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第2章 秘めし小火と黒の教師編
27.階級とギルド
しおりを挟む「お前たちの"選定理由"は2つある」
「………2つ?」
王都の北門から数10メートルだけしか離れていないのにもう周囲が岩だらけの道の真ん中で、レイヴンが目の前の生徒たちを見つめている。その顔は真剣で、いつも気怠そうな彼にとっては時々しか見せない貴重な瞬間であった。
「1つは、大きな魔力を秘めていると言う所だ。当たり前だが、魔道士にとって魔力は強力な魔法を放ったり、魔法を連続で使うためにも必要不可欠だ」
「………大きな魔力」
「魔力の量は生まれつきの、所謂“才能“によるところが多いが、鍛錬を重ねれば魔力を増やすことだってできる。だが、元から大きな魔力を持っているお前たちはそれが必要ないってことだ」
「ちょっと待ってください!先ほどから僕たちの魔力が大きいとか何とか言ってますが、その人の魔力量なんて普通の人には見えないはずですよ?」
普段なら冷静なフリッドが、やや興奮気味に担任であるレイヴンに反論している。いつも教室で聞く大人しい彼のものとは思えないその声の大きさに、クラスメイトであるファイたちも驚いていた。
「あー………確かに、魔力は普通の人には見えないな。だが、俺には何となくわかるんだよ」
「何となくって………それじゃ説明になってません!」
「まぁ落ち着けフリッド。とりあえず、1つ目はお前たちが他の奴らより大きな魔力を秘めていたことだ。どうやってそれを知ったかは、いずれ教えてやるさ」
「それで、2つ目は~?」
「2つ目は、その大きな魔力を全然扱いきれてない未熟な奴ら。その2つが当てはまったのがお前たち4人だったってことだ」
「ちょっと待ってください!」
「………どうした、フリッド?」
「僕は、僕自身の魔力を扱いきれてないなんて一度も思ったことはありません」
「………フリッド、それはお前の腰に着けている“ソレ“についても、同じことが言えるのか?」
「!!!」
フリッドがまるで、それを奪われないよう必死に守るかの如く慌てて腰の後ろに付けている荷物を手で抑えた。
そして、この中でフリッドしか知り得ない“秘密“を、なぜか知っていると思われるレイヴンに対して警戒し始めたのだ。
どうやらその荷物は分厚い本のようで、その本に付けられている皮で作られたカバーが腰のベルトに装着されていた。
「………なぜ、“コレ“のことを?」
「さっき言ったろ?何となくわかるんだって。それに、俺は“ソレ“を奪ったりしないから安心しろ」
フリッドは少し考えた後、一度深呼吸をして心を落ち着かせた。そして、荷物を庇うように抑えていた手を離し、さらにレイヴンに対しての警戒心も緩めていた。
「どうやら、魔力の大きさが分かると言うのは強ち嘘ではないようですね」
「まぁな。さて、そろそろ立ち話はやめて向かうぞ。他に何か聞きたいことがあるなら、歩きながら答えてやるよ」
レイヴンはそう言うと、進むのが途中だった道をまた歩き出した。そして、ファイたちもレイヴンの後を追うように歩き始めたのであった。
「聞きたいことって言われても、アタシはないかなぁ。ファイは?」
「………実は、俺も先生に聞きたいがあるんだ」
「ほぅ。それは一体どんなことだ、ファイ?」
「この“遠足“の本当の目的って何なの?ただの野外学習じゃないんだよね?」
「なぜそう思うんだ?」
「俺の下宿先の主人が、遠足に持ってくるように言われた物を知った時に、何かわかった素振りだったから。それに、俺の宿題の件だって関係あることなんだよね?」
「………なるほどなぁ。どうやら、その下宿先の主人は只者じゃないみたいだ。ファイの言う通り、この“遠足“はただの野外学習じゃない」
ファイの推理により半ば観念したのか、レイヴンがこの“遠足“についての真実を語り始めた。
おそらく、本人はもう少し秘密にしておいて生徒たちを悩ませたかったのだろう、こんなに早くバラすことになってしまい心なしか残念そうな様子であった。
「その前に、お前たち。この前やった魔道士の"階級"についての授業を覚えているか?」
「えっと………確か俺たちが"見習い魔道士"でFランクで、その次が………」
「違うよ、ファイ。FじゃなくてEじゃなかった?それで、次が初級魔道士でDランクじゃなかった?」
「ファイ、ウィン………お前ら、ちゃんと俺の授業聞いてるのか?クラン、わからないファイとウィンに教えてやってくれ」
レイヴンによって指名されたクランだったが、面倒なことを押し付けられ明らかに嫌そうな顔をしている。そして、その押し付けた本人を、とても不機嫌そうに睨みつけていた。
「…………魔道士の“階級“は、私たち“見習い魔道士“がD、“初級魔道士“がC、“中級魔道士“がB、“上級魔道士“がA、“特級魔道士“がS、“賢者“がSS、“大賢者“がSSS………わかった?」
「お~、流石クランだね~」
「うん、お陰でバッチリわかったよ。ありがとう、クラン」
「…………ん」
「じゃあ、次に“ギルド“については知ってるか?」
「“ギルド“?………全然分からないや」
「………僕も名前くらいは聞いたことはありますが」
どうやら“ギルド“については4人全員が知らないようで、互いに顔を見合わせては何だろうと首を傾げていた。
「まぁ、知らないのも無理はないな。“ギルド“ってのは、依頼主からの“依頼“を元に“傭兵“を派遣する機関のことだ」
「それで、その“ギルド“がどうしたんですか?」
「さっきクランが説明してくれた“階級“の、Cから上の魔道士は“ギルド“が扱っている“依頼“を受けることができる資格があるんだよ」
「へぇ。そうなんだ~」
「だから、その“ギルド“が一体どうしたって言うんですか!」
「…….…もしかして、この“遠足“って」
当たっているかは自信はない、だがおそらく確信へとたどり着いたのであろうファイのその言葉に、レイヴンはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「そうだ。この“遠足“の本当の目的は、俺が“ギルド“から受けた“依頼“をこのメンバーで達成させることだ」
「まだ、“見習い魔道士“のアタシたちが一緒に“依頼“を受けて大丈夫なの?」
「心配ない、一応理由は“ギルド“に話は通してあるし。それに特別にそんなに難しくない“依頼“を回してくれたからな」
「ちなみにどんな内容なんですか?」
「あぁ、ここからちょっと離れた所にある“サーブル“って言う町からの“依頼“でな。なんでも、その村の周辺で野生の獣が凶暴になってるらしく、その原因を調べて欲しいそうだ」
「凶暴化した獣ですか………」
「とりあえず、その“サーブル“の町に向かうぞ。そこに居る依頼主から、色々情報を聞かないといけないしな」
“遠足“の本当の目的が判明した7組一行は、依頼主が居るとされる“サーブル“と言う町を目指して歩みを進めたのであった。
しかし、この先でファイたちを待ち構えている恐ろしい敵の存在を、今はまだここに居る誰もが知る由もなかった。
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