汚部屋製造機の私が異世界で最強のダンジョンマスターになってムカつくやつらをギタギタにする

あつのさの

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逃げ道が、ない

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 ドアの鍵は閉めたはずだった。それなのに、ドアノブがぐるりと回って、きい、と鉄の扉が開く。油なんてさしてないから、不快な軋む音がきぃーーーーと部屋中に響く。
 私は真っ暗な部屋の奥に積み上げられた、洋服と紙とゴミの山の一角に背を預けて、ドアの方を見た。

 パーカーを着た大柄な影が、のそりと部屋に入ってくる。がさ、ぱき、みし、くしゃ、からん。床に転がったさまざまなものが、踏まれたり蹴られたりするたびに音を立てる。

「あれ、なんだ、電気止まってんのか?」
「はい」

 男の独り言に、思わず返事をしてしまう。パーカーの男はビクッと立ち止まり、音の出所を探っているようだ。
「あの、ここ、私の(家で)、あの、(勝手に入って来られると)困るんですけど」
 私は横たわったまま、姿勢を起こそうとしてゴミの中に手を突っ込む。がしゃがしゃぱきみし。ぬる。食べた後に放置していたパスタの空き容器に指が触れる。

「ここに住んでる人?」

 懐中電灯の光が私を照らす。

「すごいね、ゴミ屋敷だ、いや、アパートだから汚部屋か。うっわ、きったねぇ……あ、わかってると思うけど騒いだら殺すから」

 脱ぎ捨てた服、洗っていない洗濯物、何かを持ち運ぼうとして買った何らかの袋、ゴミ、送られてきた支払いの書類、ゴミ、壁ぎわにうずたかく積み上げられた空き缶、空きペットボトル、ゴミ、空き容器と洗ってない食器が腐ってるシンク、ゴミ、ゴミ、ゴミゴミゴミ。

 私のゴミクズな人生が、空き巣の懐中電灯で照らされている。電気の止まった部屋で。

「なんで電気止まってるの」
「料金を、(払い)忘れてて」
「金ないんだ?!」
「いえっ、お金は、あっ、ある」
「あっそう!だったら出してよ。抵抗したら殺す」
「あ、はい」

 つまり、こいつは空き巣泥棒で、電気のついてない私の部屋を荒らそうとして侵入、部屋主の私がいたので強盗にクラスチェンジして、いま私を脅しているというわけだ。そんな犯罪者に敬語を使う自分が心の底から嫌になる。
「あの、財布が……どこかに……」

 バイトから帰ってきて家の電気が止まっていて、絶望して服を脱ぎながらゴミの中に身を埋めたので、財布の在処がわからない。ベランダの窓は積み重なったゴミが邪魔で開かない。ドアへ行く道は強盗が塞いでいる。
 逃げ道が、ない。
 なんとかゴミの中から身を起こし、私は悪党に背を向けて、脱いだ服を探した。

 見つからない、額から汗が流れて目に入る。泣きたい。
 見つからない。
 ザグッ
 背中にズッと熱い刃物が入ってきたのがわかった。

 刺されたのだ。

「あー、もういいや、テキトーに探すから、死んでてよ」

 さっ、さっ、さく、と何度も何度も熱い痛みが背中と肩とお尻を往復する。息ができない。力も抜けていく。あふれだす血が足元を濡らしていく。
 床に積んだ本、マンガ、汚してしまうのがとても、悲しい。
 自分が死んでしまうことには、あまり感情が追いつかなかった。
 ただ、意識を失う前に聞こえたクソ野郎の言葉だけは、きっと死んでからも忘れない。

「人間の住むとこじゃねーな、巣だよ、なんかの巣」

 そして、私はゴミの中に沈んでいった。


 意識を取り戻すと、ゴミも何もないきれいなつるんとした床の上で私は目を覚ました。明るい。何もかもがぺかぺかと明るくて、軽い。見上げると、巨大な大聖堂の真ん中に私は寝転んでいた。

「ようこそ、生々流転委員会へ!私が転生・転移の部屋担当女神、ルルールル・ラララー!あなたはもう一度だけ、やり直しの機会を得ることが出来ましたァ!」

 キンキンと耳に響く鈴のような声が、広い大聖堂の中に響いた。あまりに広く、空っぽで、何もない。
 私が怯えながら手足を縮めて胎児のポーズになると、声の主が顔を覗きこんできた。白い肌に銀髪の美少女で、青いクリスタルの埋め込まれた白い布を体に巻き付けている。いや、布が体の周りに浮かんで回転している?
 なんかこれ、異世界ってやつか?

「聞こえてます?もしかして意識だけ置いてきた?おーい!」
「あっ、はい、えっと、あの」
「ああ、良かった!あなたは元の世界で不幸なことに死んでしまったんです。でも、安心してください!わたしたち生々流転委員会は、不幸な魂へのセカンドチャンスを提唱しています! 新しい人生に臨むことは何ですか? やり直したいことはありますか? なんと今回の転生・転移では、あなたが望むチート能力をプレゼント! さあ、お答えください。あなたが出来なかったことを、新しい人生で成し遂げましょう!」

 死ぬ前の人生が、走馬灯のように脳裏に蘇った。ゴミ溜めのような部屋、なくした大切なものたち、自分の人生。やり直せるなら、部屋を片付けたい。普通の人生を送りたい。

「あ、あの、えと、整理整頓」

ファンファーレが鳴り、ピカピカと照明がまたたき、目の前に大きなゴシック体で「整理整頓」の文字が浮かび上がった。

「おめでとうございます!それでは最高のセカンドライフを!新しい世界へレッツゴー!!」

ジェットコースターに乗って、私の魂は新しい世界とやらに飛んでいった。さようなら、汚部屋、捨てられないゴミたちよ、私はきれいな部屋で普通の人生を過ごす!


そして二度目に目覚めると、そこは薄暗くかび臭い、地下ダンジョンの底だった。
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