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食べ物が、ない
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強盗に刺されて死んだ汚部屋製造機の私が、身勝手な女神の手で転移してきたのは地下深くのダンジョンだった。
手に入れたチート能力は[整理整頓]。部屋を片付けられる力がほしかった。普通の、当たり前の、陰キャでコミュ症で性格最悪の私でも、部屋さえキレイなら人間として生きていてもいいと思った。
地下のダンジョンで、命令通りに整理整頓できる私は、どうやら最強らしかった。それが何を意味するのか、今の私にはまだわからない。
けれど、私をこんな暗くて寒くて何もないところに置き去りにした女神にだけは、いつか復讐出来る、そんな気がした。
「おなかすいた」
当面の問題は、空腹だった。
床に転がっているライオンの首が、白目をむいて口を開けている。象牙色の牙の間からだらりと伸びた舌は、赤紫色だ。
その奥に横たわる、腹の裂けた巨大ナメクジは、黄色いぶつぶつの浮かんだ薄緑の脂肪を垂らして、ぬるぬると粘液を吐き出している。
とてもじゃないが、食べられる気はしない。
喉も渇いたが、岩壁の表面にじむ水を口にするのは怖かった。
「きれいな水があればいいのに……」
と、言葉にして気付いた。
もしかしたら、水を整理整頓すれば、不純物を取り除いて飲めるようになるのでは?
私は床の溝の水たまりを見つめた。
「飲めるくらい清潔で安全な水になれ」
すると、思いもよらない事が起こった。
言葉をかけた水はふるえて、まず大きなゴミが周囲に飛び出した。
苔や、虫や、得体の知れないドロドロが、水から分離されたようだった。
しばらく見ていると、震えはいっそう大きくなって、水は次第に宙に浮き始めた。
なるほど、確かに床に触れている状態では、飲めるくらい清潔で安全とは言えない。
目の前に浮かんだ水は透明で、見た目には不純物も浮かんでいない。清潔で安全という言葉が完璧に作用しているなら、病原菌などのたぐいも排除されているはずだ。
確認することは出来ないが、自けれど、私はもう我慢ができなかった。
宙に浮かんだ水の塊に顔を突っ込むと、ごくごくごくと飲み干した。ぶるぶると震えていた水が、喉から腹に入っていく。
異世界に来てから、初めて飲む水だ。何の味もしないけれど、ただ冷たくて、おいしい。
渇いていた体に水分が補給されたからなのか、忘れていた感情があふれだして、私は泣いていた。
嬉し涙だった。
たぶん、生きていた頃よりも、もっと、私は生きていた。地下の薄暗いダンジョンに、私の啜り泣く声がこだました。
手に入れたチート能力は[整理整頓]。部屋を片付けられる力がほしかった。普通の、当たり前の、陰キャでコミュ症で性格最悪の私でも、部屋さえキレイなら人間として生きていてもいいと思った。
地下のダンジョンで、命令通りに整理整頓できる私は、どうやら最強らしかった。それが何を意味するのか、今の私にはまだわからない。
けれど、私をこんな暗くて寒くて何もないところに置き去りにした女神にだけは、いつか復讐出来る、そんな気がした。
「おなかすいた」
当面の問題は、空腹だった。
床に転がっているライオンの首が、白目をむいて口を開けている。象牙色の牙の間からだらりと伸びた舌は、赤紫色だ。
その奥に横たわる、腹の裂けた巨大ナメクジは、黄色いぶつぶつの浮かんだ薄緑の脂肪を垂らして、ぬるぬると粘液を吐き出している。
とてもじゃないが、食べられる気はしない。
喉も渇いたが、岩壁の表面にじむ水を口にするのは怖かった。
「きれいな水があればいいのに……」
と、言葉にして気付いた。
もしかしたら、水を整理整頓すれば、不純物を取り除いて飲めるようになるのでは?
私は床の溝の水たまりを見つめた。
「飲めるくらい清潔で安全な水になれ」
すると、思いもよらない事が起こった。
言葉をかけた水はふるえて、まず大きなゴミが周囲に飛び出した。
苔や、虫や、得体の知れないドロドロが、水から分離されたようだった。
しばらく見ていると、震えはいっそう大きくなって、水は次第に宙に浮き始めた。
なるほど、確かに床に触れている状態では、飲めるくらい清潔で安全とは言えない。
目の前に浮かんだ水は透明で、見た目には不純物も浮かんでいない。清潔で安全という言葉が完璧に作用しているなら、病原菌などのたぐいも排除されているはずだ。
確認することは出来ないが、自けれど、私はもう我慢ができなかった。
宙に浮かんだ水の塊に顔を突っ込むと、ごくごくごくと飲み干した。ぶるぶると震えていた水が、喉から腹に入っていく。
異世界に来てから、初めて飲む水だ。何の味もしないけれど、ただ冷たくて、おいしい。
渇いていた体に水分が補給されたからなのか、忘れていた感情があふれだして、私は泣いていた。
嬉し涙だった。
たぶん、生きていた頃よりも、もっと、私は生きていた。地下の薄暗いダンジョンに、私の啜り泣く声がこだました。
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