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第2章 秘めし小火と黒の教師編
26.技名と遠足
しおりを挟む「え?ファイさんたち、明日遠足なんですか?」
「はい。遠足って言っても野外学習みたいなものらしいです」
「へぇ。アンタの担任の先生、中々面白いね」
今日の朝、担任であるレイヴンに明日の朝から遠足に行くと言われてから結構な時間が過ぎ、今はファイの下宿先になっている"燈のランプ亭"でファイ、フラウ、カルラの3人が早めの夕食を取っているところであった。
ランプ亭には、夜になると平日でも多くの人が食事やお酒を飲みにやってくるので、こうしてゆっくりできるのも夕方の今の時間帯だけなのだ。
「面白いって言うか、ちょっと変わってますよ。明日の遠足だって今日いきなり決まって、おまけに俺にだけ変な宿題出したりするし」
「変な宿題、ですか?」
「それってどんな宿題なんだい?」
「それが、俺の使う魔法に名前が付いてないから、明日までに名前を付けて来いって言うよく分からない宿題なんですよ」
「確かに変な宿題ですね」
「ですよね?技に名前が無くたって、ちゃんと出るから俺は別に無くても大丈夫だと思うんですけど」
「うーん、私はそうは思わないかな。技にもちゃんと名前を付けてあげないと、ここぞって時に本領を発揮できないもんなのさ」
2人より早めに食事を済ませたカルラが、食後のコーヒーをゆっくりと味合うように飲んだあと、コーヒーがまだ半分ほど残っているカップを静かにテーブルに置いてそう答えた。
「………って、知り合いに聞いたことがあってね。それに、技の名前を叫んだ方が普段抑えられてる力とかが出そうだしね。ちなみにどんな技なんだい?」
「えっと、剣に魔力を付与して思いっきり振って赤い炎の斬撃として飛ばす技なんです」
「………へぇ、それ誰かに教えてもらった技なのかい?」
「いえ、村に居た時に自分で編み出した技です。俺、手のひらとかである程度の時間魔法を維持させるのが苦手で。たまたまこの方法でやったら出来たんです」
「なるほどねぇ、自分で考えた技なら尚更名前をつけてやらないとね」
「うーん………何かしっくりくる名前ないですかね?」
ファイが難しい顔で考え始めたのだが、どうやら本当に何も浮かばないので困ったと言う顔でカルラに助けを求めていた。
そんなファイに、カルラは少々呆れたと言った様子なのだが、頼られているのが嬉しいのかとても優しげな表情であった。
「じゃあ、“烈火刃“なんてどうだい?」
「"烈火刃"………うん、すごくいい名前です。響きが気に入りました」
「それはよかったね。実はこの技は私の知り合いが昔使ってだ技なんだ」
「………え。じゃあ、勝手には使えないですね」
「いや、その人はもう使わないだろうし、大丈夫だと思うよ」
「そうですか。なら、遠慮なく使わせてもらいますね」
余程気に入ったのか、ファイはいつか来るであろうその名前を叫びながら技を繰り出す瞬間をイメージするかのように、何度も“烈火刃“と言う技の名前を小さな声で繰り返し唱えていた。
「でも、その先生。なんで明日までに技の名前を決めて来いだなんて宿題出してきたのかなぁ」
「確かに。………ファイ、明日の遠足に持っていく物とか何か言われなかったかい?」
「そう言えば、傷薬と携帯食料、あと解毒薬とかも出来れば準備して来るようにって言われました」
一応、ファイは帰ってくる途中の市場で、何故か傷薬と食料のまとめてあるセットが売られていたのでそれは購入できたのだが、解毒薬だけはどこを探しても見つからず用意出来なかったのだ。
「ははーん、そう言うことね。だったらそのファイの宿題も納得がいくわね」
「え?カルラさん、どう言うことですか?」
「まぁ、明日の遠足に備えて今日は早めに寝ることね☆」
そう言うとカルラは、そろそろ客で賑わうであろう店で出される料理の準備のために厨房へと向かっていった。
「よし、全員揃ってるな」
時刻は朝の6時ジャスト。早朝ということもあり、学園の前の道を歩いている人は誰もおらず、ただ門の前に5人の姿だけがあった。
一番遅く来たのは担任のレイヴンで、おそらく集合時間まで学園に居たのであろう、中から門を開けて7組のメンバーの待つ外へに出てきたのだ。
「よし、じゃあこれから7組の野外学習。もとい“遠足“に出発するぞ」
レイヴンを先頭に、ファイたちが1列となってクロノス魔法学園の前にある坂道を登っていく。この坂道はクロノス魔法学園へ列車で通う生徒なら必ず通る通学路であり、ファイも先ほどこの道を通って学園へ来たのである。
「この道を通るってことは、列車を使うんですか?」
「あぁ、そうだ。列車で北にある自然区へ向かう」
「なんだぁ、じゃあ目的地は自然区ってこと~?」
「さぁ、どうだろうなぁ」
まるで、正解を言わないで楽しんでいるかのような大人気のないところが偶にあるレイヴン。
そんなレイヴンが浮かべる不敵な笑みに、ただただ不安でしかなかった4人なのであった。
そして7組の一行は、北の自然区にある"ノルト駅"へと到着する。
"ノルト駅"は、王都フラッシュリアの北門の最寄駅であり、北側から王都へ入る者にとっては一番最初に立ち寄る駅である。
「よし、じゃあこのままとりあえず北に向かうぞ」
「………ちょっと待ってください。まさか、王都の外へ向かうんですか?」
「あぁ、そうだ。言ったろ?遠足だって」
「もしかして、歩いてじゃないよね?馬車とか使うんだよね?」
「馬車使うんじゃ遠足にならないだろう?それと、ウィンはホウキでの移動も禁止だからな」
「そんなぁ~~~!!!」
本来なら、ファイが王都に来た時のように門を潜るには通行証が必要なのだが、予め王都の外に出るための手続きをしていたのであろう、門の警備員と少し話しただけですんなりと外へと出ることが出来た。
「さて、早く行くぞ。あんまりのんびりしてると、今日中に王都に戻れなくなっちまうからな」
「………そんなに遠くまで行くの?」
「いや、遠くはないんだがちょっと"色々"あるんだよ」
そのレイヴンの"色々"と言う言葉に、多少の不安を覚えながらも、行先もわからない目的地へと歩き出したファイたちであった。
しかし、その中でいつもと様子が違う者が1名だけ居た。
普段の彼は、常に冷静沈着な態度で、何事にも動じることがなく、的確な判断力がある7組一のキレ者なのだが、先ほど門の外に出てからと言うもの周囲を警戒しすぎて、終始落ち着かない様子であった。
「ん?フリッド、どうしたの?」
「………いえ、実は王都からあまり出たことがないので、少し落ち着かないだけです」
「え!そうなの!?ちょっと意外~」
「そうですか?まぁ、生まれも育ちも王都なので仕方がないじゃないですか。特に外に出る必要性もないですし」
いつもみたいに冷静さを保とうと、皮肉混じりの言葉で強がってはいるのだが、周囲に対する警戒心が激しく明らかに挙動がおかしかった。
「………それより、僕は先生に聞きたいことがあります」
「ほぅ、改まって一体俺に何が聞きたいのかな?」
「それは、僕たち7組メンバーの"選定理由"です」
フリッドの言葉に歩みは止めずに黙って聞いているレイヴン、しかしその表情は授業の時のような真剣な表情であった。
「以前、ウッドランド先生から聞きました。僕たちはレイヴン先生が選んだのだと。だから、その"選定理由"を知りたいんです」
「………確かに、お前たち4人は俺が7組に選んだ。よし。いい機会だし、そろそろ教えといてやるか」
レイヴンは突然足を止め、すぐ後方を歩いてくる教え子たちへと振り向き、そして真っ直ぐ見つめてこう言った。
「お前たちの"選定理由"は2つある」
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