッドは、熱くなる感情を必死に抑えようと一度だけ深呼吸をする。その様子は、心を落ち着かせると同時に、まるで覚悟を決めたかのようなそんな顔であった。
「それは……兄さんの知っているクランの秘密が、僕にも関係があるかもしれないからです!!」
真剣な眼差しでハロルドを睨みつけるフリッド。
しかし、当のハロルドはと言うと、そんなフリッドの突き刺すような視線をもろともせず、生意気な弟の発言を聞き流しているかのように、口元を僅かに緩ませた小さな笑みを浮かべるだけであった。
「さぁ、答えてもらいますよ。兄さん!!」
「……フリッド、お前には昔から言っているはずだ。『得たい真実があるのなら強請るな、強さを持って勝ち取れ』と」
「……いいでしょう。勝負です、兄さん……いや、“ハロルド・グラース“!!」
この時、ファイはこう思ったのであった。
これから繰り広げられるであろう、この"壮大な勝負"からは、波乱の予感しかしないのだ、と。
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